まったく新しい アカデミック・ライティングの教科書(阿部幸大著、光文社)
論文の書き方の本ですが、東大・京大で売れているみたいです。
冒頭で、私なりの感想を述べるとしたら、「美しい」本です。
前にもどこかで言ったことがあるかもしれませんが、自分が好きな本のジャンルとして、「普通のことが普通に書いてある、なのに美しいと感じる」本があります。
野矢茂樹さんの本なんかがそうです。
一文一文は、本当に普通のことが書いてある。それが筋道だって積み上げられていく、普通のことが普通に論証されていく。で、結論になる。そうすると意外なところにたどり着いている。
それが鮮やかであればあるほど、感動的でときに魔法にように感じることすらあります。
これを可能にするには、相当の日本語能力と論理的思考力を要すると思います。実は、難しい言葉で難しいことを言うよりも、簡単な言葉を論理的に積み重ねていって、意外だけど納得のいく結論に持っていく方が圧倒的に難しい。
「まったく新しい アカデミック・ライティングの教科書」はその系統の本なのではないかと思います。
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この本は、論文の書き方の本ですが、この本の文章自体が論文の書き方を意識して書かれていると思います。特に、著者の専門である人文学系の論文の書き方を意識していると思います。自分は大学のレポートを書いた経験が、あまりないのでわからないところもありますが、たしかに、理系の論文は決まりがありそうな気がしますが、人文学系の論文ってどうやって書くんだろう?というような疑問がありました。
ちなみに、医学論文に関して言えば、推しnoterの高草木陽介さんの下記の本がオススメです。やっぱり結構ガチガチのルールがあるんだなあって思いました。
論文なんて難しそう!?って思いますよね。本書は、例えば大学で、期末レポート書きますとかそういうときにも役に立ちそうです。
例文が一貫して「アンパンマン」を使っているので親しみやすいです。例えば、「アンパンマンの行使する暴力は男性的なものである」みたいな。
本書では、論文を書く際に役に立つポイントをいくつか挙げていますが、これは論文だけではなく、普通のライティングにも生かせそうな発想のような気もします。
その中で、3つくらい印象的なキーワードを上げてみようとおもいます。
「アーギュメント」「パラグラフ」「アブストラクトとシノプシス」を挙げてみようと思います。
「問い」は必要不可欠ではない、必要なのは「アーギュメント」だ
まずは、「アーギュメント」
本書は、「アーギュメント」のことを一番力を入れて論じているような気がしました。
「アーギュメント」とは「主張」のことなのですが、ただの主張だとだいぶ物足りないと言います。
よりよいアーギュメントとは何かを論じています。
読んでて、本書のハイライトはやっぱこれだよなぁと思ったのは以下の点
例えば、「アンパンマンを深く理解するにはジェンダーの視点が重要だ」というのは、それっぽいことを言っていますがアーギュメントではないといいます。これは、つまるところ「大事だと思いました」という感想に過ぎない。
そうではなく、アーギュメントは反論可能性がないといけないと本書は言います。
例えば、「『アンパンマン』においては、男性中心主義的な物語が女性キャラクターを排除している。」といった場合、本当にそうなのか?という反論が考えられます。
この反論可能性のある主張の正当性を論証することが論文だとすれば、論証の良さもさることながら、如何に上質なアーギュメントを最初に立てられるかがポイントになってきそうです。
そして、本書は、「論文において『問い』は必要不可欠ではない。必要なのはアーギュメントだ」と言います。
今までの論文の書き方の本では、『問い』が必要だということが多くの本で論じられていました。どうでもいいですが、自分もどこかのnoteで『問い』が重要だということを言ったことがあるような気がします。
それに対しての「論文において『問い』は必要不可欠ではない。必要なのはアーギュメントだ」。
これはまさにアーギュメントです。
『問い』は不要だという、上記のアーギュメントについての論証はどのようなものなのか、本書を手に取って読んでいただけるといいのではないかと思います。ああ、そういうことかと理解が深まります。
書けないということは読めていない、読めないということは書けない
次に「パラグラフ」という概念について。
これは、日本の「段落」とは少し違って、「1つのトピックについて書いている一単位」という感じで、冒頭のトピックセンテンスとそのほかのサポートセンテンスで構成されると本書はいいます。
