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竜宮城からの招待状(パスポート) 6話 タイムスリップの仕組み

 アーロドロップが泣き止んだ後、慶汰は彼女を自宅に上げた。五センチは歯があった下駄からスリッパに履き替えたので、慶汰の肩の高さに彼女のつむじがくるほどの身長差になる。下駄は慶汰の部屋に隠すことにした。
 キッチンで紙パックのジュースを二人分注いで、ダイニングテーブルに座る。すると、アーロドロップがぽつりと呟いた。
「モルネア……」
「あの玉手箱、龍脈を蓄えて龍脈術を使えるって仕組みは、乙姫羽衣と同じなんだろ? だったら、今までアロップのネイルコアにいたように、今もモルネアは玉手箱の中にいるんじゃないか?」
「……ええ、さっきは取り乱しちゃったけど、あたしもそう思うわ」
 励ますための当てずっぽうだったが、どうやら功を奏したらしい。
「モルネアは、龍脈エネルギーをどれくらい持っていたんだ?」
「常にあたしから供給していたから、すぐに稼働しなくなったでしょうね。でも、玉手箱に付着しているというなら、竜宮城に玉手箱を入れれば復活してくれるはず、なんだけど」
「付着……まあ、そういうことなら一安心、か……?」
 ゆっくりと息を吐く慶汰に、アーロドロップは頭を下げた。
「心配かけてごめんなさい」
「いいさ、気にすんなって」
 ジュースを一口飲んで、慶汰はもうひとつの問題を呈示する。
「それで、玉手箱が龍脈を吸収して、竜宮城に入るためには龍脈がいるってことは……吸い尽くされるわけにはいかないから、アロップは触れない?」
「さすが慶汰。話が早くて助かるわ」
「おお……まじか……でもそうなると、アロップはこれからどうすりゃいいんだ?」
「今はなんとも言えないわ……。でも、あたしが触れるわけにはいかない以上、誰かが玉手箱を抱えてあたしに着いてくる必要があるの」
「着いていくって……深海なんだろ? 潜水艦でもなくちゃ難しいが……」
「いいえ、同行してくれる人にはあたしが遊泳術をかけるから、水圧も酸素も問題なくなるわ。むしろ、潜水艦なんて大きなものを竜宮城に入れるには相応の龍脈が必要だし、さすがのあたしの乙姫羽衣も、それだけの残量が残っているかどうかは……怪しいところね」
「そっか。じゃあ、俺が持っていけばいいな」
 アーロドロップの顔に影が差す。
「そうね、そう言ってもらえればどれだけ気が楽か……は?」
 きょとん、と目を丸くした後、アーロドロップが額を手で押さえた。
「ちょ、ちょっと待ってよ、なんでそんな簡単に言えるわけ?」
「なんでって言われてもな……。じゃあアロップはどうしたいんだよ」
「うっ……」
 頼る相手が慶汰しかいないので、ばつが悪そうに項垂れた。
「ホントに……いいの? 時間の流れが違うのに……」
「まぁ、考えないわけじゃなかったけどな」
 竜宮城。深海の果て、龍脈に満ちた世界。かつて浦島太郎が訪れた、海の楽園。
「なあ、アロップ。竜宮城から玉手箱が浦島太郎の手に渡ったのは、地上世界じゃ六〇〇年くらい昔の話だ。けど、そっちじゃ一二〇〇年前とか言ってなかったか?」
「そうだけど」
「おかしくないか? 浦島太郎は竜宮城で五年過ごして、その間に地上は六〇〇年も経過した。単純計算なら、竜宮城で一年過ごせば、地上は一二〇年経過するってことになる。同様に、一ヶ月で一〇年、およそ一五日で五年、約三日で一年って差が出てくることになるわけで……」
 矛盾するのだ。地上の方が、竜宮城より長い年月を経過していないと、計算が合わない。
 慶汰が言葉尻を濁すと、アーロドロップが頷いて話を繋いだ。
「それは〝時間災害〟の影響ね」
