人生の溝 展望レストラン
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5月の夕暮れ、私は都内にある12階の展望レストランで前菜が運ばれてくるのを待っている。
すっぴんにパジャマ、両サイドとも右にはねた短めの黒髪に丸めた背中。目の前に広がる景色とテーブルに灯されたキャンドルをぼうっと見比べる。この辺りは高い建物がないので、都内と隣の県が見渡せる。
ギュ、ギュ、ギュ。
広いレストランにただ1人のウエイターの靴音が響く。客は私と、10メートルほど離れた席で同じく外を眺める女性だけ。横顔しか見えないが、私と同じくどこかぼんやりとした顔をしている