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【水曜日】はじめての梅仕事

今年、はじめて梅仕事というものをした。そろそろ梅を漬けられる人になろうかな、と思って。

母は昔から漬物をする人で、その時期によってブームは変わるようだけど、梅干し、梅漬け、野沢菜、キムチ、たくあん、らっきょう、奈良漬け、日々のぬか漬け、浅漬け、いつも何かしらを漬けていたような気がする。

小さな頃の私はそのほとんどはあまり好きではなかったけれど、梅干しだけは好きだった。酸っぱくて酸っぱくて、余分な味が一切しなくて、想像しただけでつばが出る美味しい梅干しが好きだった。

塩っぱい梅干しに、味の素たっぷりと、醤油をかけて、たまに鰹節も足して、ちびちび食べる。塩分+塩分+塩分が美味しく感じるのは若さの特権だよね。塩を足しているのに甘みを感じて美味しさも増して、いつも不思議だった。

結婚して実家を出てからは、母の梅干しを毎年まとめて貰うようになった。「梅干しって高級品なんだからね。やたらと食べちゃだめよ。でも一日一粒は食べた方がいい。」…どっちやねん。

うんちくを語りありがたがらせては渡してくれたけれど、そのありがたみの意味はよく分からないし、私には必要ではなかったから全く耳に入っていなかったけれど、それでもとにかく母の漬けた梅は美味しかった。

昨年、我が家は実家からは少し時間がかかるところへ引っ越しをした。アダルトチルドレンを患っていた私は実家から離れる事についていろんな葛藤や罪悪感があったけれど、それでも私は最終的に自分の住みたい所に住む事を選んだ。

母はもうそろそろ80歳になる。今のことこはまあまあ元気に暮らしているけれど、いつ何がおきるかは分からない年齢。だからだと思うけれど、私もそろそろ自分で梅干しを漬けられるようになっておきたいなと思ったのだと思う。それが今年だった。

今はありがたい事に、ネットで調べればいろんな人のレシピがみつかるし、失敗しないコツも教えてもらえる。

肝心の梅は、SNSで美味しそうな梅仕事の投稿をしていた方の梅と同じものを農家の方から購入する事ができた。スーパーで売っている梅が美味しいかどうか目利きのできない私にとって、SNSのこうした繋がりはとても有難い。

自分の必要な梅を漬けるのに梅何キロ必要か分からないけれど、とりあえず5キロ買う事にした。味噌が1パック1キロだと思えば5キロくらいあってもいいもんね。


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梅って、こんなにいい匂いがするんだ。届いた段ボールからフルーティーな香りが広がって驚いた。幼い頃、畑に梅の木があったけれど、その梅の実をもいだ覚えもないし、香りを嗅いだ記憶もない。目の前に当たり前にあるものというのは、ほんと有り難みが分からないものなんだなと、大人になって思う。

届いた梅5キロ、多かった。想像より全然多かった。急いで追加の瓶を買いに行ったけれど、どれだけあれば足りるか分からない。

半分は梅シロップにして半分は梅干しにする事にした。梅シロップが3本出来た。3本も並んでいると手を加えたくなってムズムズする。どうも私には我流に手を加えたい癖がある。

結局、1本は梅シロップに、1本は梅酢に、1本は梅酒になった。梅酒のお酒は父から貰っまま使い道がなくて困っていた高級ブランデーをふんだんに使う事にした。父が生きているうちに梅酒に使えてよかったと思った。

梅干しを漬ける前に母に電話をする事にした。聞かなくても漬けられるけれどもしかしたら母秘伝のレシピがあるかもしれないし、なくても聞いておいた方がいいような気がする。

母に電話し梅を漬ける事を言うと、

「そんなものこっちで漬けてやるのに。持っていけばいいのに。まだたくさん漬けてあるんだから。」

想定どおりのコメントだった。母はいつまで経っても私を子ども扱いするし、中々現役を譲らない。

「もう梅買ったから。これから漬けてみるから、漬け方教えて。」

「ほお、自分で漬けるだか。できるだか。」

…知らんがな。

母とのこの手のやり取りは昔からのお決まりなのだけれど、こう言われると自分が何もできないような気持ちになってしまうし、出来ない役割を引き受けてしまって、意外とダメージを受ける。

こんな風に自分が感じていたという事も大人になってわかったのだけれど。

少しイラっとしながら、梅干しのコツを聞いた。母は、インターネットでたいていの事は調べられるという事をよく分かっていない。自分の感覚を強く信じている。

「梅1キロに、塩1キロ。よく揉んで漬ける!」

…絶対違う気がする。私がリサーチしまくった結果によると、どんなに塩っぱい梅干しでも塩分は20%だ。塩1キロも使ったら梅風味の塩になってしまうよ。と思いつつ、復唱しておいた。母の中では梅干しの作り方はそうなっているのだから、そうなのだよ。自分の暮らし方に絶対的な自信を持っている人に今更色々言わないよ。めんどくさいし。

「しばらくすると梅酢が上がってくるから、そしたらいったん外に干す。破けないようにそっと。しんなりしたら入れ物に戻す。梅酢を少し戻し入れてもいい。」

「わかった、やってみる。1キロも塩使うんだね。」

「そうだよ。塩甘は不味い。梅は南高梅じゃなきゃだめだからね。サイズは?」

「南高梅買った。2L。」

「ちょっと小さいな。しょうがない。」

なるほど、2Lは小さいのか。次は3Lにしよう。

こうして聞き取り調査だけして、後はネットのレシピでコツを調べて、無事漬けた。

梅干しは追熟して塩で漬けて、土用になったら3日間ひなたに干して、また漬ける。梅干しづくりは思ったよりも大変だ。ただ干してできるのだとばかり思っていた。

はじめの梅仕事。父のブランデーを使って梅酒を作って、母のレシピを聞いて梅干しを漬けた。今の私にはそうやって親から引き継いで自分で仕込む事が大切だった。気持ちに区切りがついた。今年梅仕事ができて、両親が健在の間にできて、なんかよかった。


ちなみに出来上がった梅干しも梅酒も、両親にあげる予定はない。絶対に褒めないし、喜ばないので。

相手に対して期待を持たなくなったのも、生きやすくなってきた理由の一つ、なのかもしれない。大人になったなあ。

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