船をつくるという仕事_ビジュアルツアー編
「因島(いんのしま)はゾウセンの島なんだよ。」
広島県尾道(おのみち)市に移住して間もない頃、誰だったか地元のひとにそう教えてもらった。ゾウセン…?何かの略語だろうか。
ゾウセンの正体は「造船」、つまり船を造る仕事だ。
因島の造船の歴史は古く、はじまりは150年前に遡る。戦中やバブル期の造船ブームを経て、バブル崩壊以降も島を支える一大産業となっている。かつて日立造船所の船体パーツを造る目的で工場を集めてつくられた因島鉄工業団地では、いまも幾つもの造船会社が稼働している。
今回のテーマは「造船」。因島鉄工業団地の3社のご協力のもと、尾道のものづくりの現場を2本立てでレポートします(尾道市地域おこし協力隊|instagram / note )。
1本目のこの記事では、馴染みのないひとが多い造船の現場をビジュアルでご紹介します。2本目の記事では、因島の「造船の歴史と未来」を軸に、各社がはじめた新しい事業や取り組みについてお伝えします。
造船のビジュアルツアー
お邪魔したのは、因島鉄工業団地にある片山工業株式会社、新松浦産業株式会社、株式会社岡本製作所の3社。
片山工業は船用の自家発電機やエンジンの関連機器を、新松浦産業は金属板の穴開けや溶接を、岡本製作所は同じ船体ブロックでも石油やガスを運ぶ船のパーツもつくっています。
ここでは難しいことを抜きに、各社で撮影した写真から、造船現場のスケールの大きさを実感していただけたらと思います。
1_ 工場内の様子
工業団地内の工場は、大体どこも吹き抜けの構造。
あちらには船のパーツ、こちらには東京の駅のプラットフォームで使われる部品、向こうにはビルの建造に使うパーツ…というように、工場内では船に限らず、全国各地で使われる大型構造物の部品がつくられています。
2_船体ブロック
船を一隻つくるために、数百個もの船体ブロックが製造され、溶接されています。レゴブロックを想像すると分かりやすいかもしれません。
写真も、船体ブロックの一つ。ごく一部だというのに、この大きさ…!船体にはまっすぐ平行な部分と写真のように曲線の部分とがありますが、曲線部分の船体ブロックをつくるのが難しく、高度な技術が必要なのだとか。
3_船の図面
数値が細かく書き込まれた船の図面。この図面を頼りに、機械や手をつかって船体ブロックをつくります。
大型構造物なので当然かかる費用も大きく、数ミリでもずれれば不具合が生じてしまうほど、精密な作業を求められます。
4_作業風景①
完成形の船体ブロックを先にお見せしたので、なんとなく大きいことは伝わったかもしれません。そんなに大きなものをどうやってつくっているの?という方に、作業のスケールが伝わりそうな数枚をご用意しました。
5_作業風景②
黄色い小型ロケットが並んでいるようなこちら。バーニア治具と言って、高さを調整することができます。この上に船のパーツなど大型のパーツを乗せて作業をします。
特に船には曲線的なパーツもあるため、高さを調整してあげることで、曲線に沿って安定して置くことができます。
下の写真のように、バーニア治具に乗せた鉄板の上に人が乗って作業することもできます。
6_大型機械や道具のあれこれ
造船に欠かせない存在が、溶接や切断、穴あけなどの専用機械の数々や数多の道具たち。全自動の大型機械から手で扱う道具まで、大きさも多岐にわたります。
CADなどのソフトを用いてデータをつくって動かしたり、手の感覚で調整して動かしたりして、ミリ単位のずれが許されないものづくりをしています。
7_組み立て
出来上がったパーツを組み立てていく作業。
陸上で組み立てる場合と、水上で組み立てる場合とがあります。水上のときは、パーツを台車に乗せて水際まで運び、台船(だいせん)と呼ばれる荷物を運ぶ作業用の船に積載します。
パーツを載せた台船は、船で引っ張って目的地の組み立て場所まで運ばれていきます(台船もつくっている岡本製作所によると、新幹線を運ぶ専用の台船というものも世の中にあるそうです)。
船体ブロック一つをつくるのにかかる時間は約1ヶ月。それを流れ作業で複数個を同時に製造し、かつ何社もの同業者がいっしょになってつくることで、毎月新しい船が生み出されています。
造船現場のビジュアルツアーはここまで。
次回は、造船の歴史と未来への取り組みについてご紹介します。
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