寝てる間に抱きしめる子を見て
今年一番のパワースポットのことを書こうと思って新幹線に乗り込んだのだけど、隣の席の家族が気になって仕方がない。
まず乗り込んだ瞬間、久しぶりに見る光景に「あ、」となった。
それは席を向かい合わせにして、4人が向き合って座れるスタイル。
コロナ禍以降なかなか見る機会が減り、普段新幹線に乗る時も平日が多くビジネスの方がほとんどのため、向かい合わせのシートを見てなんだか家族の年末を感じさせられた。
父母兄妹のご家族。
1才くらいの妹ちゃんは泣きもせず、向き合わせの空間を小さな子供部屋のように楽しんでいる、しかも静かに。
私はこれくらいの歳の時、どんなふうに過ごしてたんだろうと考えて、ふと私の母の子育て話を思い出す。
新幹線に乗って私が泣き出した時に、母は
「この新幹線に乗ってる人は、お葬式とか悲しいことが待ち受けてる人がおるかもしれんねん。みんながみんな楽しいことがあって乗ってるわけじゃないから、おとなしくしとき」
と言って私はおとなしくなったらしい。
母曰く、伊丹十三さんの本か何かに書いていたことのようで、「ママの子育て方法は、ほとんど伊丹十三からやで」と言っていた。
そんなことを思い出しながらも、私が気になって仕方がなくなったのは、4才くらいのお兄ちゃんの方だった。
隣で眠るお母さんを見て、お母さんの腕を組んではその腕を抱きしめて、お母さんの手の香りを嬉しそうにかいでいる。
赤ちゃんの匂いというのは感じたことがあるけど、これくらいの年頃で感じるのはお母さんの匂いなんだと思った。お母さんのことが大好きでたまらないんだろうなぁ。
目覚めたお母さんが気にかけるのは妹ちゃん。それを見るお兄ちゃん。またお母さんが寝始めると、「自分の時間だ」と言わんばかりにまたお母さんの腕を抱きしめている。
「この子、ほんとはずっっっと甘えたいんだなぁぁぁかわぃぃぃぃぃ」
と思った。
長女を長くやっている身としては、
「甘えるのがむずかしくなる大人になる前に、そうやってたまに甘えるのを続けてねぇぇぇ」
とお節介な心の声が出る。
お節介ついでに、お母さんに
「あなたが寝ている間、この子ずっと腕を抱きしめて顔をうずめてたんです!成長とともに当たり前じゃなくなると思うんで、今のこの愛おしさ、ストレートに愛情を表現する目の前の子供を愛してくださいね」
と子供もいない私が偉そうに心の中で言った。
幸せなお母さんだなと思った。寝てる間もこれだけ愛されるなんて素晴らしい。きっとそれはお母さんが日頃から子供たちを愛してるからなんだろうか。
お母さんが目覚めると妹ちゃんはお母さんと一緒に動画を見て、お兄ちゃんは反対側の席でじっとおとなしく座っている。
「私は見てたで!お母さんが寝てる間に愛情たっぷりに甘えてた姿!最高に愛おしかったで!」
とまたお節介な心の声。
愛も慣れるとついつい見逃してしまい流れていく一方だけど、瞬間瞬間にある目の前の愛に気づける大人であり続けたいと思った。
お母さんとお兄ちゃんのおかげでそんなことを思わされながら、人に甘える大事さも改めて感じた。