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旅は楽しいことばかりじゃない。だけど、

原付でゆく北海道の旅23日目、カモメの声で目を覚ます。この函館のライダーハウスには2泊3日でお世話になった。今日は出発の時だ。

▼前回までのあらすじ


雨に打たれる無職とリトルカブ

ライダーハウスの人たちに別れを告げて、まずはハセガワストアへ。お目当てはもちろん愛しのやきとり弁当だ。タレと迷ったが結局塩を注文し、この旅最後のやきとり弁当をゆっくりと味わう。ああ、やっぱり蟹よりウニよりこれが一番おいしい

今日は登別温泉へ向かう。泉質も町並みもよく知らないが、昔クレヨンしんちゃんで出てきたのを思い出してなんとなく行ってみる。

途中で雨が降ってきて、小雨から一気に本降りへと変わった。体はレインコートに守られているからいいものの、問題は手だ。手袋に雨が染み込んできて、濡れた手袋が風に冷やされてめちゃくちゃ冷たい。気が狂いそうなほど冷たい。

同世代の子たちが結婚だ昇進だと着実に人生の駒を進める中で、働きもせず50ccバイクで北海道を走り回って、雨でびしょびしょになって凍えて、まったく私は何をやっているのだろう。でも、こんな人生がお気に入りだ

寒くてどうしようもない時の対処法

北海道に来てから「さむい しぬ」と思う場面が何度もあった。主に運転中である。筋力をほとんど使わないバイクは、体が温まりにくいうえに風を強く受けるため、体温がどんどん奪われてしまう。

そんな時に私がとっていた行動は「即興のオリジナルソングを歌う」こと。もう着込むものがない状況では、なんとかして「寒い」という思考から気を逸らすしかない。とはいえスマホをいじることはできないので、私は奇妙なオリジナルソングを歌っていた。

そうすることによって、「キモすぎるオリジナルソングを歌う自分」にピントが合う。強制的に「寒い」という感情を「キモい」で上塗りするのだ。音程も内容も奇怪で本当にひどいので、あまりにキモさに寒さをも忘れることがある。

これが今回の旅で身につけた、寒くてどうしようもない時の対処法だ。うっかり防寒具を忘れてしまった時はお試しあれ。

霧に包まれた登別温泉へ

登別温泉に到着する頃には、雨は霧に変わっていた。温泉街のいたるところに硫黄の香りが立ち込めている。

登別地獄谷の景色は圧巻で、曇天がさらに幻想的な雰囲気を演出している。冷えた体を温めようと、遊歩道をゆっくり歩き始めた。

一通り地獄谷を巡ったもののなかなか体が温まらないので、早々に温泉へ向かうことにした。髪を結い、体を洗い流してから、ドバドバと湧き出る硫黄泉へGO。肩まで浸かった瞬間、思わず「あぁぁあ〜」と声が漏れる。やっぱり温泉は、この上ない至福だ。

ぽてぽての柴犬と過ごす最後の夜

今日は北海道で過ごす最後の夜。旅の締めくくりをどんな場所で過ごそうか迷っていたところ、白老町にある柴犬のいる宿「ゲストハウス 暖」が目に飛び込んできた。

宿泊料金は素泊まりで1泊3,200円。ほぼ毎日1,000円以下で泊まっていたので高く感じてしまったが、全然普通に安い。水商売と北海道は金銭感覚を麻痺させる。

宿に到着すると、もちもちの柴犬が迎え入れてくれた。彼の名は暖(だん)。このゲストハウスと同じ名前だ。

リビングの畳にぽてっと横たわる暖のお腹を撫でる。ふさふさで温かい。久しぶりに動物の温もりを感じて、心までじんわりと温まった。

オーナーに今日までの旅の話をしたら、「いい旅をしたねぇ」と言ってくれた。私も、本当にいい旅だったと思う。

旅は楽しいことばかりではなくて、落ち込む日もあれば、考えすぎて眠れない夜もあった。寒かったり怖かったりお腹が空いたり、決して快適な旅ではなかった。なぜこんな修行のような旅をしているのかわからなくなったこともあった。

でも自分の頭と体をフルに使って前に進む日々は、最高にワクワクしてドキドキして、思わず叫びたくなるほどに心が踊った。言葉を失うほど美しい景色に出会った。一生忘れない人との縁もあった。毎日すっぴんで、時には3日間お風呂に入らないこともあったけれど、そんな外から見たらキラキラじゃない旅が、私の心の中をキラキラと輝かせていた。

さあ、明日は北海道旅の最終日だ。旅はまだ終わらない。ふかふかの布団でぐっすり眠って明日に備えよう。


―next―


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おさつ
一緒に旅をしている気分で読んでいただけたら、この上なく幸せです。