アラサー、走る。
先月末のこと。
初めて文学賞に応募する、という体験(?)をしました。
喉と心臓の間のもにゃもにゃは1日で収まりました。
出してしまったものはもうどうしようもないので、結果発表まで忘れておこうと思います。
人間は忘却の生き物です。
そして私はその最たる例である自負があります。
よってここに、応募までの簡単な流れと、自分がいかにあたふたしたかの記録を残しておこうと思います。
そもそものきっかけ
私がnoteへ投稿を始めたのは昨年の5月でした。当初は子供の頃の思い出話や日記を書く、所謂ブログのような使い方をしようと思っていました。
が、ほんの出来心で短いお話を書いてみたところ、それが思いのほか楽しかった。
それからショートショートや短編小説を書いては投稿するようになりました。
書いているうちにnote内のサークルさんに声をかけていただき、電子書籍を出版していただいたり、文学フリーマーケットに参加したりと、貴重な経験をさせていただきました。
つまり私、書き始めてから1年経っていないのです。まだ初心者マークの取れないひよっこです。思えば遠くへ来たものだ。
で、前述のサークル主催者さんに「電子書籍用に長編を書いてみませんか」とお誘い頂いたのが、いつだっけ。おそらく昨年の夏頃だと思います。
「長編は書いたことないので出来るか分かりませんが挑戦してみます!」
みたいなメールを送った記憶があります。軽いな。というか甘いな。
なんとなく小説にしたい題材はあったので、それを頑張って書いてみよう、無理だったら謝ろう、と思ってました。軽い。
そんなわけでとにかく書き始めて、始めてしまったら終わらせないと気が済まなくなり、激務の狭間で死にそうになりながら書きました。
それまでに書いていた小説は、最長でも30,000字強。
基本的には3,000~5,000字の短いお話を、行き当たりばったりで書いていました。
プロットとか作ったことなかったし、体裁も適当でした。そしてそのノリで長編を書き始めたら、案の定というべきか、地獄を見ました。
「私」の一人称で書き始めたのが40,000字くらいで破綻、これは無理だと諦めて初めから三人称で書き直しました。
話が進むほど頭の中だけで構成を練るのが困難になり、途中から箇条書きのプロットを作成。
資料も何も用意していないので度々中断してはネットの海を彷徨ったり、本棚を引っかきまわしたり、昔のノートを引っ張り出したりして、書いては消し、行きつ戻りつを繰り返しました。事前準備、大事。
いやー辛かった。締め切り前の数週間は徹夜の連続で、最終的には常にPCを持ち歩かないと不安になり、夜勤の休憩中にも書いてました。
栄養ドリンクの空き瓶がシンクにたまっていくのを見ながら「私は一体なにをしているんだ?」とぶつぶつ呟いて、それでも何故かやめようとは思いませんでした。ドMなのかもしれない。
そしてなんとか書き上げた小説をサークル主催者さんへ送ったところ、「文学賞に出してみては?」とのご提案をいただいたのでした。
まさに青天の霹靂。「文学賞に応募する」という選択肢は私の頭には存在していませんでした。だって初心者マークだし。人生って不思議。
せっかく長い小説を書いたのだし、記念に賞に応募してみるのもありか!と思った私は応募先を探すことにしました。
以上、前置きです。長い。
応募先決定、推敲作業開始
小説を書き上げたのは昨年の11月でしたが、応募先を決めたのは今年に入ってからでした。そもそも文学賞についてなにも知らなかった私は「文学新人賞」で検索して、締め切りが近い賞の情報をなんとな~く集め(主に個人運営のコラムやブログを読み漁りました)、直近の受賞作を読むことから始めました。
かなりのんびりしていたと思います。「文学賞」の存在はあまりに遠く、現実感が無かったのです。他人事の温度でした。そして、締め切り前にボロボロになって以来、自分の小説を読み返すのが億劫になっていました。(酷い出来だという自覚があったので……)
しかし、これを逃したらもうこんな経験は出来ないかもしれない。もったいない!と思ったので無理やり応募先を決め、締め切りを見据えて推敲を始めました。
まぁ酷かった。徹夜続きで、通読して手直しすることもままならない状態で放置されていた文章はムラが多く、正直頭を抱えました。
