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海にうかぶ駅
つかの間の休日、日帰りで茨城へ出かけた。
この日は応援するサッカーチームの開幕戦。興奮してあまり眠れず、出発して程なく車内で眠ってしまった。
目が覚めると、最寄りのインターチェンジを降りたところだった。
柔らかい春の日差しのなか、車は海沿いの道をゆっくりとのぼり、くだってゆく。
まだ朝の9時前。
「駅に行きたい。」とわたしは夫にお願いした。
◇
高校生のころに毎日通ったその駅は、海のすぐ近くにあった。
けれど、駅のまわりはうっそうとした木々と広告看板で囲われており、潮の香りがするだけ。海は見えなかった。
駅には桜並木の大通りに面した中央口と、無人改札の海岸口のふたつの駅舎がある。そして、それぞれの駅舎とホームをつなぐ長い長い跨線橋がある。
というのも、駅には常磐線のほか多くのコンテナが並ぶ留置線があり、改札口からホームまで数100メートルほど歩くのだ。
朝のラッシュ時。ホームに降り立つと、立ち止まることなく細い階段を登り、うす暗いトンネルのような跨線橋をぞろぞろ進む。通路には追い越すスペースはなく、ただ、人の流れに乗る。学校や会社へと向かう、厳かな儀式のようだった。
夕方は夕方で、慌ただしい。下車してきた人と、せまい跨線橋ですれ違う。ホームまでの200メートルが遠く、電車に乗り遅れることもしばしばあった。
次に来る電車は1時間後。ふたたび改札を出て、シビックセンターにある図書館で時間を過ごす。
大きいけれど、どこか狭くて、海のみえない駅だった。
◇
10年ほど前に、駅が改築されたことは知っていた。そして、駅そのものが観光名所となっていることも。
中央口のロータリーへ車を停める。
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新しい駅舎はガラス張りで、すっきりとした雰囲気。書店が併設されたコンビニのほかに、広々とした観光案内所があった。
桃色をした最中と手作りプリンを購入し、駅構内へと向かう。
「おおー。」思わず声が出た。
あの狭く薄暗いトンネルみたいな跨線橋は、幅8m・全長139mのガラス張りの自由通路へと変わっていた。しかも、動く歩道まである。広くて、やさしい。
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通路を70メートルほど進むと、右手に改札があった。
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これまで300メートル離れた場所にあった、中央口と海岸口の改札口が、ひとつになっていた。
奥のほうから、ピアノの音色がきこえてくる。
わくわくしながら通路をさらに進んでゆく。
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「うわーっ。」
駅が、海に浮かんでいた。
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通路の奥は休憩スペースとなっていて、右側にはカフェが併設されている。
また手前には「えきピアノ」が設置されていて、7時から22時までのあいだ、誰でも自由に演奏ができるという。わたしたちが訪れたときも、ちょうど演奏されている方がいた。駅に響くのは、いきものがかりの「ありがとう」。ちょっとしたコンサートホールみたいだ。
窓際へ立ち、外を眺める。
国道6号線と整備された海岸線。
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南東側は、朝日が海を照らしていた。もう少し南には会瀬海岸。
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みとれていると「そろそろ行こうか。」
夫の声で、はっと我に帰る。
海岸口。奥にあるのは、空に浮かぶカフェ。
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きらきらまぶしくて、きれい。
ああ、こんなに海が近いなんて。きっと夕暮れ時も綺麗だろうな。
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西側にはたくさんのコンテナと、シビックセンターの球体。懐かしい風景。
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広くて開放的な、海にうかぶ駅。
電車で帰省する際、何度もこの駅を通っていたが、これまで一度も新しい駅を訪れることはなかった。なぜなら一度降りたら、次の電車は1時間後。帰る時間は遅くなり、家族と過ごす時間が短くなる。
でも。
たまには途中下車もいいかもしれない。こんなに美しい海と、ピアノの音色に出会えるのだから。
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2011(平成23)年に完成した美しいガラス張りの橋上駅舎は、2012(平成24)年にグッドデザイン賞を、2014(平成26)年には鉄道関連では唯一の国際デザインコンペティション「ブルネル賞」の優秀賞を受賞するなど、これまでに11 の賞を受賞しました。
また、2020(令和2)年1月27 日の「NIKKEI STYLE」(日本経済新聞社)に掲載された「デザインに見惚れるモダン駅舎10 選」で2位に選ばれました。
日立駅のデザインを監修したのは、現在、世界中で活躍している日立市出身の建築家、妹島和世氏です。
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