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2024年の映画ベスト3+α



『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』

「人生はつらくない、だから大丈夫」ではなく、「人生はつらい、だけど大丈夫」というメッセージの映画。3人の主要人物それぞれが痛みをかかえ、必ずしもそれが好転するわけではないけれど、それでもすこし、人生に対して前向きにさせてくれる映画。

寄宿学校の嫌われもの先生と、学園の問題児と、給食のおばさんの3人がクリスマス休暇に学内に残ることに。ちぐはぐな関係は、おたがいを認めあうことでしだいに深い心の交流となっていく。

人を認めることは同時に自分自身を認めることだ。そういう無言のメッセージが、切ないけれどあたたかく、それでいて笑える物語を通して語られる。

全シーン、全カット、全セリフがすばらしく、至極の映画。

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
 監督:アレクサンダー・ペイン
 脚本:デヴィッド・ヘミングソン
 出演:ポール・ジアマッティ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、ドミニク・セッサほか
 アメリカ/2023年

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『ロボット・ドリームズ』

どんな悲しみも失敗も、すべては自分を形作るものたちで、なくてはならない大切なものなのだと思わせてくれる。いまの自分は成功や失敗の積み重ねでできていて、もし自分によい部分があるとしたらそのおかげなのだと、人生をゆるやかに肯定してくれる映画。

全編セリフなしのスペインの長編アニメ。孤独なドッグ(犬)がロボットを購入して、ふたり仲良くすごすけれど、海水浴に行きロボットは動けなくなり、2名ははなればなれに……。80年代ニューヨーク。秋から冬、そして春へと季節はめぐる。そのあいだ、ドッグは悲しみを背負い、ロボットは再会の夢を見つづける。

タイトルの由来はここから来ている。夢と現実が交錯するストーリーは、楽しいけれど悲しい。はなればなれになったドッグとロボットはふたたび会うことができるのか、それとも……。

終盤の一連のシーン。あれほど息を呑んで、スクリーンを見つめたことはしばらくなかった。心が張り裂けそうになる。僕はこの映画が好きだ。

『ロボット・ドリームズ』
 脚本、監督:パブロ・ベルヘル
 原作:サラ・バロン『Robot Dreams』
 スペイン、フランス/2023年
 https://klockworx-v.com/robotdreams/


『アメリカン・フィクション』

評判は聞いていけど(アカデミー脚色賞受賞)ここまでとは思わなかった。売れない黒人作家が売れるために白人が期待するステレオタイプな黒人小説を書く。そのとたんバカ売れするというおもしろアイデア。

観終えて思うのは、その設定なくてもきっとこの映画おもしろかっただろうな、って。ストーリーの推進力はもちろんその設定なんだけど、作家をとりまく周囲の人々の魅力や、ていねいな作劇がここちよい。

人生にはつきまとう悲しい部分があるけれど、それだけじゃない。そのなかに、いくつものかがやきを見いだすことも大事なのだ。

売れないしあまり評価もされてない本が、意外な瞬間に褒められたときの主人公の顔! 老齢の男女がひさしぶりに会ったときに交わす視線と表情!

強調されず、さらりと描かれるそういうひとつひとつにかがやきがある。そのなかで描かれるシニカルな笑いとのバランスもよくて、定期的に見たくなる作品になった。

『アメリカン・フィクション』
 脚本、監督:コード・ジェファーソン
 原作 パーシバル・エベレット『Erasure』
 出演者 ジェフリー・ライト、エリカ・アレクサンダー、スターリング・K・ブラウンほか
 アメリカ/2023年

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『レオノールの脳内ヒプナゴジア』(裏ベスト)

全然話題になってないと思うけど(札幌で上映してないんじゃ?)、予告の時点で気になっていたので配信で観た。ものすごい映画だ。

舞台はフィリピン。レオノールというかつて脚本家・映画監督だったおばあちゃんが、空からテレビが降ってきて昏睡状態となる。彼女は夢の中で、自分が書いていたシナリオの世界をさまよう。出てくる人物もつぎに起こる出来事も、セリフも一字一句わかってる。住人たちはレオノールを不思議がる。

つまり彼女はこの世界の神様なのだ。自分で作った世界で、人の生き死にも彼女が書いたことなのだ。ちなみに彼女は、意味もなく格闘シーンが乱発する80年代B級アクションの監督だったらしく、妙に人間くさくバカらしいその世界も魅力的だ。

いっぽう現実世界では昏睡状態(半昏睡で半覚醒状態=ヒプナコジア)になったレオノールの、息子、前の夫、そして死んだ息子の幽霊が、彼女の身を案じ目を覚まさせようとしている。

ちなみに息子の幽霊は半透明ではあるけれど、ふつうに息子や前の夫と会話していて、わかりやすく言えばマジック・リアリズム的。現実と非現実のさかいがあいまいなところは随所にあって、終盤には映画という虚構性ともリンクして、まるでお祭りのようにこれでもかと畳みかけてくる。

監督はこれが初長編映画らしく、その才気走った点をどう思うかでこの映画の評価は変わる(もちろん僕は好き)。いろんなものを詰めこみすぎてるし前半はすこし退屈な部分もあったけど、レオノールが迷いこむB級映画の世界は楽しくて、最終的には敵役すらも愛おしく感じる。

ある種珍品的な映画ではあるけれど、創作にたずさわる人間や、欠点すらも愛らしいB級映画好きにはたまらない作品だと思う。

『レオノールの脳内ヒプナゴジア』
 脚本、監督: マルティカ・ラミレス・エスコバル
 出演:シーラ・フランシスコ、ボン・カブレラほか
 フィリピン/2022年

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『TRAP』(特別賞)

大好きなシャマランの新作が来たのでこれをはずすわけにはいきません。近年のシャマランのなかではいちばんの娯楽作なので楽しんで観られるはずです。くわしい解説はYouTubeでしゃべってますのでぜひそちらを観てください!

「変な本大賞 決定会議」
 全オレ待望!シャマラン最新作徹底解説&その先へ『トラップ』M・ナイ
 ト・シャマラン
 https://youtu.be/RGmC978lHIg?si=lIgVPARLrIp9_qrV

さあ2024年もこれでおしまい。来年はいったいどんな映画が僕を楽しませてくれるんだろう。ありがとう2024年、よろしく2025年。みなさんにとってもよい年でありますように。いい映画をたくさん観て(よくない映画だって楽しいし)すばらしき2025年になればいいなと期待をこめて。


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