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コロンブスの卵丼

僕の若い頃からの愛読書のうちの一冊、池田満寿夫著『男の手料理』(1989年初版、サンケイ新聞連載時期は1985年から1986年)。洒落ていて判りやすい文章と内容、広い見識と狭い嗜好の程好いブレンド感、そうした感じに僕は多大なる影響を受けていると思う。大好きで影響を受けているのだけれど、この本に出て来るメニューを作ってみようとはあまり思わなかった。その理由はただ一つ。一番最初に登場するコロンブスの卵丼のことだ。僕は卵料理が苦手で、茹で玉子や目玉焼きと云った白身と黄身が分離しているアレンジメント(使い方間違っているかな)のものはほぼ拒絶に近い苦手さ加減だった。それが最近になって茹で玉子も目玉焼きも全然平気になって、むしろ好物に近くなってすらいる。この変化に一番戸惑っているのは僕自身で、あまりにもあっさりと苦手克服してしまったので、本当に今の自分が昔の自分と繋がりがあるのかどうか疑問に思ってしまう。もしかしたら夜道を歩いていた時にUFOに誘拐されて、宇宙人に自分の嗜好を操作された上でその時の記憶も消されてしまって、それで白身黄身分離卵料理が食べられるようになったのではないか。それとも自分が知らない間にショッカーに改造されて怪人タマゴ男になっているのではないか。そんな気もしないでもない。それはともかく『男の手料理』第1話(じゃないか)のコロンブスの卵丼を作ってみよう。

まずは出来上がりから。黄身が一つ潰れてしまった。自分の雑さを痛感する。目玉焼きを作って焼きそばに載せたことはあるけれど、こうしてご飯に載せるのは生まれて初めてのことである。それどころか目玉焼きでご飯を食べるのも生涯初なのではないか。もうすぐ還暦だと云うのにまだ初体験のチャンスが残っている。これは有り難いことであると思う。これからもチャンスを逃さずに生き抜こうと思う。

卵は三個で作ると池田満寿夫先生は書いている。一個でも二個でも冷蔵庫に何個残っているかによるとユーザーの自由度も尊重してくれている。卵三個で目玉焼きを作るのも初めてである。初めてずくめだ。

いささか簡単すぎて開いた口がふさがらない料理と池田満寿夫先生は書いておられるが、僕にとっては目玉焼きは経験値の大変に少ない料理で、なかなか満足のゆく出来にならない。それでも最近ではこんな感じで良いのではないかなどと慢心していた結果がこれである。今回一個目、二個目は上手く割り入れることが出来た。ここで油断してしまったのが敗因と分析した。三個目がダメでも作り直しなんて卵に申し訳が立たない。このまま行こう。ちなみに油はひまわり油を使用。軽くてクセがなくて使いやすいので愛用している。

池田満寿夫先生は炊きたてのご飯を用意すると書いておられるが、炊飯器の保温機能で数時間経っているご飯を利用しても良かろう。許して戴けると思うのだが。さて、ここで一つ思ったことがある。池田満寿夫先生はタイトルにはコロンブスの卵丼と書いているが、文中では単に目玉焼丼ともあり、最終的には「コロンブスの目玉焼丼と称する」と書いている。タイトルとは違うのだ。これはどうしたら良いのだろう。タイトルを優先するか、最終的な「〜と称する」を尊重すべきか、2021年の年末に迷っている僕は一体どこに向かっているのだろう。決して懐古趣味ではない。ノスタルジアに浸っているわけでもない。僕が今日から、そして明日から食べてウマイと思うものを増やして行きたいだけなのだけれど、名前は大事だとも思う。色々と逡巡した結果、タイトル優先で進もうと思う。タイトルは大事だ。その話はまた別に書こうと思う。

池田満寿夫先生は、醤油でもウスターソースでも好みのものをぶっかけろと仰っている。推薦はウスターソース。ふと見るとマルモ食品の富士宮やきそばソースがあったのでそれを使ってみた。我が家にはソースがかなりの種類取り揃えてあるが、それを逐一試してみるのはちょっと大変そうなのでやめておく。

ウマウマウー。人生初の目玉焼きとご飯の取り合わせ。とてもウマイと思います。我が人生に食のバリエーションが増えたことを愛でたいと思う。途中まで食べて、醤油も試してみたくなった。池田満寿夫先生は醤油ではあまりに芸がないと書かれているけれど、芸のある醤油だとどうなるのか。ふと見るとらーめん虎のしじ美醤油があったのでそれもかけてみた。ウマウマウー。しじ美醤油と目玉焼き、ヒジョーに合うのではないだろうか。後日追加検証する。

僕の料理で利用頻度の高いこの二つ。マルモのやきそばソースはフライなどにも合う。らーめん虎のしじ美醤油はオールマイティー。機会があればお試し戴きたい。

愛読書の最初の難関をクリアした。これだけでも2021年は記念すべき年になったと考える。今後もこの本の中からピックアップして実食してみたい。次は日本人だけのスパゲッティを試してみることにする。お正月に作ろうかな。御馳走様でした。

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小野瀬雅生
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