Gainsightニック・メータさんから教わったカスタマーサクセス10の原則:CSPROUDより徹底解説(約1万字以上)
新・カスタマーサクセス10の原則を解き明かすーー先日、弊社openpageで行ったカスタマーサクセスの大型イベント「CSPROUD」は非常に高い満足度をいただくことが出来ました。
その中でも目玉であったGainsightニック・メータさんが語る「新・カスタマーサクセス10の原則」の生解説は、カスタマーサクセス感涙ものの情報でした。
本記事では、ニック・メータさんから直接教わった「新・カスタマーサクセス10の原則」の話を私の学びとともに徹底解説します。ニック・メータさんからの学びが大変多く、前回紹介した記事の2.5倍以上の情報量、約1万字を越えるボリュームの大作記事になりました。
なお、当日のイベント内容の文字起こしが下記よりダウンロードできますので、こちらの資料と合わせてご拝読いただけますと幸いです。
THE MODELはもう古い?カスタマーサクセス時代の新しいファネル
まずニック・メータさんに直接聞いてみたかったのは、新・カスタマーサクセス10の原則を語る前提として、日本では潮流となっている「THE MODEL」のファネルについて、ニック・メータさんが懐疑的であることです。日本ではTHE MODEL的なアプローチがSaaSベンダーの中心的な手法ですのでここを聞いてみたかったのです。
ニック・メータさんが語るには、このファネル(THE MODEL)の問題点は、結局は「顧客との契約」に企業体力の多くを集中させることになるので、カスタマーサクセスが中心ではなく後回しになることだと語られていました。
そもそも、SaaSの製品は初期費用が安いです。そのため、顧客の契約時点ではなく、中長期で売上を回収するビジネスモデルです。
ですから、顧客の契約よりも、中長期の月額課金を積み重ねながら、クロスセル/アップセルでLTVを積み上げたり、顧客紹介をもらうなどをして、「既存顧客から得られる売上を最大化する」ことのほうが理にかなってはいます。この既存顧客からの売上最大化という観点が、THE MODEL的なファネルでは難しいのです。
ニック・メータさんは、マーケティングからカスタマーサクセスに流れていく直線的なファネルではなく、カスタマーサクセスの後で更に売上につなげていくような「円を描くサイクルモデル」を提唱していました。カスタマーサクセスを通じて新たな顧客を獲得したり、新たな売上を出すという考え方です。これは後述するNRRの話にも繋がります。
では10の原則を次に1つずつ解説します。
新・カスタマーサクセス原則1:カスタマーサクセスを会社のコアにしよう
米国では、企業における経営レベルでカスタマーサクセスが重要であるという考えが普及してきているとのことです。幹部職としてもCCO(チーフ・カスタマー・オフィサー)が必要という考えが当たり前になってきています。これは日本とまだ差がついていると思いました。営業職出身の取締役は経営チームにいても、カスタマーサクセス出身の取締役は少ないからです。まだ日本でカスタマーサクセスが生まれて4~5年程度しか経っていないことも影響しているはずです。
CCO(チーフ・カスタマー・オフィサー)とは何か?については私たちopenpageが運営するYou Tubeチャンネル「カスタマーサクセスTV」でも解説しています。
米国ではCCOが会社を牽引し、他部門、これは例えばプロダクト部門やマーケティング部門においても、カスタマーサクセスが重要だということを社内啓蒙している。かつ各チームがその重要性を理解しながら仕事に望んでいるとお話を頂きました。
日本はまだまだカスタマーサクセスを中心として各部門が一致団結するという状況にはなっていません。それを牽引するリーダーがいないのです。日本におけるCCOの啓蒙も必要です。
カスタマーサクセス部門の全社的な影響度を高めていくため、顧客のトレンド・満たせていない顧客ニーズ・顧客の現状の課題などを「インサイト」として各部門に共有していかければならないとお話いただきました。そして、製品の開発もそれに基づいて行わなければいけないと教わりました。
カスタマーサクセス部門が起点となって各部門を動かせているか?まだそこまでいってる会社のほうが少ないはずですので、「カスタマーサクセスをコアに」した企業の取り組みについては、弊社の活動としてもっと紹介していかなければなりません。