「時間災害?」
「ええ。何千年に一度あるかないかの不定期で発生する、大規模な災害よ。前回がおよそ一二〇〇年前、その前は五〇〇〇年前で、その前が八〇〇〇年前と言われているわ」
「な、なんだそりゃ……」
「時間災害が発生すると、大きくタイムスリップした後、その時間差を埋めるような反動が起こるの。具体的には、浦島太郎が竜宮城滞在中に外界が六〇〇年経過してから、浦島太郎が地上に帰還し、その後、竜宮城で六〇〇年近い時間が急速に経過したってわけ。だから浦島太郎の帰還は地上だと六〇〇年前の出来事になって、竜宮城では一二〇〇年前のできごとになるのよ」
「な、なるほどな……?」
 慶汰は脳裏で図を描きながら頷いた。
「そもそも、竜宮城の中には龍脈が満ちていて、それが中にある万物に対して常に複雑に干渉を起こしているわ。そして龍脈はとても不安定なエネルギー。つまり『一定を保つ』ってことができないの。だから、常に波が発生しているのね」
「波……? まさか、時間も?」
「ええ。だからこっちの一日が竜宮城の一ヶ月なんてけっこうあるし、その逆もそう。ただ普段は、その変化値が波のように少しずつ大きくなっては収まっていって、今度は逆の変化が起きて……を繰り返しているわけね」
「そんなことになっているのか」
 慶汰は、肝が冷えるような恐怖を覚えて震えた。
「そういうわけで、竜宮城の三日で地上が一年経過するって差が出てくるのは、それほどおかしい話だとは思わないわ。実際、今現在の時間の波は、こっちの一年間で竜宮城が六〇年くらい進む波の終わり際だから」
「その波が終わると、今度は竜宮城の一年間でこっちが六〇年くらい進むってことか?」
「ざっくり言えばそういうことね。でも、竜宮城で五年過ごすと地上が六〇〇年過ぎているっていうのは、さすがに異常よ」
「つまり、波のような変化を逸脱したら、時間災害」
 アーロドロップは頷いて、人差し指を立てる。
「だからホラ、絵本に出てきた亀は浦島太郎の計算式が当て嵌まらないでしょ。亀の方は時間の流れが正常だったのよ」
「たしかに……浦島太郎に助けられた亀が竜宮城に一旦帰って、浦島太郎を招待するために再会するまでの期間は数日だったな……」
 五年で六〇〇年の計算だと、竜宮城に一日いただけで地上は四ヶ月が経過する。亀は数日で往復しているので、まるでシャトルランのようにとんぼ返りで竜宮城を出入りしたことになるわけだ。
 が、そんな一瞬で浦島太郎を招待する話がまとまるとは考えにくい。
 そう考えると、浦島太郎の訪問時と亀の往復時は、時間の計算式が違うというのも納得がいく。
「……で、その時間災害とやらは滅多にないそうだけど……発生前に、予想がつくのか?」
「無理、ね。そこを確実に防ぐ手立ては……用意できないわ」
 もし失敗したら、海来の二の舞を演じてしまう。
 子供を助けようとして二度と目を覚まさなくなった姉。
 そんな姉を救おうとして、時間の流れが違う世界に飛び込んだあと、戻って来る時に数年が経過していては、姉はもう生きてはいまい。
 半年以上植物状態が続いている今、自発的に目を覚ます可能性は非常に低く、そして海来の生命活動が止まる日はいつきてもおかしくないのだから。
 それでも、慶汰は真剣な顔で告げた。
「わかった。俺も竜宮城に行くよ」
「……ちょっとは考えなさいよ」
 驚きと疑惑が混ざったように目を丸くするアーロドロップに、慶汰は心外だと言わんばかりに目を細めた。
「別に、どでかいタイムスリップに巻き込まれる可能性は、まずなさそうだしな」
 慶汰が無理して着いていく必要がないことは、慶汰自身考えていた。
