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「無限の月」を読んで(デジタル技術の進化と人の意識の変化に興味がある方へ)

「デジタル技術の進化による社会や人の価値観の変化を知りたかったらSF小説を読むべきだ」という話を聞いたことがあるが、この本を読んで”この言葉”を思い出した。

 女性物も口紅が家にあったり、女性といたという話を聞いたり、そして長い期間、家を留守にしていたりと、ある女性が夫の行動に疑惑をいだき、悩んでいる場面から、物語は始まる。

 そして、その夫が自分に起きた事をこの女性に話をするという流れで、この物語の本編に入っていく。夫と一緒にいた女性は何者か?口紅がなぜあったのか?なぜ長期間も留守にしたのか?

 しかし、この小説の本質は、夫婦の愛憎でもなく、夫の不審な行動の解明でもない。あるデバイスにて他人の記憶を直接脳で共有することによる人格への影響の一つの可能性を提示する物語と感じた。

 男性は、あるウエアラブルデバイス(人体にとりつけるデジタル機器)を装着した状態で寝ることでリフレッシュできることに気づき、疲れた時には、いつも装着して寝ることにしていた。

 そして、そのウエアラブルデバイスを装着して眠ると女の子のリアリティのある夢を見ることに気づく。その夢が気になり、夢のために眠るようになる。夢の女の子は自分ではない他人であると認識しているのだが、だんだんと自分と女の子の境界があやふやになっていく。

 このような感じで、この本は、ウエアラブルデバイスによる人格への影響の可能性を示唆している。他人の記憶を直接脳で共有できるようになった場合、人の価値観はどうなるのだろうか。その技術が社会に浸透した場合、社会の価値観はどう変わるのだろうか?その一つの可能性を教えてくれる。そんな小説です。

 XRやメタヴァーズにより擬似体験やその体験を共有する技術はどんどん進化している。脳にある人の記憶を可視化する研究もされていると聞く。会話や文字という手段を使わずに、他人の記憶を直接脳で共有できる技術もいつかは発明されるだろう。

 その時、新しい技術の使用を禁止するかどうかは、その時の社会が決めるだろう。新しい技術が実用化した未来の社会がどうなっているのかを完全に予測できないが、SF小説はその一つの可能性を示してくれる。

ミステリー風にはじまるが、デジタルがもたらす未来の片鱗又は起こらないかもしれない未来を教えてくれる本です。

デジタル技術の進化と人の意識の変化に興味がある方は、読んでみても良いかもと思います。

10/30 読了 タイトル:無限の月 作者 須藤古都離 出版社:講談社


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