幼き思い出

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 雑木林の裏山で、掛け声とともに木の棒を激しく振り回す。
勝負はなかなかつかない。
相手はなかなかの使い手、幼馴染のフミちゃんだ。
上段からの打ち込みに、すばやく後ろにとんだ所が崖っぷち、アッ!落ちる、と感じた瞬間目が覚めた。

夢だったのか!・・・なんで何十年も会っていない幼馴染が出てくるのか。
しかもふる里の田舎の山で。

最近よく夢を見る。
しかも子供の頃の友達が現れる。
夢は支離滅裂だから、物語としてはつじつまが合わない。
しかし、妙になつかしい。
出来るならば、ほのかにあこがれていたあの子が出てくるならば、なおいいのだが・・・

Noteには、素晴らしい詩人や小説家がいる。
私にはとてもその才能がないので、せめて詩人たちの詩を読んで心の糧としている。

をさなき思いで           室生犀星
おれはよく山へ登った
山にはいろんな花が咲いていた
気の遠くなるような深い谷があった
そこでよくねころんだ
その夢のあとが
ふいと今のおれの胸に残っていて
緑緑(あおあお)ともえていた

松並木は果てもなかった
僕はいつもとぼとぼと歩いて行った
そのように海は遠かった
僕はいつも泣きながら歩いた
歩いても歩いても遠かった 
僕は海の詩をかいて都へ送った
あれからもう十年は経ってしまった
           (室生 犀星)

七歳の時のわかれ (昔、転記した詩だが、だれの作か記録忘れ。知っていたら教えて下さい)
七歳の時、はじめて人のわかれを見た。
二人は、私と並んで線路ぎわで夜泣きソバを食べていた。
男は帽子をかむり、女は着物を着ていた。
男が何か冗談めいたことを言うと、女は半分笑って、それから真顔になった。
みると、ソバをすすっている女の頬に涙がひとすじ流れていた。
それから二人は黙ってソバをすすっていたが、今度は女がつとめて朗らかに冗談を言ったらしかった。
しかし、男は笑わなかった。
女が、ソバの最後の汁をすすると、男が屋台の上に銭をおいた。
二人は途中まで一緒に歩いてゆき、それから別れた。
何気なく見えたが、それが一生の別れとなるらしかった。
ふいに女が、男の名をよんだ。
男はふりむかなかった。
女はもう一度、男の名をよび、たまりかねたように「連れてって!」と叫んだ。
しかし、男はもう角をまがるところだった。
男の姿が月夜の街にすっかり見えなくなってしまうと、肩の小さな女は本気で泣いた。
男は私の知らぬ人だったが、女は、私の母であった。

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薬師岳3