question
盆が過ぎると急速に寂しくなるのは子供の頃に夏休みの終わりが近いことを感じたまま大人になったからなのだろう。
やっていないことを数え始める。
あれも、これも、やらないまま夏休みが終わってしまう。
でも宿題は残っている。
なんだか、そんな夏の終わりがずっと今日まで続いているみたいだ。
NHKで戦争になったらどうしますか?という質問をあげた番組があったらしくて、その質問はないという意見をいくつも見かけた。
そんなに目くじら立てないでもいいのに。
もし戦争になったら自分はどうするのかを想像すること自体はそんなに悪いことじゃないから。
その想像が、だからこそ戦争にならないように事前に注意しようという方向になるだろうから。
それじゃダメなのかな。ダメな人もいるか。うん。まあな。
映画「演者」は1945年の春を舞台にしている。
終戦間際の最後の戦時中の春だ。すでに国内での空襲が始まっている時期。
だから上映を打診した時に、8月の上映がいいんじゃないかという言葉がいくつかあがったのは確かだ。
実際、名古屋シネマテークでは戦争特集の中に組み込んでもらった。
戦争のドラマが製作され、戦争の映画が上映され、テレビでは特集が組まれて、様々な式典が開かれる。
この時期だけでも良いから戦争のことを考えようというのはそんなに間違ってはいないと思う。
でもなんとなく肌感覚として8月の上映は厭なんだよなぁと思っていた。
一発の弾丸も、戦車も、爆弾も出てこない戦時中の映画。
当然、背景として戦争はそこにあるのだけれど、それでもそんな様々な戦争特集の中の一つになるのは少し違うような気がしていた。
と言いつつも、それを選べるほどの大きな映画ではないんだけれど。
映画を観てくださった方の中で、もちろん戦争という背景を中心にした感想をいくつか目にしている。
むしろ現代の話だとか、未来の話だとか、そんな感想も。
うん、そう。多分。「戦争映画」という枠組みはなんとなく違うんじゃないかなぁと思う。
受け止め方は自由だけれど、事前に固定概念が入りすぎるから。
あくまでも戦時中という背景の中の映画でいいのだと僕は思っている。
タモリさんが「新しい戦前」という言葉を口にした。
その言葉がキャッチーだったのか、もうありとあらゆる人たちが引用していた。
僕が面白いなぁと思ったのが、思想的には相反しているはずの保守もリベラルも引用していたということだ。
保守側は他国からの戦争の危機が迫っているという意味で引用して、リベラル陣営は自国が軍事化しようとしているという意味で引用していた。正反対のようで実は正反対でもないのか。
タモリさんがどちらの意味で使用したかなんて本人じゃないとわからない。
それでもここまで多くの人が引用するということは、その言葉にはものすごいパワーがあったのだろう。
長く続いた「戦後」という言葉を吹き飛ばすようなパワーが。
戦後という言葉はとっくの昔に色褪せていた。
もしも戦争になったらどうしますか?
僕たちはこんな質問を今日まで何度も受けてきている気がする。
映画やドラマをみれば本や漫画を読めば僕たちは感情移入して自分と登場人物をシンクロさせる。
自分があの場にいたらどうしただろう?
そういう体験を今まで何度もしてきた。
戦場のメリークリスマスでもプラトーンでもビルマの竪琴でも。
映画とは質問なのかもしれない。
言葉ではなく、体感としての質問。感情も含めた質問。
頭で考えるだけでは出てこない答えが出る質問。
戦争なんか反対だ。反対に決まってる。
戦争に賛成してる奴なんてほとんどいないと思ってる。
新しい戦前になんかするか。
僕は分解能を高くしていく。
ざっくりと厭なのではなくて、もっと丁寧に具体的に。
平和なこの国で苦しんでいる人がいる。平和なのに。
だからだから。
新しい時代。新しい平和。
そんな言葉がパワーを持つまで。
映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃
「嘘ばかりの世界」だ
「ほんとう」はどこにある
【上映館】
・2023年11月18日(土)より
ユーロスペース(東京・渋谷)
http://www.eurospace.co.jp/
出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一
撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき
【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。
家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。
やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。
◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)