俳句編4 夏の季語 6月30日 夏越の祓(なごしのはらえ) 慶應義塾中等部対策講座
6月30日は「夏越の祓え(なごしのはらえ)」の神事が日本中の神社で行われます。正月から半年分たまった罪ケガレを祓うのです。
その際に、あらかじめ人の形をした紙製の形代(かたしろ)に名前を書いて息を吹きかけて、神社に玉串を添えて奉納しておくのです。そうすると神職の方がおたき上げをしてくれるのです。昔は形代を川に流したりしました。
これが夏の季語となっているのです。「みそぎ」と言ったり「御禊川(みそぎがわ)」と言ったりします。また「形代(かたしろ)」も夏の季語です。神社に行けば「茅の輪(ちのわ)」をくぐることでお祓いができます。「茅の輪」も夏の季語です。
現代でも次のようなものがあります。「俳句歳時記 夏」(角川ソフィア文庫)
・形代に かけたる息の あまりけり 綾部仁喜
・白に白 重ね形代 納めけり 落合水尾
・形代に 書きて佳き名と言はれけり 片山由美子
・神官の こわごわくぐる 茅の輪かな 蓬田紀枝子
・まっすぐに 汐風とほる 茅の輪かな 名取里美
百人一首では、「風そよぐ ならの小川の夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりける」とあります。「風のそよぎを耳でとらえ(聴覚)、そこに秋の気配を感じとり、御手洗側(みたらしがわ)の6月祓を目にして(視覚)、今日一日だけとなった夏を実感している。
季節の移り変わりの微妙さをとらえた清涼感あふれた一首である」、とある解説書にあります。「原色小倉百人一首 鈴木日出男・山口慎一・依田泰 共著(文英堂)」
松尾芭蕉の句では
477.ふくかぜの 中うを飛(とぶ) 御祓(みそぎ)かな
これは御祓の神事が川で行われたときの情景でしょう。風が吹く中を魚が飛び跳ねていると言うのです。魚がピチピチはねる中とり行われる神事はどのようなものだったでしょうか。神職が大祓祝詞を唱えながら形代を川に流していく姿が目に浮かぶようです。
(芭蕉全句集 角川ソフィア文庫)
与謝蕪村の句では
ゆふがほに 秋風そよぐ 御禊河(みそぎがわ)
下賀茂の神領地の田中といえる里でよんだとされています。(蕪村句集 角川ソフィア文庫) 面白いのは、夕顔も御禊河も夏の季語なのに「秋風そよぐ」としているところです。
解説では「季節の微妙な推移を表現」としています。(同書P.194)おそらく、「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風のおとにぞおどろかれぬる」(古今集)境地だったのでしょう。