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創作箱

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あくまでもフィクション。現代だったりファンタジーだったり。創作したものを詰めていく箱。
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記事一覧

てのひら

てのひら

私の手の中には何もなくて
あなたに差し出せるものがなにひとつない
どうしたら
どうしたら
あなたになにかを返すことができるのだろうかと
私に返せるものはないのに
あなたは私に喜びをくれた
あなたは私に幸せをくれた
悲しみ以外の涙があることをおしえてくれた

愛された記憶もなくて
愛する術もしらなくて
愛の意味もしらなくて
だから
今私の手の中にあるものが見えない

めざめ

それが恋だとは気付きたくなかった
それが恋だと気付いてしまえば
自分の手で摘み取らなければいけないと
無意識のうちに知っていたから
自覚してからが恋だと言うのならば
自覚する前のそれは何と呼ぶのか
自覚しなければ恋は始まっていないのか
いいえいいえ
地の底を流れる水のように
地の中で芽吹きを待つ種のように
誰が気付かなくとも
それはひっそりと静かに
始まりを待っているのではないだろうか
始まること

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幾星霜

ふとした瞬間に
あなたの言葉を思い出す
あなたの紡いだ言葉は
私の中に幾重にも降り積もり
それはさながら呪いにも似て
どこまでも
どこまでも
私の心を絡めとる

花

あざやかに咲き乱れる花
あなたのために咲いた花
恋い焦がれるがごとく空へと枝を伸ばし
今が盛りとばかりに花を咲かせている
いつの間にこんなに育っていたのだろう
いつの間にこんなにあふれていたのだろう
こんなにもきれいなのに
自分で手折らないといけないだなんて
花はまだ咲きたいという
まだ枝を伸ばしたいという
それでも
それでも
私はこの花に終わりを教えなければいけない
きれいに咲いたのに
はじめて

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「」

ごめんなさい
ごめんなさい
なんども
なんども
くりかえす
ごめんなさい
ごめんなさい
ゆるされないとわかっている
それでも
それでも
あなたのそばにいたいのだと
ねがってしまった
おもってしまった
ごめんなさい
ごめんなさい
どうかゆるさないでください
わたしのつみを

濁流

好きで
好きで
ただひたすらに
愛しさだけがあふれて
思いを言葉にしようとするほどに
原型をとどめることなく
胸の奥からあふれて
結局のところ
何も言えないままに
のみこんでしまう
あなたへの思いはどこに行くこともなく
私の中を巡るだけ
どこにも行かぬ思いが
私の中に満ちていくだけなのならば
その濁流にのまれて
いずれ溺れてしまうだろう

ひとりよがり

ひとりよがり

私がしあわせでなくてもいい
あなたがしあわせであれば
ただそれだけでいい
それがなによりのねがい

朝焼け

朝焼け

道は知らない
地図も持ってない
ひたすらに方向音痴ではある
けれど
目的地は知っている
コンパスも持っている
そこに絶対に行くのだという覚悟も持っている
行こう
迷っている場合ではない
そこに辿り着けると信じて
ただひたすらに
ただがむしゃらに
何度も道に迷うだろう
何度も挫けそうになるだろう
それでも
それでも
今ここに座り込んでいる場合ではないのだと
泣いている時間は終わったのだと
顔をあげて

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迷子

迷子

離れようか
離れまいか
どうしようか迷ってさ迷って
離れられない理由を探していることに気付く

離れたいのか
離れたくないのか
ぐるぐると同じところを回って回り続けて
どこにもいけないことに気付く

どこに行こう
どこへも行けない
私が行きたかった場所はどこだったのだろう

よくある話②

よくある話②

「何かいいことでもあったの」と聞いてきたのは久しぶりに会った友人だった。鼻歌でも歌い出しそうに上機嫌に見えると。
お互いシフト制の勤務で休日を合わせることがままならず、ゆっくりと顔をあわせることができたのは3ヶ月ぶりの事だった。その間に前の上司が不祥事を起こして急な異動があり、今の彼が異動してきたりと、仕事の方が常にばたばたと忙しなかったため彼女とのLINEすらもおろそかになっていたのは確かだった

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薬指

薬指

あなたが指輪のあったところを指でなぞるのを眺めていた。そこには長年つけていた名残の癖が残っていて、外した今もなお存在を主張し続けている。
いつもの喫茶店。いつもの場所。いつもの景色。なのにあなたの指にいつもの指輪がない。
指輪の跡はどれくらいでつくのだろうか。
指輪の跡はどれくらいで消えるのだろうか。
私の視線に気付いてあなたは困ったように笑って、落ち着かなくてねとポツリと言葉を落とした。
その指

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強欲

きみのつみはぼくがもらう
きみのばつはぼくがうける
ぼくのつみはぼくのもの
ぼくのばつもぼくのもの
ぼくはよくばりなので

迷いの森

迷いの森

深く暗い場所に迷い込んでしまった
先は見えず
戻る道も知らず
そもそもどちらから来たかさえわからず
座り込んで見上げた視界には鬱蒼とした森
木々の間にわずかに見える空には雲が
どこへいきましょうか
誰かに訪ねようにも返る声はなく
どうして
わたしはここにいるのでしょうか
その問いかけにも返る声はない
せめてひかりを
見回してもそこには闇が広がるばかり

立ち上がるべきか
先に進むべきか
迷い
戸惑

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よくある話①

よくある話①

彼女の「自分を大事にすべき」というありきたりの言葉に笑うしかなった。何もかもがありきたりの話で、誰も気にもとめないほどの話でしかないのに。不倫が世の中にどのくらいの割合で存在しているかは知らない。絶滅危惧種とは言えないくらいには存在しているだろうことはわかる。

私が20歳の時。
友人が彼氏と同棲していたアパートに浮気相手を連れ込んで追い出された。その彼氏は本当にかわいそうだと思った。毎日毎日朝か

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