編集者は毎月どんな本を読んでいるのか?(2024年5月編)
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2024年5月に読んだ本
■三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)
『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』や『人生を狂わす名著50』など、読書家が本について一度は考えるであろうテーマを絶妙にすくいとってきた気鋭の書評家が書く、まさに「なぜ働いていると本が読めないのか」の正体。近現代日本人の労働史とその中で読書が果たしてきた役割の変化を軸に、先達の例を引きながら丁寧に解説しています。本、特に小説は時代が求めるものとの齟齬が原因という感じにまとまっています。さくっと読めるので、この本をきっかけに自分なりに考える機会にもなりそうです。
■今村翔吾『じんかん』(講談社文庫)
織田信長に謀反を企てた、茶釜とともに爆死したといった派手派手な(創作も交えた)エピソードで有名な松永弾正久秀。主家の三好家を乗っ取った、東大寺を焼き討ちした、将軍である足利義輝討伐という「三悪」をなした大悪人とされる松永には、知られざる真の姿があった。三悪の裏に何があったのか、松永は本当に悪人なのか、真実を知る信長が語っていく。ダークヒーローものとしても楽しめます。
■今村翔吾『八本目の槍』(新潮文庫)
豊臣秀吉の「賤ヶ岳七本槍」とされる武将たちには、もう一人、「八本目の槍」である石田三成がいた――。各話の主人公を七本槍の武将一人ひとりが務め、三成との関係性を描く連作群像劇。三成がとった一見不可解に見える、損をしているような行動が、のちに登場人物たちや歴史の趨勢を決めたり、二手も三手も先を読んだものだった……という流れがあるので、歴史時代小説の佳品を読んだと同時に、三成の真意を探る歴史ミステリとしても楽しめました。
■ジョン・ル・カレ『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』(ハヤカワ文庫NV)
ゲイリー・オールドマン主演で映画化された「裏切りのサーカス」原作。ソ連の二重スパイが英国情報部の中に紛れ込み、あまつさえ上層部の地位にいる。引退した情報部員のスマイリーは、膨大な記録を調べ、ついに裏切り者をつきとめる。著者のル・カレは実際に英国情報部で働いていたこともあり、その筆致は熟成した酒のごとく、芳醇な味わいのよう。スパイ小説の頂点がここにある。ちなみにタイトルは、情報部の長である「コントロール」が、裏切りの疑惑にある部下に秘密裏につけた識別名である。
■東松寛文『リーマントラベラー 週末だけで世界一周』(河出文庫)
「週末だけで世界一周できるわけないだろ」と思ったが、いやいやできるもんですね。著者は仕事の合間をぬって実際に週末旅で世界一周を成し遂げてしまいます(3か月で5大陸18か国を訪問したそうです)。あまりのアグレッシブさに圧倒されつつも、無邪気に旅をする姿に、少し前向きな気持ちをもらいました。思考の幅を広げてくれた一冊。
■マイケル・フィンケル『美術泥棒』(亜紀書房)
スイスアーミーナイフ1本で美術館から芸術作品を盗み、作品を自宅の屋根裏部屋に飾る。その額、総計3000億円。美術史上悪名高い窃盗犯となった男の栄華と転落の日々を書いたノンフィクション。ナイフ1本で盗めるとはさぞセキュリティの甘い昔の話だろうと思いきや、犯人のステファヌ・ブライトヴィーザーは1971年生まれ。犯行当時は20-30代とわりかし最近の話なのです。当然やがて捕まるタイミングが来ますが、それまで全能の神のごとく華麗に盗みを行う手際を読んでいると、ある種アクション映画のように見えてくるから不思議です。捕まったあとの彼の人生にも読みごたえがあります。
■小島俊一『2028年 街から書店が消える日』(プレジデント社)
出版取次会社・トーハンの元執行役員で、出向先の赤字地方書店チェーンの業績をV字回復に導いた著者が、出版業界の抱える深く、分断のもととなっている課題について切り込んでいくノンフィクション。『君たちはどう生きるか』のように叔父と甥の会話で進むので、業界にとっかかりがない人でも業界事情がわかりやすく読める。読書好きな人、書店が好きな人、出版関係者など、本をとりまくあらゆる人におすすめです。
■朱野帰子『わたし、定時で帰ります。』(新潮文庫)
何があっても定時で帰ることを至上主義とする主人公が、ひとクセもふたクセもある会社の同僚、上司、部下、取引先の無理難題をパワー系で解決していく。登場人物たちはかなり戯画化されて書かれたように見えて、こういう人いるよなあと妙に共感させるので不思議。
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