「ひとり旅」吉村昭
作者の小説に纏わる取材雑記帳、随筆、講演録など。
史実に忠実に書く。
そして、それがドラマだという。
だから、こんな面白いものはない、ということになる。
定説がいかにいい加減なものか。
自分で調べることがどれだけ大切なことかが分かってくる。
若い頃、司馬遼太郎全集を揃えて、それらは確かに面白かったが、脚色が強くて史実にいい加減なところもあり、それが気になっていた。
吉村昭氏の小説を読みたいと思った。
それは、病的なまでの客観性を感じたから。
吉村氏の人としての矜持に僕はただただ驚いた。
<メモ>
・尊皇攘夷というと、尊皇ですから朝廷を尊ぶ。それから攘夷というのは外国の勢力を追い払う。それは倒幕のことだと最初思っていましたがそうではないのです。尊皇というのは朝廷を重んじることによって人心を統一して幕府の権力を強化し、それによって外国の勢力を追い払う、という思想なのです。
その思想がなぜ水戸で起きたのか、その思想を創り上げた水戸の思想家藤田東湖と会沢正志斎の著作を読んだ結果、その思想の基本が水戸藩領の海岸線にあると気付いたんです。当時黒船に対する恐怖が強く、日本の近海は鯨が群れていて、全世界の捕鯨船が集結していたのです。特にアメリカの船が多く水戸付近の沖合には約百叟ぐらいの捕鯨船が操業しておりました。そして、捕鯨船の上陸騒ぎがあったりしまして、水戸藩では極度に警戒していた。その警戒心から藤田や会沢は、もし外国の勢力が攻めて来た時には、この水戸藩領のなだらかな沿岸に上陸すると考えたのです。江戸にも近いものですから、江戸を占領すれば全日本を支配できると。アメリカを中心とする外国の軍勢は水戸藩領の海岸線に必ず上陸すると考えたのです。この危機感から尊皇攘夷という思想が生まれたわけです。
・薩長同盟というと、坂本龍馬が斡旋したことになっているのですが、坂本龍馬は土佐藩の藩士ではなく、郷士です。坂本龍馬が両方を仲介して薩長同盟を結ばせたといわれていますけれども、そのようなことは史実にはないのです。
・「阿蘭陀風説書」、そこにはアメリカの国会で、来年、軍艦四隻を日本に派遣すると書いてある。つまり、一年前に幕府はオランダ政府からの情報で知っていたのですね。ですから、慌てたり何かしていたわけではない。「ああ、やっぱり来たか」と、そのようなことなのです。来航した蒸気船についても「たった四杯で夜も眠れず」などというが、既に日本では蒸気船の雛形を造っていたのです。
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