新・カスタマーサクセス原則2:セールスからカスタマーサクセスまで一貫したジャーニーを作る
どうやら、アメリカでもセールスからカスタマーサクセスの引き継ぎがなされないことはよく起きているようです。これは国を問わず、分業体制である以上発生する歪みなのでしょう。
ニック・メータさんは、「ベンダーと顧客の間で双方でサクセスプランを作っていくべきだ」と提唱しています。
一般的に、ベンダー側が提案を作りがちですが、企業行動としてはまず顧客の中に「目標」や「進みたい方向」があるはず。ベンダーはそれを助ける役割なんだと教えていただきました。これをセールス段階から作成し始めて、カスタマーサクセス段階まで引き継いでいきます。
そして、ベンダーと顧客の双方が歩み寄って共に製品導入による成功=カスタマーサクセスを話し合うべきだ。その情報にもとづいて、セールスからカスタマーサクセスにいたるまで一貫した行動をベンダーは取るべきだとお話をされていました。
後ほどの4の原則「カスタマーサクセスする上でお客様のコミットメントも必要」にも関係しますが、顧客の主体性も尊重したカスタマーサクセス活動の必要性を実感します。
新・カスタマーサクセス原則3:カスタマーサクセスは、価値を高めていかなければ解約される
以前から、カスタマーサクセス=CX(期待以上の顧客体験)+CO(望まれる成果)だというGainsightの発信は耳にしていました。
ずっと前から知ってた言葉ではありましたが、ニック・メータさんがこれを更に具体的に解説されており、今も一貫しているカスタマーサクセスのフレームワークなんだと驚かされました。
ニック・メータさんはセールスイネーブルメント製品GONGを事例に出していました。
GONGは日本では聞き慣れない名前ですが、米国ではすでにユニコーン企業と評される有名なセールスイネーブルメント製品を持つ会社です。日本ではMiiTel(ミーテル)が近しいです。
このGONGは、セールス製品なので商談率を高めるなど効果が見えやすい。つまりCO(望まれる成果)の実現については当然カスタマーサクセスも行っています。
私がハッとさせられたのは、エクスペリエンス(CX)の設計の説明です。
GONGは、ただ成果が出るための支援をするだけではなく、「プロダクトを楽しく使ってもらえる」ように工夫しているとのことでした。つまりコミュニケーションとして楽しめるものになっている。期待しているより製品を学びたくなってしまう、使ってしまう。これがCX(期待以上の顧客体験)の実現です。
openpageでもこれに似た事例があります。弊社製品のopenpageを用いてTalknote様と共に構築したカスタマーサクセスサイト「TERAKOYA」も近しい取り組みです。
カスタマーサクセスにおける体験として、サイトコンセプトやメッセージ設計など、製品活用について楽しく学べるコミュニケーションの工夫をTalknote様は行っています。
BtoBは企業間のコミュニケーションは、どうしても表現が固くなりがちです。ニック・メータさんはそれを指摘しつつ、『ヒューマンファースト』をいう思想を私たちに教えてくれました。
ヒューマンファーストとは、「目の前の人は、企業である前に1人の人間である」という法人取引において見逃してしまいがちな考え方です。企業と企業の取引である前に、人と人との交流が先立ってあるというものです。
ヒューマンファーストであれば、人間らしくありたい。楽しく仕事したい、個人としても出世したい、周りに認められるよう成長したい…といった相手を「個人」として捉えたコミュニケーションをするという発想が生まれます。
Gainsightでも「子供のような楽しみ」をテーマにしていると聞きました。
こちらのYouTubeにあがっているGainsightの動画も、どこか人間的で心温かいコミュニケーションをしようとする工夫が伝わってきます。
私はこの話を聞いて、ずっとためらっていたYou Tubeチャンネル「カスタマーサクセスTV」を開設しました。少し余談かもしれないですがご了承ください。これまで、You Tubeであれば、ヒカキン、はじめしゃちょー、ラファエル、ヒカル…といった、エンタメコンテンツが中心となるので、BtoB取引の内容であるカスタマーサクセスを話題にするには適さないと思っていました。
