編集者は毎月どんな本を読んでいるのか?(2024年3月編)
※今までの読書リスト&感想はこちら↓↓
2024年3月に読んだ本
■間宮改衣『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)
一作品だけで伝説になるタイプの作家がいますが、この著者はそういう方です。芥川賞、とれるんじゃないでしょうか。
ひらがなばかりで最初は面食らうと思いますが、全体のペース配分や緩急、文章のリズムなど、すべて計算づくで書かれているはず。1つのジャンルに押し込めてしまうと何かがこぼれ落ちてしまうような、多角的な魅力に満ちた野心作です。外から見える無垢な姿のなかにおそるべき才能が隠れています。
■オードリー・タン『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』(プレジデント社)
コロナ禍の台湾で活躍し、日本でも知名度の高いオードリー・タン氏。タン氏の思想と、私たちがこれから目指すべき社会、そして世界のありかたについて語る本です。「デジタルとAI」とありますが、インターネットをはじめとするテクノロジーをいかに味方につけるか、そしてインターネットというプラットフォームを使った「平等」を目指すために何をすべきか、考えさせられる本です。ちなみにタン氏は、柄谷行人氏の影響を強く受けているそう。
■山口義宏『デジタル時代の基礎知識「ブランディング」 「顧客体験」で差がつく時代の新しいルール』(翔泳社)
ブランディングを学ぶために、まずは基礎からということでチョイス。新しい分野に携わるときには、まずは足腰を鍛えるのが大切です。初学者向けの本を読むのも結構好きで、楽しみにしています。知見が広がりますね。
■佐藤優『紳士協定 私のイギリス物語』(新潮文庫)
「日本の外交官」と聞いて一番最初に思い浮かぶのが、佐藤優さんという人も多いと思います。外務省への背任容疑で逮捕・拘留されたときのことを克明に綴った『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』で出版界に衝撃的なデビューを飾った佐藤さんが、若かりし頃ロシア語を学ぶためにイギリスへ留学した際の出来事が描かれています。日本の外交、インテリジェンスの裏側を知ることができますし、情報活動や語学習得のセンスに長けた外交官がその後どのようにして活躍していくのか、その端緒が見られます。月並みなたとえですが、地頭のよい方の文章を読むのは気持ちのいいものです。
■いとうせいこう『「国境なき医師団」を見に行く』(講談社文庫)
昨今の戦争でも話題に挙がる「国境なき医師団」。駅前でパンフレットを配っているのを見たことがありますが、はたして実際にどういう活動をしているのか、著者のいとうせいこうさんが医師団に同行して世界の紛争地域をめぐる一冊。日本という相対的に平和な国に生きる私たちは、この問題に対しどう考えていけばいいのか。せいこうさんの等身大の視点から、考えるヒントをもらえます。売上の一部は「国境なき医師団」に寄付されるそうです。
■九段理恵『東京都同情塔』(新潮社)
国立新競技場にザハ・ハディド案が採用されたifの世界を舞台に、犯罪者収容施設シンパシータワートーキョー(=東京都同情塔)が見下ろす街で生きる建築家の女性と、彼女と人生を交錯させる青年が織りなす物語。言葉を横文字にすることでそこに秘められたエッセンスが薄れていくように、日常の中で消え去っていきがちな本質を見据える物語ととりました。都市景観の描き方や文章の運びが、コンセプトカーの展示会というかカッティングエッジなものを読んだ印象です。芥川賞受賞作。
■濱義之『警視庁情報官 シークレット・オフィサー』(講談社文庫)
公安出身の著者が描くインテリジェンス小説。世界の諜報の舞台において日本がどの立ち位置であるか、国益が損なわれるとすればどういう流れになるのかをつづったサスペンスかつシミュレーション小説です。警視庁に新設された情報室に所属する主人公の出世がストーリーの経糸になっているので読みやすく、若干の島耕作的展開はありますが、それがいいスパイスにもなっています。
■濱義之『完全黙秘 警視庁公安部・青山望』(文春文庫)
『警視庁情報官』シリーズの著者の別シリーズ。財務大臣を刺殺した犯人は完全黙秘、その氏素性もまったくわからないというヒキのある不可解な事件から始まる物語は、やがて政財界を巻き込んだ壮大なスケールの犯罪と闇に迫っていきます。公安がふだんどのような職務を行っているのか、緊迫感あふれる筆致が楽しめる一冊です。
■他にも…
読書リスト&感想はこちら↓↓
旅行系のマガジンはこちら↓↓
ガジェット系のマガジンもたまに書いています↓↓
ここまでご覧いただき、ありがとうございました!
記事を読んでくださり、ありがとうございます! サポートいただいたお金は、今後の活動の糧にさせていただきます。