とにかく無駄な部分と変なこだわりを削り、弱いところ、不足している要素を加える、補強する。
これが容易ではありませんでした。なにしろ今までこんなに長い話を書いたことがなかったので(といっても長めの中編くらいですが)通読するだけでもたいへん、途中で日を跨ぐとテンション変わっててまた振り出しになる、あっちを直すとこっちが歪む、これの繰り返しで、しまいには
「これはもうどうやっても無理だ。無駄だ」
「こんな駄作を送り付けるなんて賞への冒涜だ」
「こんなものを読まされる下読みの方が可哀想だと思わないのか!」
と脳内で自分が怒鳴り始め、たいへんに落ち込みました。
が、「応募する」と宣言した手前もう引き下がれません。腹をくくって仕上げました。
Wordなんて嫌いだ!と叫びたい
ところで、私があたふたしたのは、小説の中身についてだけではありません。応募するには体裁を整え、表紙を作り、プリントアウトした原稿を綴じて郵送する必要があります。
この「体裁を整える」ことに、本当に手こずりました。
分からないことのほとんどは質問サイトに答えが載っていたのでそれを見て設定をしたのですが、まず文字の大きさ、文字数、行数、余白を思い通りに指定することがこの上なく難しいのです。(Wordの話です)
順番を守らないと絶対に何かが欠ける上に、順番を守っても隠れた設定に邪魔されてうまくいかない、この連続です。めちゃくちゃイライラします。なんなの!?と叫びたくなります。
何度も調べて、何度もやり直して、ようやくそれらしい形ができたときには疲労困憊。
(私はもともと機械音痴で、PCと仲良くなれません。設定とかしてると頭パーンてなる。悲しい。)
そして、表紙作り。
名前や住所などの情報とともに「経歴」を書くのですが、これも何を書いたら良いものか分からず悩みました。私に特記すべき経歴などない。結果「経歴」は2行に収まりました。
ようやく完成し、いよいよ印刷です。まだ続きます。
アラサー、走る。
自宅にプリンターがないので、コンビニで出力することにしました。
ネットプリントの予約?登録?をして、いざコンビニへ行ったら、小銭が無い。
ネットプリントはA4用紙1枚20円。
約80枚プリントしなければならないので、その分の小銭を捻出するためにグミを買いました。
何故グミだったのかは不明。安かったのかな。
その時、私は異様な緊張感に包まれていました。かなりてんぱってた。事前準備、大事。
無事に小銭を手に入れて、いざ出力。
平日の午後、店内は閑散としていたけれど、待っている間の気まずさが尋常でなかった。
そわそわしながらコピー機の前で両手をグーパーしているうちに出力完了。
束になったA4用紙を、折り目や汚れがつかないように慎重にそろえてケースにしまい、それをトートバッグに入れてコンビニを出ました。
自動ドアを出た途端、喉からヒェッ、みたいな変な音が出ました。
原稿の入ったトートバッグは何故か両腕で抱えていました。
そのまま歩きだしたら、また喉からヒッという音が。
緊張感は恐怖に近い緊迫感に変わっていて、とにかく急いで帰らなければ、と思った私はだんだん早歩きになり、小走りになり、とうとう走り出しました。
トートバッグを抱きしめて全力疾走するアラサー。
口は「ヒッ」の形のままだったと思います。マスクがあって良かった。
傍目には様子がおかしい人に見えたことでしょう。実際に様子がおかしかったのだから。
うまく言えないけど、取り返しのつかないことをしている自分への恐怖と、ある種の高揚感に身体が支配されている感じでした。
ジェットコースターの、てっぺん付近に到達したときの感覚に似ているかもしれません。
緊張、恐怖、高揚がもたらす浮遊感。気持ち悪さとワクワクがごちゃ混ぜなかんじ。
私自身の内面をえぐり出していくような執筆作業だったので、紙になった小説を目の前にして怖くなったのだと思います。今思えば。
とうとう部屋の前まで走り切りました。普段走ったりしないので(走るの嫌い)息も絶え絶えになるかと思いきや、意外にも平気でした。アドレナリンって怖い。
手を洗い、原稿の無事を確かめ、深呼吸。いよいよ、原稿を綴じます。長い。すみません。もうすぐ終わりです!