しかし、ヒューマンファーストの考えに立つのであれば、お客様は仕事をしつつも、家でゆっくり面白動画や映画音楽など、エンタメコンテンツを楽しんでいる。その視聴姿勢に即した形で、面白おかしくカスタマーサクセスを伝えるのも悪い取り組みではないと考えるようになりました。
この番組を作るうえでYouTubeのノリとテンションでカスタマーサクセスを語るをテーマにしており、映像編集の方からは「ビジネス動画で漫譜(漫画におけるビックリマークをつけるような、You Tube的な感情表現編集)なんかつけたことないです」とも言われたりしました。
ですが、カスタマーサクセス活動を含む企業取引において、今後はチャネルや媒体によって、厳格的な固い伝え方と、柔らかい伝え方とで、コンテンツを使い分けるような企業コミュニケーションが行われる時代になると予想しています。
今後CX(期待以上の体験)を工夫するさまざまなコミュニケーション方法がカスタマーサクセスにおいて開発されていくことでしょう。
新・カスタマーサクセス原則4:カスタマーサクセスをする上でお客様のコミットメントも必要である
これはインパクトのある原則で、アメリカの企業でも「お客様にコミットさせるなんて・・・」という意見は当然あったらしいです。
ただ実際に製品を活用するのは顧客自身であることは間違いなく、カスタマーサクセスにおいてはベンダー側に加えてお客様側のアクティビティの計画もしっかり立てるべきだという話は納得せざるをえません。
ニック・メータさんは「マチュリティモデルを作るべき」というお話をしていました。これはTHE MODELの中でも紹介されています。
製品の成熟レベルを何段階にわけて、お客様にどこまでコミットできるかをすり合わせていくような考え方です。このモデルに合わせて、どこまでお客様がツール活用にコミットしていけるかを双方で話し合ってプランニングするのです。
この話の中で、「お客様のリソース」についても触れていました。
基本、新しく導入したベンダーはそこまで信用もありません。お試し程度にちょっとしかリソースが割かれないこともあります。
そこからカスタマーサクセス活動を繰り返して、提案するツールのお客様企業内の影響力を高めていきながら、多くのリソースを割いていただく取り組みにしなければならない、とニック・メータさんは語っています。
顧客のマチュリティモデルのレベルが上がるということは、製品に割かれるリソースが増えて、お客様が自立的に出来ることが増えていくことでもあります。
その顧客のレベルアップの過程において、お客様にどこまで何のタスクが発生するのかをすり合わせながら、お客様自身も適切にコミットできるように、お客様の自立的な製品活用アクションを支えていくような支援をカスタマーサクセスはしなければなりません。
openpageでも、この「お客様もコミットメントをするべき」だという考え方を弊社の製品に組み込ませていただきました。弊社の製品openpageは、SaaS製品のカスタマーサクセスサイトを作って、お客様に自立的に学習してもらおうとする仕組みです。
この製品学習プラットホームを活用して、お客様の中で自ら学習する機会を適切に取れるようにし、人数的にも多くのユーザーに使ってもらえるようコミットメントレベルを上げることを目的としています。
私の過去の経験では、「ベンダーに言われなければ製品を触らない状態≒お客様のコミットメントが低い状態」というのは解約率が非常に高いものです。
製品活用においては、カスタマーサクセスが頑張りたくなるものですが、実態としては「お客様が製品活用を頑張ってる≒お客様のコミットメントが高い」ケースこそが契約を継続させます。顧客の自助努力を引き出す環境をどう用意するかがカスタマーサクセスにおいては重要です。
新・カスタマーサクセス原則5:カスタマーサクセスオペレーション(CS Ops)への投資
CS Opsとはなにか。私も以前、記事にしたのですが、ニック・メータさんが改めてCS Opsの概要と現状について解説していただきました。
CS Opsとは、「CSMがより良い仕事をしやすくするためのもの、CSMを最高のレベルに引き上げるもの、カスタマーサクセスの投資対効果を最大限に高めるもの」です。
ニック・メータさんの説明で私の周りでも評判が良かった刺さるフレーズは、「カスタマーサクセスオペレーションというのは、CSMのためのCSMみたいなもの」という表現でした。
