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ソーシャルディスタンス・アルティメット
●コロナ時代が生んだNEWゲーム
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「体育館でできる,ソーシャルディスタンスを守った体育はできないか」
コロナ禍まっただ中の2020年。休校が明けて,みんなが集まれるようになったころ,「制限がある中でも,たのしく体を動かせるゲームはないものか」と考えて, いくつかの案を出し,当時担任していた6年生のクラスの子たちと,いろいろと試していました。
すると,想像以上に盛り上がりをみせるゲームがありました。子どもたちに感想を書いてもらうと,いくつか問題点があることがわかり,その意見を確認しながら,よりよいルールを作っていったら,空前の大人気ゲ ームができあがってしまいました!
その名も,「ソーシャルディスタンス・アルティメット(SDU)」です。
●本当のアルティメットのルール
「アルティメット」というのは,フリスビーのようなフライングディスクをつかって行う, 身体接触のないアメリカンフットボールのようなスポーツです。
パスをつないでフライング ディスクを運んでいき,相手陣地の奥にあるエンドゾーン(ゴールゾーン)で味方のパスをキャッチすれば得点になる,というゲームです。ディスクをもって走ったり,相手から無理やり奪い取ったりするのは反則です。
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アルティメットではフィールド全体を走り回り,味方のパスをキャッチしたり,相手のパスをカットしたりしますが,プレーヤー同士が意図せずぶつかりあったりすることも起きます。
そこで,今回紹介する「ソーシャルディスタンスアルティメット」 は,各プレーヤーの動ける範囲を限定することで,プレーヤー同士が接触したり近寄りすぎたりすることを防ぎながら,たのしく遊べるように工夫してみました。
●やり方・ルール・用意するもの
⓪用意するもの
・ドッヂビー
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・マーカーコーン
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・ゴールコーン
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①チーム分け
帽子の色を変え,赤チームと白チームにします(コロナが収束してからは,色ゼッケンを使用しています)。
②コート
図のようなコートを作って,チームごとに交互に入ります。
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実際に線を引かなくても,マーカーコーンをいくつか並べて,ラインがわかるようにしておけば OK です。
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エンドゾーンの両端に三角コーンを置いてゴールとします。
クラスの人数によって,コートの幅を変えた方がよいと思うのですが,30 人以上のクラスであれば,下の図のように,7本のラインをつくり,8つのゾーンに2チームが交互に入ります。
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1つのゾーンに,4〜5人ぐらいがちょうどいいです(6人入ってしまうようだと,せますぎてつまらなくなると思います)。
30 人以下の学級であれば,ゾーンは6つにした方が盛り上がります(当時のクラスは 26 人だったので,6ゾーンでやっていました)。
③攻撃の仕方・守備の仕方
「フリスビー(ドッジビー)」は2枚使用し,一番後列にいる 「キーパー」が,各チーム一枚ずつ持ってスタート。
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ソーシャル ディスタンスを意識しながら,ドッジビーを相手ゾーンの向こう側にいる仲間にパスをしてつないでいき(図でいうと「キーパー」→「ディフェンダー」→「ボランチ」→「シューター」の順), 最後に,「シューター」が,コーンの間の「ゴール」の壁にディスクを当てたら,チームに1点が入ります。
相手がパスカットをした場合は,すぐに相手チームのディスクになります。相手のすきまをどうかいくぐって,仲間にパス が出せるか,どうパスをさせずに,ディスクをカットして奪うかが,勝利へのポイントになります。
*ゴールには高さ制限を作るとよいです。当時の学校の体育館だと,「コーンの間のステージに当てるとゴールだけど,ステージの上に乗るとアウト」というルールでやっていましたが,ちょうどよかったです。
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高さ制限を作らないと,高く投げられたシュートは,キーパーが止められ ないからです。
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本来のアルティメットでは,ディスクを落としたら相手のものになるのですが,この「ソーシャルディスタンスアルティメット」のルールでは,落としてしまっても自分のコートに落ちたものは拾っていいことにしています。
また,シュートのときだけは,下に落ちずに(転がらずに),直接ゴールに当たらないと無効になる,などのルールはあるとよいかもしれません。
そのあたりは,子どもたちと相談して決めてよいと思います。
④リスタートの仕方