 リスクの観点から言えば、アーロドロップを見捨てたところで、困るのはアーロドロップだけ。海来の状態が悪化するわけではない。もっとも、今のままでは目覚める希望も薄いのだが、ではアーロドロップを助ければ海来の目覚めが確約されるかというとそうでもない。あくまでも、可能性、だ。
 だが、そんな理屈は慶汰の気持ちが許せなかった。アーロドロップを見捨てて、自然に姉が目を覚ました時、果たして素直に喜べるだろうか。
 たとえそれが、冷静にリスクを回避するための判断からだったとしても。
「ここにいるのが俺じゃなくて姉さんだったとしても、きっとアロップを助けるって言うさ。それに……」
 言いかけて、慶汰はそのまま口をつぐんだ。アーロドロップが不思議そうに首を傾げる。
「それに?」
 慶汰は頬をかいて、ぎこちなく視線を逸らした。
「えと……なんつーか、縁起が悪い気がしてな」
「縁起って……もう。あたしを助けるのは験担ぎってわけ?」
 アーロドロップにじとーと見つめられ、慶汰はもぞもぞと座り直す。
「や、別にそういう意味じゃ……」
 結局のところ、慶汰がアーロドロップを助けたいのだ。ただ、さすがにそれを面と向かって言うには、照れと気恥ずかしさが邪魔をしただけ。
「でもいいの? 運が悪ければ、もう二度とこの時代に戻れなくなるのかもしれないのよ」
「それは勘弁してほしいが……数千年に一度って確率なら問題ないさ。それより、玉手箱を渡すのは明日の夜になってもいいか?」
「あたしに決定権なんてないでしょ……」
 アーロドロップは、まだどこか自虐的だ。慶汰はわざとらしく咳払いして、話を進めた。
「明日の夜〝りゅうぐう〟竣工記念パーティーってのが開催される。玉手箱があのガラスケースから出てくる、滅多にない日だ」
 慶汰は倉庫にこそ入れるようになったが、あのガラスケースを開けることはできない。だから両親に無断でアーロドロップに玉手箱を譲渡するというなら、そのタイミングしか狙えない。
「玉手箱を見たいって人に見せる機会でもあるから、俺としてはそこの終わり際を狙いたいんだが……アロップ的に、まずかったりするか?」
「いえ、大丈夫よ」
「じゃあ決まりだな。それまでの間、アロップはどうする? 宛てがないなら家にいるか?」
「……いいの?」
「ああ、一晩くらいならどうとでもできるだろ。というか、ここ数日はどうしてたんだ?」
「モルネアに警戒を頼んで、雨風をしのげそうなところで、まあ、なんとか……」
 アーロドロップは曖昧に言葉尻を濁した。
「だから、そう言ってくれるのはものすごくありがたいのだけど」
「決まりだな。じゃあ、母さんが帰ってくる前に風呂入っちゃってくれ。飯もあるから」
「申し訳ないわね、何から何まで」
「何言ってんだ。姉さんのこと、助けてくれるんだろ?」
「それはもう、頼まれなくたって全力でやるわ」
「だったら俺の方こそ、できる限りのことをさせてくれ」
「ありがとう……。この命に代えても、成し遂げてみせるから」
 沈んでいたアーロドロップの瞳に覇気が戻る。
 ひとまず、ある程度気を持ち直させることはできたみたいだと、慶汰は静かに長い息を吐いた。
「ねえ、お風呂貸してくれるのは本当に嬉しいんだけど、親御さん帰ってきた時まずくない?」
「いや、母さんはパート帰りに姉さんのお見舞いに行くから、あと数時間は大丈夫だ。こういう日はいつも俺が先に風呂に入って夕飯作ってるから、違和感ねぇよ」
「そう、ありがと……」
「とりあえず、準備しようぜ。姉さんの部屋に案内するから、寝間着一着選んで持ってってくれ。洗濯機も使ってくれていい……けど、その乙姫羽衣とやらを洗濯機に突っ込んでいいのかはよくわからないから、任せる」