なんとアメリカでは約70%の企業がCS Opsチームを持っているようで、驚くくらい普及しています。おそらく日本も近い将来そうなっていくでしょう。
この仕事は、日本の職業で言うなれば「経営企画、営業企画」に仕事内容が似ています。CSOpsは「データ分析、システム導入、トレーニング」が主な業務ですが、これは従来は営業職に対して営業企画の領域でやっていたものです。
SaaS企業においては、営業職よりもカスタマーサクセス職のほうが人数が多かったりしますので、今後は営業企画部を配置する代わりにカスタマーサクセス企画部、CSops部、カスタマーサクセスオペレーション部といった名前の部門が出来てくるでしょう。ないしは、既に会社内にある経営企画・営業企画が実質CSOps的な機能を担うケースが多くなるかもしれません。
まだまだ上場しているSaaSベンダーが日本には少ないためCSOpsの専門チームはまだ珍しいのですが、現在多くのSaaSベンダーが成長しており、これらSaaS企業が上場に近づけば予実管理の体制を作るために企画機能が強化されるはずです。これに伴いCSOps的な取り組みは今後数年で拡大していくのは間違いありません。
新・カスタマーサクセス原則6:スポンサー顧客の変更
以前に、ALL STAR SAAS FUNDのポッドキャストにゲストで私が出演した際に、ALL STAR SAAS FUNDの神前さんとは、これ…いきなり急に具体的になりましたね!とお互いで突っ込んだ原則です。
先ほどの「ヒューマンファースト」の考えをまた違う角度で解釈しますと、目の前の担当は1人の人であるがゆえに、その人が「会社のすべて」を表しているとはいえません。
その人との対話をするだけでは、会社の中の戦略、目標、アクションなど100%完全に理解出来るかというとそうではないこともあります。
ニック・メータさんは、「複数名の関係性を持ちながら、企業としての全体像をはっきりさせていくべきだ」と教えてくれました。
人が変わったとしても、顧客側が考えている、会社としての方向性や目標は理解している状態をベンダー側が作るということです。
目の前の担当者の理解はもちろん、その先にあるチーム、部門、会社の全体像を理解しにいこうという動きに関しては、会社の中にいるわけではない、あくまでも外野の立ち位置では難しいかもしれません。
しかし、複数人のステークホルダーとコミュニケーションを取って、複眼的にその会社について理解できるよう努力したほうがいいでしょう。
Gainsightでは、下記の画面のような、「会社」という単位だけではなく「個人」の単位で顧客コミュニケーションを管理するような機能が実装されています。
会社としてだけでなく、その中の個人と360度で連絡のマネジメントができ、様々なステークホルダーとの交流を促進しているのです。
弊社製品のopenpageですと、「SaaS利用者のアカウントごとにSaaS学習状況が見える」ような機能を実装しています。
SaaS製品を誰が自ら使おうとしているか、カスタマーサクセス側が認識出来るようになる機能です。
Gainsightやopenpageのような製品を活用して、顧客に関しては1ユーザーの単位でコミュニケーションを出来るようにしておいたほうがいいでしょう。
製品活用のうち、100%目の前の担当が使っているケースもあります。しかし90%は担当が、10%はチームの他メンバーが使っていて、もし辞めたらこの人が担当になることもある…といったシチュエーションも想定するのです。
それを念頭に置くのであれば、目の前の顧客その人を大切にしつつ、組織やチームも意識したコミュニケーションをカスタマーサクセスは行っていくという動きに変わってゆくはずです。
新・カスタマーサクセス原則7:プロダクトのチームとカスタマーサクセスというのは親友になるべき
プロダクト部門が考える開発ロードマップに対して、カスタマーサクセスから顧客の声(VoC)を連携しサポートをするべきだ、という話はよく聞くようになりました。
ニック・メータさんは一歩踏み込んで、「お客様からの要望をただすべて受け入れるのではなく、プロダクトとしての一貫したテーマも意識しながら、優先付けや方向性のサポートもするべき」ともおっしゃっていました。
これはつまり、カスタマーサクセスにも「プロダクトマネージャー的な仕事術」が求められるということです。