昔、英語のリーディングかなんかでそんなのがあった気がします。
ここで、押さえておきたいのは、「パラグラフ」はあくまでも目的ではなく手段であるということだと思います。
つまり、「パラグラフ」を仕上げることが目的なのではなく、論文を仕上げるために「パラグラフ」をうまく使おうって感じですね。
そして、本書には、パラグラフリーディングについてまあまあの分量を割いて書いています。
つまり、読解に結構な分量(たぶん3割くらい)を割いている。
これはつまり、「読めないと書けない」、逆にいうと、「書けないということは読めていない」ということかもしれません。
全然関係ない気もしますが、この前、ピリカグランプリというMAX1200字の短編小説のコンテストがあり、実は自分も参加をしていました。
どちらかというと、他の人の作品がとてもレベルが高くて、ああこういう感じで書くのかぁとか学びになりました。で、ああこの作品いいなあと思った作品が複数入選をしていました。
でも、一番びっくりしたのが、結果そのものよりも、審査員の人たちの講評でした。
各審査員の講評があります。
講評の人は対象作品をこんなふうに読むのかとびっくりしました。正直だいたい本編を一回は読んでいた気がするのですが、え、そんなこと書いてあった?って思うくらいでした(笑)
そんなわけで、あ、自分は全然読めていなかったから、書けていないんだなとすごい腑に落ち、納得しました(笑)
と脱線しましたが、論文に話を戻すといわゆるパラグラフ・リーディングを実践しています。これをやると、文章の構造が浮き彫りになっていくんだと思います。そして、浮き彫りになった文章の構造が美しいとまずもって読みやすい。
それが鮮やかにアーギュメントを論証していることに気が付くと感動すら覚えるのではないかと思います。
そして、パラグラフが長くなってもこの構造を守っていると美しさは損なわれず、厚みを増すことができるのかなと思ったりしました。
アブストラクトとシノプシス
これは、私がはじめて知ったワードなので触れてみたというだけです(笑)
アブストラクトは要旨のことで、シノプシスは論文の構造を説明する概要のことだそうです。
シノプシスは、目次的な感じで、「第1章には○○が書いてあって~、第2章には~」みたいな見取り図的な感じです。
アブストラクトは、要旨ということでエッセンスを概要でまとめているので、これを読めば論文に書いてあることが分かるというもの。よく国語の試験にでてくる●文字で要約しなさい的なものに近いかもしれません。
アブストラクトやシノプシスについても、あくまでもテクニック的に有効活用しようぜというノリで書いてあります。
ここから言えることは、論文は、何が書いてあるのかというのがほぼ最初にわかったうえで読み進められるということが想定されている文章ということなのではないかと思います。
オチが分かっているのに読み進めていくわけです。だから、冒頭(イントロダクション)が極めて重要なんでしょうね。
価値ある冒頭(イントロダクション)が、バーンと出て、順番に鮮やかに論証されていく、そして、結論にたどり着く、そこにアカデミックな価値があればあるほど、その論文はいい論文と言える、そんな感じではないかと思います。
まとめ
自分は論文を書く機会はないのですが、構造を意識して書くというのが重要なんじゃないかと思った次第です。
本書は、アカデミックライティングのためのガチガチのルールを提供しています。
ルールというのは、細けえとはいいからとにかく従えということを含意することがあります。
しかし、本書にはルールに従った先のことが最後にかいてあります。
ガチガチのルールに従って、アカデミックライティングの手法を手に入れた先は、驚くほど自由な世界が広がっていると本書は言います。
意外にも本書の最後には、千葉雅也さんの『勉強の哲学』のことが書いてあります。
『まったく新しい アカデミック・ライティングの教科書』は、論文の書き方の本だけど、『勉強の哲学』に繋がっていくのは面白いですね。
全く確信のない個人的な予感でしかないですが、本書の「アカデミックな価値」と『勉強の哲学』の「来るべきバカ」がつながってきそうな気がしてきました。
ということで、自分の場合は、自分の「内なる図書館」の意外なところに『まったく新しい アカデミック・ライティングの教科書』を位置づけられそうです。
そんなわけで、ちょっとだけアカデミックなことが分かったような気になって、「今日一日を最高の一日に」
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