 お風呂について一通り説明した後、アーロドロップが入浴している間にカレーを作っておく。慶汰のレパートリーはカレーかクリームシチューかビーフシチューなので、事前に食材は冷蔵庫に揃っているのだ。
 米は普段より多めにといで炊飯器にセット。
 ジャガイモやニンジン、タマネギの皮むきからカットをこなして、カレー鍋を火にかける。
 一つひとつの工程を、いつも以上に丁寧にできたのは、女の子がいるからだろうか。それとも、両親に食べてもらうカレーは今回が最後になるかもしれないという不安からだろうか……。
 考えを煮込むように鍋をかき混ぜていると、おもむろに廊下へ続くドアが開かれた。
「お湯、ありがと。さっぱりしたわ」
「ああ……」
 振り向いて目にしたアーロドロップは、お風呂上がりのせいか、それとも海来のラフな部屋着を着たせいか、まるで雰囲気が違って見えた。
 濡れてしっとりした銀髪は、腰の辺りまで下りている。シンプルな淡い桃色のTシャツはサイズが大きかったのか、右肩を出すようにずらして着ており、中に着たキャミソールのオレンジ色の肩紐が覗いていた。長い裾から少しだけはみ出したショートパンツからは、細い足が真珠のような爪の素足まで無防備に晒している。
 二割増しでみずみずしい両目を半眼にして、アーロドロップが慶汰に視線を送った。
「……なに?」
「いや、服が違うだけでだいぶ印象が変わるなって」
「……あ、あんまりじろじろ見ないでよ。こういうの着るの初めてで……恥ずかしい」
 アーロドロップの顔がほのかに赤くなって、すっと右肩のシャツを引き上げる。肩は隠れたが、襟元が緩んで鎖骨の下の柔肌とキャミソールのボーダー生地を晒す。
「わ、悪い」
 慶汰は鍋の火を止めて、逃げるように風呂に向かった。

 スパイス香るリビングに一人ぽつんと残されたアーロドロップは、右手でパタパタと首元を煽りながら、ソファに座ってなんとなく部屋の中を眺めていた。
 あまり、元いた竜宮城世界の一般家庭と目立った違いは見当たらない。ソファの、柔らかくも反発してくる革の生地に、少しずつ心を許して、ゆっくり背もたれに身体を預ける。
 静かだ。
 風呂上がりでも癖ですぐにつけるネイルコアに、モルネアはいない。
 本当に一人になるのは、いつ以来だろうか。
 ガラス戸から見える中庭は、アスファルトの地面に鳩が二羽仲良く並んで歩いていて、と思えばバサバサと飛び立ってしまった。
 視線を上げれば、深い茶色の木の天井と、ガラス戸から見える青くて遠い空。
 しばらくボーッと眺めているうちに、ジーっと耳の奥に届く微かに音に気づいた。キッチンの方から聞こえてくるようだが、なんの音だろうか。
「早く戻ってきてよ、慶汰……」
 つい呟いてしまった自分に気づいて、アーロドロップは口を手で塞いだ。何を言っているんだあたしは、と自分で自分にツッコミを入れて、ふと思い出す。
 今さっきまで、自分が頭まで沈めてぶくぶくしていた湯船に、今は慶汰が浸かっている。そう思うと、全身が急に熱を帯びていく。
「へ、平常心よ、平常心! 落ち着きなさいあたし!」
 すーはーと大きく深呼吸を繰り返し、両腕をだらんとソファに下ろす。
しばらく目を閉じて、アーロドロップはここ数日を振り返った。
 思えば、慶汰には迷惑しかかけていない。明日には一家を裏切らせ家宝を持たせて同行させるという最悪の所業をさせるのだ。
「はぁ……情けないわね、あたしってば」
 アーロドロップが溜息を吐くのと、リビングのドアが開くのがまったく同じタイミングだった。
「あがったぞー」
「ひゃああ!?」
 驚いて悲鳴を上げるアーロドロップに、慶汰はびくりと震えて顔を引きつらせていた。
「な、なんだよ……?」
 アーロドロップは背筋をピンと伸ばして捲し立てる。