※プロダクトマネジメントの仕事とは?をより詳細に解説する記事はこちらからご確認ください。
またニック・メータさんは、「新機能をリリースする際のプロセスもカスタマーサクセスとプロダクト部門が連携してしっかり考えるべきだ」とも教えていただきました。これは目からウロコの考えでした。
新機能のリリースをする際の顧客案内の整備や、リリースした機能が上手くいってるかの測定をカスタマーサクセスとプロダクト部門の連携から行おうというわけです。
弊社のopenpageをご利用頂いているお客様の中にも、新機能はリリースされる際にはopenpage上のコンテンツ発信、メールでの一斉告知、ハイタッチ担当への育成などをきれいに整理されている方もいらっしゃいました。
このように、プロダクト部門とカスタマーサクセス部門が連携した何かしらのリリースルールを整備したほうがいいでしょう。そのような協業を通じて、両者が「親友」になっていくのです。
新・カスタマーサクセス原則8:製品を活用してTime To Valueを加速させる
「PLGというと本当にすべてプロダクトで完結するようなプロダクトを思い浮かべてしまうが、それは違う」とニック・メータさんはおっしゃっており、PLGはまだ生まれたばかりの概念やコンセプトであるがゆえ、米国でも誤解が生まれてるようです。
PLGとは、プロダクト内の製品案内を強化することで、お客様が自らプロダクトを利用できるような支援のあり方です。これによってスケーラブルな事業成長が可能になります。
ニック・メータさんいわく「カスタマーサクセス業務のどこが人のサポートをすべき分野なのか見極める必要がある」とおっしゃっておりました。カスタマーサクセスのBPR(業務プロセス改善)のアクションが必要になるのでしょう。
直近では弊社openpageの取引顧客だとFindy様がこのカスタマーサクセス業務のプロセス改善に取り組んでいました。
取引社数が増えていく中で、どこまでが人で案内するべきで、どこはプロダクト内の情報提供でカバーできるのかを棚卸しを行うのです。Findy様は、キックオフMTGなどでのカスタマーサクセスの人的なコストをPLG的な取り組みで削減をしつつ、より人が行うべき体験にリソースを投資しました。これは「製品自体が価値を提供する」正しいカスタマーサクセスアクションだと思います。
PLG、プロダクトの案内だけで顧客が価値実感できるようにするためには、顧客自身の「学ぶ力」「取り組む力」を信用し、学習の場つくりをする必要があります。例えば、SaaSの元祖であるSalesforceは、トレイルヘッドと呼ばれるデジタルプラットホーム上で多くのユーザーが自ら製品を学習する空間つくりに成功しています。
しかし、書籍『おもてなし幻想』に掲載されている統計情報によると、企業は「人によるフォロー」を「デジタルによるフォロー」よりも良いものだと考えるバイアスがあるようです。たしかに、私の経験則でもカスタマーサクセスが行った素晴らしいおもてなしの仕事は、社内でも褒められるし、推奨がされていました。
しかし、実は人によるおもてなし体験は企業が思ってるほど重要ではなく、セルフサーブで問題解決したい人が多い、ということをデータで証明した書籍が上記の「おもてなし幻想」です。
自分がユーザーの立場になったとき考えてほしいのですが、何かを始めるときに、「①まず自分でマニュアルを読んだり検索をしたりしながら進めるタイプ」でしょうか。それとも「②最初からすべて人に聞いて、最初から最後まで人により直接に解説をしてほしいタイプ」でしょうか。実は、前者の人も数としては多いはずです。
しかし、企業側のカスタマーサクセス設計の立場にたつと、どうしても人のサポートに傾倒してしまうのです。書籍によると、これは日本だけではなく世界共通の「バイアス」のようです。
ニック・メータさんは「PLGはSlackなどのような製品だけのものと捉えられがち。しかし、プロダクト内でガイドをする考えはあらゆる企業で採用できる考えだ」とおっしゃっております。人の体験設計に偏り過ぎることなく、顧客の自助努力を尊重した(自らプロダクトを触って業務を推進していけることを前提とした)カスタマーサクセスの考えも必要です。
新・カスタマーサクセス原則9:NRR(ネットレベニューリテンション)を理解するべき
「チャーンレートはもう古く、不十分である」ことをニック・メータさんは指摘しています。
