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食べるを読む:「旅行者の朝食」
人を「生きるために食べる」タイプと、「食べるために生きる」タイプで分けるという人間観を持ち、自分は後者だというロシア語通訳で作家の米原万里さんのエッセイ。プラハで過ごした10代や通訳として政府交渉から極寒のシベリアまでの現場経験に加え、豊富な西洋古典や文化の知識をもとに食べることについて話が広がっています。文章だけでよだれを出させる名文家はたくさんいますが米原さんはそのなかでも一級。特に「シベリアの鮨」の話はよだれだけでなく涙なしにも読めません。普段の食事のありがたみがわかります。
本書を貸した誰もが一番印象に残ると言うのは「トルコ蜜雨の版図」。プラハでの小学生時代にロシア人の友人がもってきたハルヴァというお菓子に感動し、以降、ロシアに出張する親族に依頼するもまがい物しか見つからず、長じてからも仕事の合間に探しつづけて、いつのまにか大陸的スケールでお菓子の系譜を辿ることになった米原さん。読んでいるとその味を追い求める道程と食欲を追体験することになってよだれが出ます。
●片山大