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「官僚国家日本の闇」泉房穂


 2002年10月25日の朝、自宅駐車場で石井紘基衆議院議員は殺された。翌々日、右翼団体を名乗る伊藤白水は自首した。伊藤は金銭トラブルだと話した。しかし、その数年後頼まれて殺したと、或るメディアに自白を翻した。家族や周囲の話では、3日後の国会質問で「日本がひっくり返るだろう」と話していた。鞄に入れた提出書類と議員手帳は無かった。
 その後東京地裁で伊藤は無期懲役の判決となり、全容は解明されなかった。当時の民主党も1回だけの記者会見を行い、1回だけの会議が設けられた。出席した紀藤正樹弁護士は「今日話したことは、石井さんの資料(段ボール箱で63箱)を保管する本棚を買う、それだけでした」と娘の石井ターニャさんに話した。ターニャさんの友人の議員に、菅直人さんに何度も「資料は?真相究明はどうするんですか?」としつこく聞いたが、菅さんは逃げ続けた(137〜138頁)。ターニャさんは議員関係者から「官邸と取り引きの話もあった」と聞いたし、裏社会の話でいえば或る人物から「1回警告したけど、石井は聞かなかったから」という話を伝えられた(125頁)。
 捜査は犯人出頭で一気に縮小され、背景などは未捜査が多くなる。検察審査会への請求はできるが、そもそも捜査権を持たないので、検察庁や警察が調べた証拠で調べる。最初から警察や検察が「嫌疑不十分」になるような証拠しか収集していなければ、当然検察審査会でも「嫌疑不十分」になるので、起訴相当にはならない。捜査権を持たない以上、いわゆる捜査過誤みたいなものを、後から審査できない(167頁〜168頁)。
 石井さんはオウム真理教問題、統一教会問題に向き合っていた。また、犯罪被害者支援にも取り組んでいた。

 泉さんは20代の頃、テレビ朝日の「朝まで生テレビ」の制作や「ニュースステーション」の取材に参加していた。ある日、高田馬場の書店で石井さんの著書「つながればパワー・政治改革への私の直言」を買って読んだ。感動した泉さんは石井さんに手紙を書き、思いがけず返事が来た。喫茶店でいきなり会った。そして、泉さんは仕事を辞め、選挙を手伝うことになった。しかし石井さんは落選した。石井さんから弁護士になれと勧められ、司法試験に合格した。石井さんが殺されてから衆議院議員選挙に立候補し当選した。2年間の議員活動だったが、石井さんの意思を継いで「犯罪被害者等基本法」や「無年金障害者救済法」など議員立法を作成した。

 予定されていた国会質問で石井さんは何を語ろうとしたのか。それはこの国の会計だと推測される。国の予算は一般会計、特別会計、財政投融資計画の3つであり、この3つの中でお金が行き来する。当時2002年度の一般会計の予算は81兆円で、本当の予算額(純計)は約200兆円だ(31頁〜32頁)。参考までに2024年度の一般会計予算は約112兆円。
 また、国家予算に紐付けされる特殊法人、その下の企業は不明だ。だから一般社会にお金は下りてこなくなる。特殊法人には日本放送協会など34の法人がある。税金が一般の予算から特別会計に流れてしまった後、そこからまた民間に流れてしまっているから、それ以上追うことができない。議員には国政調査権が付与されているが、個人情報を理由に官僚も資料を出さなくなってきた(183頁)。情報公開法とは名ばかりのもので、行政が資料を出さない根拠にしている法律なので、ブラックボックス化が進んだ(184頁)。
 ターニャさんは、「千駄ヶ谷で父を待っていたその方は、金融のRCC(整理回収機構)の問題で・・・」(139頁)と話している。特殊法人の詳細を知るのは困難だ。会計検査院は強制権限がなく、不当であるとの指摘しかできない。指摘を受けても事業を中止したり、責任を取る義務を負うことはない。

 日本の官僚制は腐朽し構造的汚職が蔓延る。政治家も一部を除いて同様である。腐朽はメディアや一般社会まで瀰漫し続けている。
 社会に変化をもたせるには、先ず選挙に行くことだと思う。アンフェアをフェアに少しでも変えるには、ひとり一人の行動からだ。

<読書メモ>
・安冨:「日本が自滅する日」には具体的なデータが挙げられていて、かつ、私が予想していたよりもはるかに恐ろしいことが書いてあった。もう少し日本経済というのはましな経済ではないかと思っていた。「民間の活力やエネルギーというものが背後にあって、そこに国家システムが乗るという形態は、少なくとも戦後経済においては形成されていたのではないかというふうに期待していたが、見事に打ち砕かれてしまった。
・ソ連留学で、マルクス主義によって統治されている国家を知ろうと思って行ったが、実際に見たのは恐るべき官僚経済だった。
・安冨 この人こそが戦後最大の政治家であり、政治家だけでなく財政学者、経済学者と言ってもいいかもしれない。社会経済学者として最高の業績を残した人だと思っている。
・「特殊法人は全部なくせばいい。代替案はいらない」とおっしゃっていて、そうすれば、その空いた穴を、民間の経済活動が埋めるのだから、特殊法人は全部なくしてよいという解決案を出している。

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