非違行為を行った従業員の退職金を減額支給できるか?
Q:懲戒事由にあたる行為(非違行為)を行った従業員の退職金を減額して支給することができるか
A:できる場合があります。ただし、不支給が有効と認められる要件は、非常に限定解釈される傾向にあります。
従業員を雇用するということは、企業における営業活動を拡大できるチャンスであるとともに、同時に様々なリスクを背負うことになります。
その中の1つが、表題にある非違行為(会社の規則違反)です。
企業は従業員を雇用する際に、就業規則等で様々な約束事を作り、それを守ることを約束してもらい、従業員を迎え入れます。
ただ、勤務していく中で従業員の気持ちの変化や様々な要因により、従業員が会社の定めた規則に違反してしまうことがあります。
これを非違行為と言います。
非違行為があった場合、悪質なものであれば、会社は就業規則等であらかじめ定めた懲戒事由に則り、従業員に懲戒を行うことができます。
(この懲戒自体の合理性についてはここでは割愛します)
懲戒には様々な種類があり、軽微な違反であれば戒告などを行い、非違行為の重大さによっては減給や出勤停止、最終的には懲戒解雇などを行うことになります。
この懲戒解雇を行う際に、問題となってくるのが「退職金の不支給」です。
通常、企業は懲戒解雇の際には退職金を支給しない旨の条項を盛り込んでいることが多く、この条項に則り退職金を不支給とすることが多いです。
ただ、実は「懲戒解雇の有効性」と「退職金不支給の有効性」は必ずしも連動するものではなく、懲戒解雇が有効であっても、退職金の全額不支給は認められないという場合も往々にしてあるのです。
一般的に退職金は、通常の賃金と異なり、以下のような性格を併せ持っています。
賃金の後払い的性格
功労報償的性格(長年の功績に報いる性格)
日本の賃金体系は昔から伝統的に、月額の賃金は抑え、退職時に多くの退職金が支払われることも多いと考えられています。
(現在は必ずしもそうとは言えないことも多いですが)
そのため、非違行為によって功労報償的部分が薄れたとしても、賃金の後払い的性格については薄れることなく、その部分については支払いが必要になることもあるということになります。
裁判例によっては、全額の支払いを命じるもの(大阪高判昭59.11.29)や、3分の1の支払いを命じるもの(東京地判平11.12.24)など、様々な判決が下されたものがあります。
特にポイント制退職金制度や、選択的退職金制度などを取り入れている場合は、賃金後払い的性格が強く、不支給の合理性は容易には認められないことが多いです。(荒木149P)
では、退職金不支給が有効と判断されるかどうかを、どのようにして判断すればいいのでしょうか。それは以下の2点をベースにして考えられるとされています。
①従業員のした非違行為が退職金の不支給条項に該当しているかどうか
②その非違行為が労働者の勤続の功績を抹消ないし減殺してしまうほどの背信行為であったかどうか
また、判断の際に考慮されるポイントとしては、
①非違行為の背信性の強弱
②当該退職金の功労報償的要素の占める度合い
③非違行為により企業が被った損害の大きさ
④従業員のこれまでの功労の大小
⑤これまでに退職金が不支給・減額となった事案の有無や内容
などがあります。
懲戒解雇の際に、退職金の不支給が有効と判断されるかどうかは、上記の要素を総合的に見て判断されます。
もちろん、大前提として懲戒解雇が有効と判断される条件を満たしていることが必要となります。
従業員の懲戒解雇の際は様々なトラブルが起こる可能性があります。
まず一番無用なトラブルを避けることができるのは、当然ですが懲戒解雇を行わないことです。
なるべく合意退職という形で様々なパッケージを提示し、従業員に納得して退職してもらうことができればそれが一番です。
ただ、場合によっては懲戒解雇を行う必要のある事案も出てくるでしょう。
その場合は、必ず解雇前に頼れる社会保険労務士または弁護士にご相談下さい。
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