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【地場産業で活躍する移住者】食品加工業|まるか食品 商品部部長・杉村 智也さん

■尾道の地場産業:食品加工業

尾道のお好み焼き「尾道焼き」は、豚肉の代わりに砂ずりが使われます。さらに、砂ずりとともに尾道焼きに欠かせない食材が「イカ天」です。イカ天とは、うす〜〜くのばしたスルメイカに衣をまぶし、油で揚げて作られる加工食品のことで、全国でもイカ天製造メーカーは尾道や呉に集中しているんです。

1961年に創業したまるか食品株式会社は、尾道に本社を置くイカ天製造メーカー。スルメフライなどの海産珍味やスナック類の製造販売を行っている老舗企業です。2013年には、若い女性をターゲットにした「イカ天瀬戸内れもん味」を発売して全国区で大ヒット。ほかにも「のり天瀬戸内はっさく味」「ごま油香るサクサク韓国風のり天」「のり天チーズ味 ゴルゴンゾーラチーズのクリーム仕立て」など魅力的な珍味を瀬戸内から世に送り出しています。

今回は、尾道の地場産業・食品加工業で活躍する移住者のエッセイをご紹介します。

まるか食品株式会社 商品部部長
杉村 智也 さん(51歳)
兵庫県姫路市出身。大手調味料メーカーで経験を積んだのち、大手外食チェーンの商品開発に13年間携わる。まるか食品への転職を機に、2016年3月末、家族5人で埼玉県から尾道市へ移住。趣味は奥様との食べ歩きと、息子さんと始めたウィンタースポーツ。好きな店は向島の「せいちゃんち」。


食への興味は、物心がついたときからでした。
両親いわく、昔から”考えながら食べる子ども”だったそうです。
「なんでこの味付けなんだろう?」とか、
「なんでこの盛り付けにしたんだろう?」とか、
とにかく目の前にある食品の、根本的な仕組みに興味がありました。

大学では化学を専攻。キャンパスから徒歩1分の場所に住んでいたので、当然うちは友人たちのたまり場です(笑)誰かが「腹減った〜」と言えば私が料理を作ってやる。そんな大学時代を過ごしました。

食品の「味」を決定する商品開発の仕事

就職活動では、当然のように食品会社しか受けませんでした。

新卒で入社したのは、愛媛にある大手調味料メーカー。念願の商品開発です。全国の大手食品会社の商品開発に関わることができて、商品開発のファーストキャリアとして貴重な経験をたくさんさせてもらいました。
しかし会社が”味付け担当”の調味料メーカーでしたので、世の中に並んでいる商品に対して「全部自分が作りました」と言えなかった。新規事業となる外食や中食の経営を上層部に掛け合ってみましたが叶わず、もっと商品開発を追究できる環境に転職することにしました。

次に入社した大手外食チェーンは「おいしいといわれるもの、興味があるものは絶対に食べなさい」という社風でした。6,000円のハンバーガーの値段に怯んで食べずに帰ったら、その味わいを経験しなかったことに対して怒られる。確かに6,000円のハンバーガーを食べないと、500円のハンバーガーとの違いはどこにあるのか一生わからないままですよね。

商品開発って、果てしない冒険のような仕事です。
たとえば山椒味の商品を開発する場合、さまざまな産地から山椒を取り寄せるわけですが、産地だけでなく収穫時期なんかも考えなくてはいけないので、パターンは無限大。どこでバシッと味を決めるかは開発者のセンスに委ねられます。

こだわるべきなのはどこなのか?
とにかくおいしいものを食べては、開発に活かす。そんな仕事をさせてもらった30〜40代前半でした。

西日本でオンリーワンの商品開発。まるか食品との出会い

仕事には熱中していましたが、とにかく激務でした。さらに揚げ物の担当だったため、朝9:00から揚げたてのチキンを食べ続けるような生活です。
40歳をまたいだころから「この仕事、定年までできるだろうか」と考え始め、転職エージェントに登録。私と妻どちらの実家も西日本にあるので、西日本エリアで商品開発ができる企業を探すことに。

