生産者理論(3):利潤最大化問題
生産者が自身の生産技術を所与とした場合の利潤最大化行動を考える。今回導入される最大化問題の解集合や価値関数といった概念は、消費者理論における効用最大化問題・支出最小化問題と形式的に非常に類似しており、重複する証明は割愛するため以下の連載から参照されたい。
利潤最大化問題
価格体系$${p}$$の下での利潤最大化問題は、以下のように定式化される。
この最大化問題の解の集合$${y(p)}$$が一意に定まる時、これを供給関数という。利潤最大化問題の定式化の背後には以下の重要な仮定が置かれている。
市場は完備であり、全ての投入財と生産財には価格が与えられている
利潤は1つの内積で与えられ、仮に何期間か経過した後に生産財の売却から収入を得られるとしても期初の利潤に算入される
割当は存在せず、企業は投入財と生産財を好きなだけ売買できる
価格は投入と産出の組み合わせ$${y}$$の影響を受けず、企業は投入財市場と生産財市場において価格受容的行動をとる(プライステイカーの仮定)。独占市場や寡占市場では企業は価格受容的でなく、この仮定は成り立たない
供給関数の性質
生産集合$${Y}$$が非空かつ閉であり、自由可処分を満たす時、供給関数$${y(p)}$$は以下の性質を持つ。
①0次同次性
供給関数$${y(p)}$$は、Walras需要$${x(p, I)}$$と同様に0次同次性を満たす。生産集合は価格の影響を受けないため、全ての財の価格が$${\alpha}$$倍されても利潤最大化する生産ベクトルは不変である。
②生産の効率性
供給関数が$${\bar y\in y(p) \land \bar y\notin Y^f}$$と仮定する。この時$${\bar y}$$を狭義支配する生産ベクトル$${\bar y'>\bar y}$$が存在するが、$${p\cdot\bar y'>p\cdot\bar y}$$となり$${\bar y}$$が利潤最大化問題の解であることに矛盾する。従って$${\bar y \in Y^f}$$が成り立つ。
③供給法則
供給法則は価格の変化と生産ベクトルの変化が同じ方向を向いていることを示している。消費者理論における需要法則と似ているが、これは補償需要にのみ成り立つ性質で、Walras需要では一般に成り立たないため注意が必要であった。他方、供給法則は生産集合の凸性等を仮定せずとも一般的に成り立つ。なお、価格上昇に対して生産財が右上がりの曲線を描くことを(狭義の)供給法則、投入財が(投入要素の符号を入れ替えて)右下がりの曲線を描くことを要素需要法則ということもある。
証明は補償需要法則と同様だが、任意の$${\bar y \in y(p)}$$と$${\bar y' \in y(p')}$$に対して、$${p\cdot \bar y≥p\cdot \bar y'}$$かつ$${p'\cdot \bar y'≥p'\cdot \bar y}$$が成り立つため、題意を満たす。
変換関数を用いた利潤最大化問題の表現
生産集合$${Y}$$が非空かつ閉であり、自由可処分を満たす時、供給関数$${y(p)}$$は効率性を満たすため、変換関数の定義$${y\in Y^f \Leftrightarrow F(y)=0}$$より、利潤最大化問題を以下のように表現しても一般性を失わない。
利潤関数の性質
利潤最大化問題の価値関数を利潤関数$${\pi(p)=p\cdot y(p)}$$という。生産集合$${Y}$$が非空かつ閉であり、自由可処分を満たす時、$${\pi}$$は以下の性質を持つ。
①1次同次性
価格体系が$${\alpha}$$倍された時、利潤も$${\alpha}$$倍される。1次同次性は、利潤関数の形と供給関数$${y(p)}$$の0次同次性から明らかである。
②凸性
2つの価格体系$${p, p'}$$と$${\alpha \in [0,1]}$$を考え、$${p''=\alpha p+(1-\alpha)p'}$$とする。各価格体系$${p, p', p''}$$の下での利潤最大化問題の解をそれぞれ$${y, y', y''}$$と置く。この時、$${\pi(p'')=p''\cdot y'' =\alpha p\cdot y''+(1-\alpha)p'\cdot y''≤\alpha p\cdot y+(1-\alpha)p'\cdot y'}$$より凸性を満たす。
Hotellingの補題
利潤関数$${\pi(p)}$$は価格体系$${p}$$の下で生産集合$${Y}$$の中で生産者が得られる最大の利潤を表す。生産者理論では$${p}$$の変化が生産者の意思決定に与える影響を分析すること、つまり$${p}$$が変化した時の$${\pi(p)}$$の変化を評価することも重要である。Hotellingの補題によれば、$${\pi(p)}$$を財の価格に関して偏微分するとその財の供給関数(投入要素の場合は要素需要関数)を得られる。つまり$${\pi(p)}$$が与えられればそこから任意の財の供給関数(要素需要関数)を特定できる。
証明は消費者理論におけるShephardの補題と同様、包絡線定理を用いる。Lagrangianは$${L=p\cdot y+\lambda [-F(y)]}$$より、
$${\dfrac{\partial \pi(p)}{\partial p_n}=\dfrac{\partial L}{\partial p_n}=y_n(p)-\lambda\dfrac{\partial F(y)}{\partial p_n}}$$
となるが、最適解において$${F(y(p))=0}$$となる(供給関数の最適性)から、
$${y_n(p)=\dfrac{\partial \pi(p)}{\partial p_n}}$$が成立する。
次回はこちら。
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