「十戒」を読んで(一風変わった設定のミステリーを読みたい人にお薦め)
つくづく色々なミステリーがあるなあと思った。この前に読んだ死んだ被害者と会話できるという設定の「真夜中法律事務所」も面白かったが、この小説の「犯人探しをしてはいけない」という設定も斬新だった。
ある島の所有者が事故で死亡した。その故人はその島に宿泊施設を建設する計画を立てていた。その計画を引き継ぐため、遺族と計画関係者の計9人が島に視察に行く。その島と行き来する定期船はなく、事前に依頼しないと誰も迎えに来ない。そんな孤島で殺人事件が発生する。こんな本格ミステリーっぽい雰囲気で物語は始まる。
しかし、この物語はちょっと変わっている。嵐も無ければ、携帯電話も普通に通じている。十戒と呼ぶ禁止事項を守らないと、大量にしかけられた爆弾を爆破し全員を殺すという脅迫のもと「犯人探しをしてはいけない」「孤島にしばらく滞在しなければいけない」ということを強いられる。
『謎を解いたら全滅』『何もしないことが最善』というミステリー
家族や友達に孤島での滞在を延長することをみんなの前で携帯電話で説明するシーンや犯人を知るヒントを与えないためにみんなが同じ行動を取るといったシーンは、他のミステリーではみない珍しいなと思った。
「人は、理不尽な状況をどのような条件であれば、抵抗せず受け入れるの
だろうか」といった命題の実験をしているよな小説だった。
まず殺人事件が起き、犯人を探すなといった禁止事項が指示される。禁止事項を破ったら、爆弾が爆発して全員が死ぬと脅される。そして、さらに、殺人事件が起き、自分も殺されるかとみんな不安になる。
こうなると、精神的に追い詰められ、一か八か禁止事項を破る人が現れるかもしれない。それをさせないための犯人のしかけが、人の心理をついて、非常に上手と思った。
殺された人は、禁止事項の十戒を破ったためだと、みんなに知らせる。また、この十戒に従う期間が4日間と明確に示しておく。そうすることで、十戒を守っていれば大丈夫という安心とある一定期間我慢すれば、元に戻れるという希望が芽生え、自暴自棄にならず理不尽な十戒にも従うようになる。
そして次の命題が証明された。「不条理な状況であっても、ある程度の安心があり、それに耐える期間が明確であれば、人は理不尽に争わず、素直に従う可能性が高い。」
こんな感じの小説ですが、素直に面白かったです。記載した以外にも犯人の犯人探しをさせないしかけが色々でてきます。一風変わった設定のミステリーを読みたい人にお薦めです。ぜひ読んでください。
作者:夕木春央 タイトル:十戒 出版社:講談社 8/31読了