まるか食品とは、そんなときに出会いました。

正直にいうと、最初はまるか食品のこともイカ天のことも知りませんでした。でも調べてみると、”おっさん”のイメージが根強い珍味業界の中で女性をターゲットにオンリーワンの商品開発をしているじゃないですか。これはすごいことで、「やりがいがあるぞ」と直感しました。
2015年12月、ちょうど出張で東京にいた社長との面談があり、2016年3月に移住、4月に入社することになりました。

43歳での転職と移住。「商品開発」の基本軸をブレさせずに、新しい領域の仕事も楽しむ

これまでは大手にいたので商品開発だけに集中できる環境で仕事してきましたが、まるか食品では、”商品開発だけやっていればOK”というわけにはいかなくなりました。今は企画、開発、品質管理、購買、得意先への営業──、ぶっちゃけ全部の工程に関わっています(笑)

初めてのことも多くて、そりゃあ大変です。でも、面白さが勝ります。「商品開発がしたい」という想いをベースからずらさずに、なんとか楽しんでやっていますね。

まるか食品での大きな仕事としては、看板商品「イカ天瀬戸内れもん味」10周年というタイミングの、大幅なリニューアルプロジェクトを担当しました。
この商品が10年前──2013年12月に発売されたとき、世の中の人は酸っぱさやおいしさに衝撃を受けたはずなんです。そのときの驚きを思い出してほしくて、レモンの酸味をより強く引き立てられるよう、特に風味にはこだわり抜きました。おかげさまで好評です。

まるか食品商品部の懇親会。テーマは「みんなが行ったことのないおいしいお店を開拓しよう」

まるか食品の魅力は、性別や社歴関係なく意見が言えるところです。「イカ天瀬戸内れもん味」って、女性社員が社内で「やりたい」とふんばってくれたからこんなにロングヒット商品になったんです。女性が活躍する企業のさきがけだったのではないでしょうか。

新商品開発に関する会議にて。向かって左端が社長ですが、女性メンバーが怯むことなくアイデアや意見を出してくれています

尾道移住で得られた家族との時間

移住・転職したことでこれまでかかっていた往復2時間以上の通勤時間を短縮することができたので、プライベートでは子どもとお風呂に入れる時間が作れるようになりました。土日も、子ども優先で時間を使うようになったのは大きな変化ですね。
尾道育ちの子どもたち。習い事をしたり、スポーツを楽しんだり、のびのびと育ってほしいものです。

そして将来子どもが巣立っていったら、大好きな奥さんと夫婦で余生を楽しむのも、今からとても楽しみなんです。尾道に限らず、全国津々浦々いろいろな場所に住んで、各地の食べ物を食べ歩くような暮らしがしたいですね。

”瀬戸内”の名を背負うというやりがい

”北海道=おいしいものだらけ、外さない旅行先”
この方程式って、おそらく全国的に共通認識だと思うんです。

夏休みの家族旅行で北海道に行きました。家族も「おいしいものがあるところ」を選んでくれます

一方、瀬戸内ってポテンシャルは高いのにまだ全然認められていないと感じています。豊かで新鮮な食材にしろ、真っ赤な夕焼けと多島美に息をのむようなしまなみ海道の景色にしろ、もっともっとこのエリアの良さが全国区で知られても良いはずなのに……。

だから、”瀬戸内”の名を背負った商品開発に第一線で関わることができることはやりがいです。この商品をきっかけに、瀬戸内に訪れる人が増えてくれたら、こんなにうれしいことはありません。

これからも商品開発を通じて、瀬戸内の地域性や魅力を伝える1人であり続けたいです。


●移住定住コンシェルジュ・取材:後藤峻(@concierge_goto
●編集・取材・文:アンドウ(@holiday_cloudy

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