コモンウェルスの理想 【ジョン・ロック『統治二論』岩波文庫】
コモンウェルス(英: commonwealth)は、
「公益を目的として組織された政治的コミュニティー」という意味ですが、「連邦・国家・民主国家共和国」という意味もあります。
また、一般的に、定冠詞をつけた固有名詞「the Commonwealth」として使われる場合は、「イギリス連邦」のことを指します。
イギリス連邦の一つであるオーストラリアも、正式な国名は、
「the Commonwealth of Australia」(オーストラリア共和国連邦)です。
イギリス連邦の一部ではないのですが、アメリカ東部に位置する歴史ある4つの州の公式名称が、他州のように「State of ~」ではなく、
「the Commonwealth of Kentucky」(ケンタッキー州)
「the Commonwealth of Massachusetts」(マサチューセッツ州)
「the Commonwealth of Pennsylvania」(ペンシルヴァニア州)
「the Commonwealth of Virginia」(ヴァージニア州)
となっていることを目の当たりにすると、そこには何らかの歴史的背景と独自の理念が影響しているのだろうということが見てとれるでしょう。
そもそも「国家」の概念はとても複雑で、一つの単語では、全ての国にあてはまるように、その意味するところを表現することはできません。
スマホの翻訳機能などで「国家」と打ち込んだ時、「country」と出てくるからと言って、それだけでは全く通用しないのです。
19世紀にイェリネックが著した、国家学の最高傑作とも言われる『一般国家学』によれば、「国家」を表現する主な言葉として、次のようなものがあげられています。
「キヴィタス」は所謂「市民社会」のことで、市民の共同体が中心となっている国家です。
「レスプブリカ」は、国家の構成員である「人民団体」の意味から、後に「命令権(imperium)」に転化し、国家権力を意味する「統治団体」の意味で使われています。
「スタート」は、statusとも同義であり、組織を中心とした国家を表す専門的呼称です。イギリスでは、シェークスピアが使用している例もあり、16世紀ごろから、「state」が、多義的・一般的な用語として使われるようになったようです。
ジョン・ロックは、自身の著書『統治二論』の第10章「政治的共同体の諸形態について」の中で、「commonwealth」について述べています。
同書の解説によれば、「『state』が絶対王政の統治機構を想起させるので嫌ったのではないか」としています。(同書P.451)
「wealth」は、元々「冨」や「財産」を表す言葉です。
そのため、「commonwealth」は、「common(共通の)」+「wealth(財産)」となることから、すぐには「国家」という概念と結びつきません。
しかし、ジョン・ロックの『統治二論』を読むと、「commonwealth」が「国家」を表す言葉となった経緯がよく理解できます。
『統治二論』では、その前半部分で、「アダムとイブが神から土地を授かり、アダムの後継者が国家の統治者である」というロバート・フィルマーが著書『パトリアーカ』で唱えていた「王権神授説」を論駁しています。
「土地の支配権」が、「統治者の支配権」の源泉です。
この支配権(=財産権)が「property」であり、そこから「人格権」という意味に発展していきます。
共和政の理想というのは、「土地を共同管理することで得られる収益を平等に分配する」という点にあるのではないでしょうか。
この「財産権の平等」という理念が理解できれば、「commonwealth(共通の財産)」=「国家」という言葉の意味も、すんなりと納得することができます。
アメリカ東部の古くからある4つの州で、「the Commonwealth of ~」という表記が使われているのも、このような理念と伝統が根付いているためでしょう。
当然、旧イギリス植民地から独立したオーストラリアなどの「イギリス連邦」に加盟している国々が、同様の表記になっているのも、同じ理想が反映された結果だと考えられます。
「国」や「州」を表すために、わざわざ「commonwealth」という単語を使っている背景として、
という理念が、根底に流れていることは間違いないでしょう。