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食べるを読む:「味」の探究者
昭和天皇に40年間も仕えた秋山徳蔵の自伝「味」を読みました。天皇の料理番として、ドラマにもなっているので知っている方も多いかもしれません。大正天皇の即位の大礼での何千匹ものザリガニが脱走した話が有名ですが、国の中枢における料理を通して見た太平洋戦争や戦後、占領下の皇室や政治の様子なども知らないことばかりで読ませます。けれど、一番印象的に残ったのは、序盤、料理のための留学がまだ稀な1909年に料理を学びに秋山がひとり渡欧を強行して修行していたころの話です。誰もお手本になる人がいない時代に、リスクをとって学んでいくとてつもない好奇心、そして、多くの苦労を乗り越える負けず嫌いさは、読んでいて圧倒されます。
なぜ「味」という書名にしたかは本書では触れられていませんが、「味」は、「未」だ「口」にしていないと書くように、新しいものを探し続けることを意味しているのかもしれません。地位を築いてからも、何十年も味を追求していくプロフェッショナリズムに頭が下がります。
●片山大