旅人よ、孤独であれ。【北海道旅15日目】
原付でゆく北海道旅15日目、苫前町のキャンプ場で目を覚ます。天気は曇りで、たまに小雨が降ったり止んだり。パッとしない天気だ。
▼前回までのあらすじ
そういや切符きられてた
テントを片付けて、近くにいたライダーと少し話をして、旅路につく。9月中旬の北海道は、神奈川の11月くらい寒い。特に朝晩は冷え込んで、Amazonで買った激安ペラペラシュラフでは心許なくなってきた。今日は旭川まで行って防寒着を買おう。
出発して、まずは郵便局に寄る。なぜかというと、私は数日前に一時停止無視で違反切符を切られていたのだ。一時停止無視の自覚がなかったので、後ろからパトカーが喋りながら追いかけてきた時は驚いた。えっ！？事件！？誰？どこ！？！？……私でした。
違反金5,000円也。5,000円あれば何日旅できるってんだよ……。支払期限も迫ってきたので、おとなしく郵便局に支払いに行く。
支払いを済ませて外に出ると、隣の窓口にいたお姉さんが追いかけてきた。
「昨日、お姉さん（私）のこと見ました！」
昨日この近くを走っていた時に、私がリトルカブで爆走しているのを見かけたらしい。昨日の一瞬の出来事を覚えていてくれたのも、わざわざ外まで追いかけてくれたのも嬉しい。なんて純粋な人なんだ。
少し喋って、旅路につく。違反切符を切られていなければお姉さんと再会することもなかったと思うと、5,000円の出費も痛く感じ……るけど、まぁいいかと思える。まぁでも皆さん一時停止はしっかり守りましょう。
廃駅を巡りながら旭川へ
苫前町から留萌市まで南下して、旭川方面に向かうと道路沿いに廃線路が現れる。廃線路とはいえそこまでボロボロではなく、現役のようにも見えたが、線路や駅に「立入禁止」のカラーコーンが置いてあるためやはり廃線路のようだ。
これは「留萌本線」という現存する路線で、2023年3月に石狩沼田駅〜留萌駅が廃止になったらしい。この写真の駅も廃止になったうちのひとつだ。そして2026年3月には深川駅〜石狩沼田駅の廃止が決まっていて、それを以て留萌本線は全線廃止となる。
北海道は昔、道内の至るところに列車が走っていた。昔の路線図を見ると、こんなに電車が通っているならバイクや車なんて必要なかったんじゃないかと思うほど。この時代に旅ができたら楽しかっただろうなぁ。
この明日萌駅は「すずらん」というNHKのドラマで使用されていたそうで、当時のセットがそのまま残っている。ちなみに"明日萌"はドラマ用の駅名で、本当の駅名は"恵比島"駅である。
廃駅になってから1年半しか経っていないため状態がよく、いまにも列車が到着して、中から人が降りてきそうな雰囲気だ。しかしこの駅が動き出すことはもう二度とない。切なさに浸って、ふたたび旅路につく。
旅人よ、孤独であれ。
旭川のワークマンで1500円の手袋を買い、セカストで700円のパーカーと300円のマフラーを買った。これで防寒対策はバッチリだ。近くに無料キャンプができる「旭川市春日青少年の家」があったのでそこに泊まることにした。テントを立てて、中で寝転がりながら色々なことを考えた。
この旅で出会った旅人のほとんどが一人旅だったが、複数人のライダーで一緒に周っている旅人にもちらほら出会った。「グループで旅するのってどう？」と尋ねると「助け合えるから困ることが少ないし、変な人に絡まれることもないから安心だよ」と答えた。
それってどうなんだろうと思った。もちろんその人の旅に異議を唱えるつもりは全くないし、協力し合って旅をするのは素敵なことだと思う。私が考えたのは、私自身が複数人で旅をするのはどうなんだろう、と。それは違うんじゃないか、と。
自分で決めて進んで、困って、無い知恵を絞り出してなんとかする。変な人に絡まれて、めんどくさくて、でもその人の弱さを垣間見て許したりする。そうすると困難を乗り越えた自分を、誰かを許せた自分を少しだけ愛せる。
見た景色の美しさを、食べ物のおいしさを、ひとり噛みしめる。旅で出会うすべてを全身で余すことなく感じる。自分の、自分による、自分のための旅である。
たしかに寂しくなる時もある。ひとりの脳みそしかないから困り果てることもある。ひとりで居ると、考えなくてもいいことまでぐるぐる考えてしまって闇堕ちすることもある。旅をしているときいつも元気でハッピーかと言われれば全然そんなことない。
けど、ひとりで向き合うからこそ見える世界があるんじゃないか。そしてその夜出会った旅人と今日までの旅の話をする。孤独と孤独が出会い、それぞれの感性で「あの景色きれいでしたね」「あれおいしいですよね」なんて話して、初めて心を共有する。そしてまた、孤独のもとへと戻ってゆく。
孤独、孤独だなんて連呼して中二病みたいだけど、「ひとりで旅をする」ということは「自分を愛する」ということだと思うんだ。だから私は言いたい。
旅人よ、孤独であれ。