「本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む」 かまど・みくのしん著
―おまえの兄の、一ばんきらいなものは、人を疑う事と、それから、嘘をつく事だ―(「走れメロス」より)
みく ひぅ……ぅぐ……ッ!!
かま (すごい……。「走れメロス」を読んで号泣してる……)
みく めっちゃいいお兄ちゃんだ……!
かま その涙は新婦が流すやつでは?
みく このセリフはちょっとすごすぎるな……。これから人を信じない王様に殺される人間が、最期に妹に伝える言葉がこれなんだ。どんな感情で読めばいいんだ……。
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タイトルの通りですが、まず単純に面白かったです。
本を通読できなかったみくのしんさんに、かまどさんが小説を渡し、それを一緒に読みながら、その読書体験をしていく様子が描かれています。
みくのしんさんは、今まで本が読めなかったそうです。
今まで本が読めなかった理由として
・シーンやキャラクターの顔や声色などを脳内で想像しないといけないけど、文字を追いながら処理ができない。
・内容を頭で構築できず、文字を読んでもすり抜けていく
・気が付かずに往復してしまいそんな自分に腹が立つ
・集中力がなく飽きてしまう
・長すぎる
といった理由を挙げています。
そのため、まずは完走することを目的に、かまどさんの伴走で、小説を最初から最後まで読むことに挑戦します。
文字を読みながら頭の中で流していくとイメージができない。そのため、声に出して、一行ずつイメージを確認するようにしながら読み進めていきます。
本当に一行一行イメージをしながら、少しずつ読み進めていきます。
そして、読み進める中で、みくのしんさんの読解がむちゃくちゃ深いことが明らかになっていきます。
はじめて本を読む人の読書体験を追体験できるとともに、そして実は、読書はものすごく自由なんだということを気づかせてくれる良書だと思います。そして、単純に面白いです。
一行ごとにみくのしんさんと、かまどさんの会話のやり取りが入っています。
これがすごい。みくのしんさんの感性とイメージが、え、そこまでイメージできるのっていうくらいすごい。みくのしんさんは、おそらく映画のように映像でシーンをイメージできるようにする能力がとても高い人だと思います。
どのくらいすごいか。
たとえば、最初に読んだ本は、「走れメロス」です。
なんと、みくのしんさんはメロスが走り出す前のシーンで号泣します。え、そこでもう号泣?あ、そういう風に読むんだ、すご、きづかなかった、ってきっとなるんじゃないかと思います。
謎の(?)感想もたくさん出てきます。みくのしんさん本人が小説の世界に入り込んで、突っ込みを入れたり、共感をしたりしています。そういうのも含めて、単純に面白かったです。
本当は、とても読書向きな感性の方だということが、一文一文を声に出しながら読むことによって、明らかになっていきます。
あるシーンでは、「BGMが変わった」とか「CMをいれるならここだ」なんてことを言います。え、そんな指摘あり?って思いますが、本当は読書ってそのくらい自由でいいはずなんじゃないかなって思いました。
読んだ本は、「走れメロス」「一房の葡萄」「杜子春」と雨穴さんの書下ろしの「本棚」という小説です。
最後の「本棚」という小説は、みくのしんさんの読解を読んだ雨穴さんがイメージしたことをベースに書下ろし小説を書いています。小説単体でも面白かったです。
本をたくさん読んでいたある登場人物が、主人公に本を貸してあげる。主人公は本当に楽しそうに本を読んでいる。自分は本をたくさん読んでいることを周りから褒められたいだけで必死に読んでいて、本そのものを面白いと思って読んでいなかったということに気が付き、あんなにたくさん本を読んだのに面白いと思った本が一冊もないと感じ、主人公に劣等感を抱く、そういうシーンがあります。
その小説は、どういう展開になるのか、その衝撃の展開はどうだったのか、そしてみくのしんさんはどういう読書体験をしたのか、その辺りは、ぜひ本書を読んでみていただければと思います。
本をたくさん読むこと自体にとらわれて、実は本そのものを楽しめていなかったのではないだろうか、という不安にとらわれる方は、けっこういらっしゃるんじゃないかと思います。
そういう意味でいうと、みくのしんさんは、一文ずつ本当に楽しみながら読んでいることがうかがえます。もしかしたら、私たちもみくのしんさんの読み方に劣等感を抱いてしまうかもしれません。
でも、本を読むことは本来自由のはずです。本の読み方に正解はない。
どのように感じたとしても、そこから如何に創造できるかということが重要なのではないかと感じました。適当にスルーして読んでいたり、読み飛ばしていたりしていても、一文一文音読して感想を言いながら読んでいても自由です。
私は、小中学校のときは、本を読むのが嫌いでした。通しで最後まで読めた本はほとんどありませんでした。
でも、それは今思えば、「まだ気がついていなかっただけ」だったのかもしれません。
みく だって、本って勝手に始まらないんだよ? 映像作品と違って、自動的に流れていかない。ここに書かれてる物語を自分で動かしていくわけでしょ? どう読むのかは自分次第だし、だからこそ、「ちゃんと読めるかな?」という緊張はずっとあるよ。
「どう読むのかは自分次第」
誰もが、ほかの誰とも違う読み方で、本を読むことができる。
ある本から読み取れる創造の世界は、誰にでも無限に広がっている。
読書から得られる無限の創造の可能性に改めて気づかせてくれる、単純に笑える一方で素敵な読書体験を追体験できる、そんな本ではないかと思いました。
そんなわけで、勝手には動かない本は自分で自由に動かしてみて、「今日一日を最高の一日に」