解約を防ぐだけでは企業の活動として足りない、これからはNRRだ!と言わんばかりのテンションでした。NRRはカスタマーサクセスで売上に貢献することが明確にわかる指標であるため、解約を防ぐといった「ネガティブをなくす」見え方から、「会社の業績を牽引する」新しい見え方に変えていきます。GainsightはこのNRRは「カスタマーサクセスにおけるノーススターの指標だ」と特設サイトを作ってまで啓蒙しています。
では、ここまでGainsightも注目するNRRとは何か。日本で言えば「売上維持率」を指しており、昨年に獲得した顧客に対し、その今年の売上を昨年比で見たときに、プラスなのかマイナスなのかを見るものです。
例えば、去年の売上が1億円で、今年はアカウント増などの影響で売上が増えて1.1億円であればNRRは110%です。一方、今年に入ってチャーンの影響で0.9億円ならNRRは90%となります。
zoomなど素晴らしい企業であれば、NRRの数値が130%、140%程度あります。これ何を意味しているかと言えば、「新規顧客を獲得しなくても、既存顧客から毎年30~40%の新規売上を立てられる」ということです。従来にはなかったSaaSやサブスクリプションビジネス特有の驚異的なマネタイズモデルです。まさに、カスタマーサクセスが売上を運んでくるのです。
米国では、VCだけでなく上場企業に投資する機関投資家もこの指標の魅力に気づいており、NRRが時価総額と比例していたりします。
米国のほとんどのSaaSベンダーはNRRをIR情報として公開しており、最近は日本のSaaSベンダーでもNRRを同じく公開し始めるようになってきました。
NRRと書くと英字表記なので一見難しそうに見えますが、計算や考え方は簡単で、むしろ親しみやすい指標です。企業のカスタマーサクセス力が明確にわかる指標ですので、今後日本でもNRRはどんどん普及していくはずです。しかしNRRはさすがにわかりにくいですので、「売上継続率」のような日本語表記のほうがわかりやすいかもしれません。
新・カスタマーサクセス原則10:カスタマーサクセスはメトリクス・ドリブンであるべき
まず、ニック・メータさんは「遅行指標」と「先行指標」の話をしていました。解約率、NRR、契約更新率といったカスタマーサクセスでKGIとする数値は、1~2年とそれなりのスパンがないと計測できないものです。SaaSにおいては契約期間が長期間あるため、解約を計測するのに時間がかかる。そのため「遅行(遅れてきて計測できる)」指標なのです。
そこを予測するために使う先行指標がヘルススコアなんだ、と改めてご説明いただきました。
そしてニック・メータさんからはこの先行指標となるヘルススコアの設計手法として、「DEAR」フレームワークのご紹介を頂きました。こちらのフレームワークも、昔から知ってはいましたが、Gainsightニック・メータさん本人から聞くと改めて重要性を実感します。
カスタマーサクセスの指標に関しては、先日弊社でも全37ページでカスタマーサクセス指標を徹底解説するホワイトペーパーを作成しましたので、こちらも合わせてご参照ください。
さて、Gainsightに関しては最近に日本市場進出のニュースを見ました。
実はこれは私自身は以前から知っていて、日本市場で法人登記した話や、日本の支援会社と組んでマーケットリサーチをしていた話などこっそり聞いていました。
私の肌感覚では、まだまだヘルススコアを上手く実装出来ているのは上場前後のメガベンチャーに近いSaaSベンダーが中心だと思うのですが、今後は大手SIerやスタートアップの事例も増えてくるでしょう。
Gainsightが米国で強いと言われているのは、プロダクトも当然ながらリードしていますが、カスタマーサクセスのコンテンツ発信力が強く、ニック・メータさんを中心にかなり細かいノウハウを含めカスタマーサクセスの情報発信をしています。
何よりニック・メータさん自身が現場の情報発信をバリバリ出来るのが強く、それに呼応する形で他の社員の方も積極発信をされています。私も彼を見習って今後も自身でのカスタマーサクセス情報発信は引き続き頑張りたいと思います。Gainsightとの関係性はよく、今後もゲストで呼んだりしたいと考えています。ニック・メータさんと共に、日本のカスタマーサクセス市場を盛り上げていく所存です。