cafeプリエールのうさぎ #7
だいぶ開いてしまいましたが、
やっと1章で来たので、1章分だけ開始です。
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「今日の方も、なんだかうれしそうに帰りましたね」
「このお店はそういう店ですから」
宇佐は和泉の方をちらりとも見ることなく答えた。
相変わらずの塩対応である。
「和泉さん、今日は忙しいですからね」
宇佐の謎めいた予言にも、
和泉は、聞き流す余裕が出てきた。
要は慣れてきたのだ。
がらん!!
「だからさ、そう言ってんじゃん。意味わかんないんだけど。なんでそうなるの? もういいわ!」
けたたましい音とともに、
1人の女性が入ってきた。
だんだんと歩き、椅子に座った。
まるで、ガシン!と大きな吹き出しが出てきそうなほど、荒々しく。
その粗雑さは和泉の目にも明らかだった。
「まさか……こんなお客さんがここに来るなんて」
「まぁ、そんな日なのでしょうね。ほら、行かないと」
「あっ、はい」
和泉は水とおしぼりを片手に、カウンターに戻った。
「いらっしゃいませ」
この人はお客様……
この人はお客様……
と心の中で唱えながら、
精一杯の人好きする笑顔で場を和ませようと、にっこり笑った瞬間
「へらへらしないでちょうだい」
ぴしゃりと言われてしまった。
和泉はその笑顔のまま、一瞬固まるものの、気を取り直して、メニューを渡したのだ。
だてに人生40年以上生きていない。
これは仕事。
これは仕事だ。
私はわたしの精一杯のおもてなしをするまでだ。
「メニューはないんです。
お任せセットしかないのですが……
いかがいたしましょう?」
気に入らなかったら帰っていいですからね! という裏メッセージを込めながら、満面の笑みで押し切った。
「それでいいわ。
紅茶は嫌なのよ。
コーヒーがあればそっちで」
「かしこまりました」
残念ながら、帰ってくれそうにない。
和泉とこういう女は相性が悪いと、経験上知っているのだ。
イケメン店長に任せた方が得策……
そう企んでいたところに、またお客さんが来た。
「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ」
これは救いと、満面の笑顔で対応した。。
入ってきた男の子は、無言のまま、
先ほどの女性とは反対側の席へ座る。
男の子?
いや、たぶん新社会人か、そのくらいの年だ。
息子より少し上だろう。
「ご注文は?
おすすめしかないのですが、
コーヒーや紅茶などお好みがあればそれに合わせてお出しできます」
「……コーヒーで」
今にも消えそうなほどの小さな声。
聞き逃すところだった。
「コーヒーですね。かしこまりました」
和泉の方を、少しも見ることなくスマホを開いた。
これはなかなかに大変な予感……
和泉は内心、汗をかきながらキッチンへ戻るのだった。
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