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長編小説「紡がれた僕らに終わりの春を」あらすじ

【あらすじ】
 涙のかわりに指先から糸が出る真央。きっかけは十五歳のころ、父親が彼から離れていったことにあった。
 大学生になっても、幼少期の空白を埋めきれずどこか諦めている真央は、四月の講義で聖司と出逢う。神学科に通う、いつも石鹸のにおいがする聖司。彼も十五歳のころ母親の首を絞めたことがあり、その罪滅ぼしのために生きていた。
 お互いの秘密を共有したふたりは、少しずつ閉鎖的な世界に沈んでいく。そんなある雨の夜、真央の母親が恋人と一緒に交通事故に遭い、他界する。真央は自分の空白を作りだした母親に対して愛憎の混ざった感情を抱え続けていたが、母親が他界したことで指先の糸を失う。
ふたりは、お互いの罪や傷を認め合い、これからも一緒に生きていくことを約束しあう。同じように傷ついた人間同士惹かれあってしまう苦しさをわかっていながら。
 涙の代わりに糸が出る。疎ましいはずのそんな病は、真央の「誰かと一緒にいてすり減るくらいなら孤独を選ぶ」生き 方を救っていたものでもあった。
 誰かと一緒にいたい、愛されたい。でも傷つけられたくないし傷つけたくない。だからいっそ孤独でいたい。自己完結なら寂しさと引き換えに傷物にはならなくてすむ――。
 そんな願いがありながら、社会で生きるうえで避けることはできない数々の糸。親子のつながり、友人のつながり、……関係性の糸は真央の涙と同じように長く伸びて絡まっていく。
 自己完結の世界、その生きやすさを知っていながらも、本能によって避けきれない「関係性」。だから道化をしたり嘘をついたりしてしまう若者のコミュニティ、加速する生きづらさについて描く小説。

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