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【小説】温泉とプロポーズ(全4話)

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「創作大賞2024」に参加した小説作品です。 あらすじ 青森出身の雪平綾ゆきひらあや(29)は大学進学を機に地元を離れ、今は東京のIT企業で働いている。会社の同期として出会った…
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『温泉とプロポーズ』第4話(最終話)

 相変わらず陽太と会えない日が続き、11月になった。不安は募る一方だ。LINEをすれば返って来るし、電話で話している感じも普通に思えるけど、どこかそっけないような気もする。週末に会おうと誘っても、用事があるとか、調べたいことがある、という返事ばかり。  これまでなら、どんなに期間が空いても週に一度は会っていたのに、青森から戻って以来、もう3週間会っていない。別に定期的に会おうと決めているわけではないけど、これまでにないことなので不安にもなる。  そうして落ち着かない日々を送っ

『温泉とプロポーズ』第3話

 陽太と二人でお台場へ出かけた次の週末、土日とスポーツの日の3連休。私と陽太は、二人で再び青森へ向かう新幹線に乗っていた。たった2か月前に青森に行ったばかりでまた行くことになったが、今回は緊急事態なので仕方がない。  電話で母から「郷の湯が営業できない」と言われた時は心臓がひやりと冷たくなるような感覚だったが、よくよく聞いてみると母が動転して大げさに伝えていたところもあった。その後に電話を替わった父からの情報も踏まえると、正確には源泉をくみ上げるポンプが不調で、修理のために1

『温泉とプロポーズ』第2話

 青森へ陽太と二人で帰省した日から、1か月が経った。猛暑は9月になっても全く衰えることがなく、エアコン無しでは寝られない日々が続いている。      青森から帰ってきた日、突然「温泉を継ぎたい」と言い出した陽太との話し合いは、あれから全く進展していない。話を切り出された日は、あまりに予想外の展開ですぐに返答できなかったが、冷静に考えたら絶対にありえない。  翌日から、陽太の提案がいかに非現実的なのか説得しようとする日々が続いていた。しかし、陽太も折れる気配が無い。この日も、久

『温泉とプロポーズ』第1話

あらすじ  8月の最初の水曜日、東京駅。私は恋人の陽太と二人で、東京から青森へ向かう始発のはやぶさに乗り込んだ。朝6時台の早い新幹線だけど、出張と思われるサラリーマンや、旅行へ向かう家族連れなどで、車内の座席はほぼ埋まっていた。  一週間のど真ん中に休みを取るのが一苦労だったが、何とか今日と明日の二日分の休みを無事に勝ち取った。私の仕事は比較的落ち着いていたが、陽太の方は無事に休みが取れるかどうか、直前まで分からない状況だったらしい。予定通り、二人で青森へ向かうことができて