喉から漏れる変な声再び
応募規定に則り、原稿の右上に穴を開け、綴じ紐で綴じます。
このためだけに穴あけパンチと綴じ紐を買いました。
これ、他に使い道あるのかな……なさそうだな……と思いつつ、不安の払拭のために購入。
これで原稿に穴を開けていくのですが、最初に20枚で試したらものすごく硬くて、原稿がずれまくり、焦って全身に汗をかきました。
手汗で原稿が湿りそうだったので、料理の時に使っている使い捨てのゴム手袋を装着。絵面が完全に犯罪行為に。
欲張らず10枚ずつ慎重に穴を開けて、最後の一束が終わったところでどっと力が抜けました。知らない間に息を詰めていたようです。
次は綴じ紐を結びます。ネットで見つけた手順画像を見ながら綴じたのですが、最後に結んだときに左右の長さが合わず何度もやり直す羽目に。
冷静に考えればきちんと綴じてあればそれで良いはずなのに、無心で整えていました。冷静ではなかったのだな。
やっとのことで完成した原稿をクリアファイルに入れ(ネットではビニールの袋に入れると良いとの記事がありましたがこの点については横着しました。)レターパックに入れ(ライトを選びました。)郵便局へ。
道中の桜並木がそれはそれは美しく、風があったので花びらがこれでもかと降り注ぎ、それらの写真を撮る人たちの中をゆっくり歩きました。
コンビニからの帰りとは打って変わって、とても静かな心境でした。
静か、というよりは「無」でした。桜が本当にきれいで、きれいだなぁと思ったのですが、それは画面越しに見ているような種類の美しさで、なんとなく遠かったのを覚えています。
郵便局にたどり着き、空いていたので窓口に直行して職員の方に原稿の入ったレターパックを手渡しました。
「お預かりします」
と、言われました。
いつもより深めのお辞儀とともに「よろしくお願いします」と伝え、急いで郵便局を出ました。
郵便局を出た途端に、また喉の奥からヒッという音が出たので立ち止まりました。
今度は走り出したくはならず、代わりに喉と心臓の間に強烈な違和感が芽生えていました。
もにゃもにゃする。
行きと同様ゆっくり歩いて帰りました。
もにゃもにゃする、もにゃもにゃする、と頭の中で繰り返し、冒頭のツイートに至った次第であります。
おわりに
noteを始めてから「まさか自分が」と何度思ったか分かりませんが、今回の応募はその象徴というか、いまだに「まさか自分がこんなことをするとは」と思っています。
後悔はしていませんが、応募した後は怖くて原稿を読み返せていません。
もう少し時間を置いて、また推敲というか、改稿というか、もうちょっとなんとかできるといいなぁと思っています。
この記事を書こうと思ったのは、
「あんなに走ったの、いつぶりだろう。」
としみじみ思ったのが発端でした。最近じゃ遅刻しそうになっても走らないのに!(そこは走れよ。)
短時間で感情の乱高下にめちゃくちゃにされる感覚も久しぶりだったので備忘録として残しておこうと思ったのですが、こんなに長くなるとは思っていませんでした。5,000字近い。うへぇ。
最近はnoteも開店休業状態で、どうしようかなぁと思っているのですが、書くことは細々続けていこうと思います。
今回の応募作は、結果発表のあとで何かの形にしたいと思うので、それまでに恐怖を乗り越えて直しに着手したいです。します。
以上!
最後までお付き合い頂きありがとうございました!