「なんでもないっ! というか、早くない!?」
「いや、普通だろ……? 三〇分くらい経ったけど」
「へ……? あ、そう……?」
 恥ずかしくて死にそうだ、とアーロドロップは両手で顔を隠した。
「そろそろ飯にしようぜ。ちょっと早いけどさ」
 キッチンへ向かう慶汰の足音に気づいて、アーロドロップは咄嗟に追いかける。
「て、手伝う」
 世話になってばかりはいられない。
 慶汰は少し不安げに、「じゃあ食器並べてくれ」と言って、二人分のコップやスプーンを差し出してくれた。
 準備を済ませて、両手を合わせる。
「いただきます」
「たんと食ってくれ」
 優しい湯気が立つお米とカレーの境目にスプーンを入れて、一口頬張る。ほのかな香辛料が鼻に抜け、とろとろのカレーがゆっくりと舌の上に広がり、美味しい刺激をびりびりと舌に伝えた。
「地上の家庭料理はなかなか刺激的ね」
「もしかして、辛かったか? うちのは中辛なんだけど」
「中……ということは、より辛いのがあるってこと? あたし、けっこう辛いのいける口だと思ってたけど、こっちじゃ一般的な味覚になるのかしら」
「へぇ。そのコメントから考えるに、竜宮城のメシは味が甘めって考えとくべきか……?」
 慶汰はなんとも言えなさそうにカレーを口にする。
 味は辛い方が好きなのだろうかと勘ぐって、アーロドロップは右手の人差し指に話しかけた。
「モルネア、いつもの食堂で一番味が辛いのって……」
 そこまで言って、黙り込む。今は玉手箱の中なのだ。返事が来るわけがない。
「……そういえば、モルネアってどうやって作ったんだ?」
 慶汰に訊かれて、アーロドロップはコップの水を煽った。気を遣わせてどうするんだという自虐を飲み込んで、思い出を語る。
「実は、あたしもわからないの。二年くらい前、城下町で龍脈知性体システムのトラブルが多発してね。新手の情報テロかと思ったけど、その原因がモルネアだったの」
「え? じゃあモルネアって他の人が作ったのか?」
「ううん。どうもそういう感じじゃないのよね。なんというか、記憶喪失した感じ……みたいな」
 細かい説明は省いた。龍脈知性体は、学習させたデータを全消去した場合、消去したという〝ログ〟は残らない。しかしモルネアは、データを消失したという一点だけを自覚していたのだ。普通、そんなことは起きないはずなのである。
「記憶喪失って……まるで人間じゃないか」
「でしょ? まあそれもあって、この子なら感情や自我が芽生えるかもって思ったの。だから、順番が違うのよ」
 アーロドロップの説明する声に熱が籠もる。
「龍脈知性体に人格と感情を持たせようとして、モルネアができたんじゃないの。モルネアと出会って、龍脈知性体に人格と感情を持たせたらいいんじゃないかなって思ったの」
「へぇ……そうだったのか。勘違いしてたな」
「まぁ、今となっては昔の思い出よ」
 懐かしくて楽しい記憶が蘇って、アーロドロップのスプーンを持つ手が動きを速める。
「ありがとう、話を聞いてくれて。おかげで元気が出たわ」
「そりゃなによりだ。それに、アロップには頑張ってもらわないとだからな」
 竜宮城を追放されて、モルネアも封印され、自力での帰還は叶わなくなった――散々な状況でも、アーロドロップは再び顔を上げた。 
「あたりまえでしょ。なんとしても成し遂げてみせるわ」
 今や、慶汰の姉を回復させる――その使命感だけが、アーロドロップの心を踏ん張らせている。
 その誓いが果たされたら、自分たちは再び時の流れの違う世界に分かたれてしまうことなど、すっかり頭から抜けてしまっていた。

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