得点をされてしまったら,「キーパー」からのリスタートでゲームが再開します。シュートが外れたら得点にならず,これも「キーパー」からのリスタートで。
ただし,体育館の「横壁」にドッジビーが当たっても,コートアウトにはならず,自陣のコートで拾ったところからのスタートとなります。
ジャンプでキャッチしても,着地したところが相手コートであればアウト。相手チームに「ドッジビー」を手渡してリスタートになります。
⑤コート・ローテーション
「キーパー」→「ディフェンダー」→「ボランチ」→「シューター」→「キーパー」……という風に,2分ごとに守るべきゾーンがローテーションで変わるようにします。これは,いろいろなゾーンでいろいろな役割・活躍ができるようにするためです。
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「ゾーン内での位置も,ローテーションする」というルールがあってもよいと思いますが,話し合いでもめなければ「自分たちで決めてよい」というルールでもよい気がします。それも,子どもたちと相談して決めてください。
ローテーションが一周したら,そこでゲームが終了します。
●授業の流れ
①まず,クラスで4列になって並び,体操のできる隊形に開いて,準備運動をします。
②2人に1つ「ドッジビー」を配り,となりの人とパス練習をします。
(そんなにドッジビーがなければ,チーム内で練習します)。
③近くの壁を使って,お互いに「シュート練習」をします。
(シュートする人と,守る人に分かれて,交代に練習)。
④4列の隊形にもどり,前から4人ずつそろったら座っていきます。横からみて,6列コートにするか,8列コートにするかを決め,後ろの方のあまった子たちを,どこかの列に入れていき,4人か5人の列をつくります。
⑤前から,「赤チーム」→「白チー ム」→「赤チーム」→「白チー ム」→「赤チーム」→「白チーム」 と決めていき,帽子で色を分け,チームをつくります。
(ゼッケンがつかえたら,ゼッケンの方が盛り上がります)。
⑥ルールを説明し,ゲームを開始します。
⑦2分ごとに「ローテーション」を宣言し,全ての役割が終わったら,ゲームが終了します。
⑧パスの仕方,シュート,パスカットなど,上手になったところやナイスプレイをほめて終了です。
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子どもたちの評価・感想
子どもたちの評価と感想は, 以下のようなものでした。
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☆パスをして,シュートをするという簡単な動きだけで遊べるので,楽しかったです。相手のパスを阻止することがむずかしかったです。友達がすごいパスやシュートをしてい たので,すごかったです。新しいルールになって,様々なポジションが楽しめるのでよかったです。守ったり,シュー トを決めたりできるのがおも しろかったです。またやりたいです。(大竹諒くん⑤)
☆コートが分かれているので,ぶつかったり,とりあいにならないのがとても良かったし,楽しかったです。密もさけられます。シュートしたり,ゴー ルを守るのがとても楽しかったので,何回もやりたいです。絶対に1人1回以上は投げられるので,とっても楽しいです。(西川謙心くん⑤)
☆ボールじゃないから,当たってもぜんぜんいたくない。あまり速くないから,取りやすい(投げると曲がっちゃうけど)。2分で場所が変わるから,いろんなところができて楽しい。パス練習ではあまり取れなかったけど,試合ではたくさんシュートを止められて,うれしかったです。とても楽しかったので,またやりたいです。(浅野莉子さん⑤)
☆自分たちのコートがあるのがいいと思います。全てが自由でマスがなかったら,フリスビーを持つことも投げることもできないと思うので,とてもいいと思います! そして,チームで協力して戦えるので,いいと思います! そして,今はコロナなので,そんなに密にならないのがいいと思います。乃愛ちゃんが投げたフリスビーは,とってもキャッチしやすかったです。たくさんキャッチできたし,シュートもできたので,とても楽しかったです! (新井優菜さん⑤)
☆相手にうまくパスができるように,色々な工夫をしました。ソーシャルディスタンスを守りながら,とてもたのしくできました。ゴールされないように,ジャンプして守ったり,キャッチしたりするのをがんばりました。外や広いところでやったら,みんながフリスビーに触れないけど,体育館でやると,1人1人がフリスビーに触ることができるので,そこがいいと思います。間に相手がいるから,上手く味方にパスするために,自分で工夫するところがおもしろかっ たです。(樋渡美月さん⑤)
☆コロナのせいで,動けないルールになったけど,そっちの方がおもしろいと思った。理由は,自由に動けてしまうと, 何人かの人がフリスビーを独り占めしてしまいそうだからです。あと,サッカーとちがっ て,そんなに練習しなくても楽しめるところがいいと思いました。(森田雅翔くん④)
「転んでもシメタ」で,思った以上に楽しいNEWスポーツが生まれました。運動会の遊競技でも,この対戦をおうちの人に見てもらったら,とても好評でした!
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コロナ禍に関係なく,とってもたのしいので,ぜひやってみてください!
出典:月間『たのしい授業』2021年2月号(仮説社)https://www.fujisan.co.jp/product/1567/b/2074586/
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