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食用油と健康の逆説 VIII:必須脂肪酸を摂り続けるとどうなるのか?
前回まで様々な疑惑を紹介しました。
必須脂肪酸とは、オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸になります。
必須脂肪酸を摂り続けるとどうなるのか?
長期的に追った研究は限られています。
シリーズVで紹介したワズワース退役軍人病院研究以外にもありました。
1965年、食事の油を動物性脂肪からコーン油(多価不飽和脂肪酸:PUFA)に置き換えるとどうなるか。
おそらく最初とされるランダム化比較試験が行われました。[1]その結果、心臓の疾患イベントの数が2倍になりました。
研究者は、
「この試験の状況では、コーン油を虚血性心疾患の治療薬として推奨することはできない」
と結論づけました。
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1978年の動脈性心疾患を起こしたことのある男性458人を対象に行った2〜7年間の二次予防試験では、動物油を植物油に置き換えた場合、死亡率が39%上昇しました。[2]
研究者は、
心筋梗塞を発症した男性は、生活習慣が何度も変化するため、脂質仮説の検証には適さない。 減量、喫煙の減少、身体活動の増加、その他の再調整は、食事脂質の変化よりも重要な有益な効果をもたらす可能性がある。
と、脂肪を置き換えるよりも生活習慣の方が影響を与えることを指摘しています。
どうしてこのような結果になったのでしょうか。
必須脂肪酸は酸化する!
必須脂肪酸と呼ばれるオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸であるPUFA(Poly Unsaturated Fatty Acid)は、活性酸素や金属、加熱によって簡単に酸化します。[3][4]
油の構造として炭素の二重結合が多いと酸化しやすくなります。
PUFAは酸化するとアルデヒドともいわれる過酸化脂質となり、強い毒性を持ちます。
その代表が、4-HNE(4ーハイドロキシノネナール)[5]、MDA(マロンジアルデヒド)[6]、4-HHE[5]、アクロレイン[6]、アイソプラスタン[7]といった物質です。
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中でも4-HNEは最も毒性が強く[8]、MDAは最も変異原性が高く[8](遺伝子の突然変異が起こりやすい)、アクロレインは最も反応性が高い[9]ことが分かっています。
過酸化脂質と脂質酸化反応は、多くの神経変性疾患や認知機能低下、心血管疾患、糖尿病、がんなど様々な病気に関与していることが指摘されています。[10][11]
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ラットを飽和脂肪酸が豊富なエサのグループ(SFA群)とPUFAが豊富なエサのグループ(PUFA群)に分けて5週間調査した実験では、PUFA群では過酸化脂質の割合が2倍増加し、有酸素運動能力が半減し、心臓組織のグリコーゲン貯蔵量が42%低下しました。
結論でもPUFAが心臓の酸化ストレスを増加させたことを指摘しています。[12]
PUFAによる酸化は過酸化脂質による毒性だけではありません。
過酸化脂質は体内にある核酸、リン脂質、タンパク質と結合して変性させてしまいます。その結果、変性したタンパク質は本来の機能を失います。
この作用を架橋といいます。
過酸化脂質とタンパク質が架橋したものをAdvanced Lipoxidation End-products (ALEs)といいます。別名をカルボニル化ともいいます。[13]
ALEsの厄介なのは、変質したタンパク質が凝集して固まってしまうため、細胞だけにとどまらず、組織まで機能を失ってしまいます。
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またALEsが作られやすい高血糖や高脂血症の状況では、AGEs(Advanced Glycation End-products)も作られやすくなります。AGEsは別名を糖化といいます[14]。近年では聞いた方も多いのではないでしょうか。
変質したタンパク質はリポファッシン(Lipofuscin)と呼ばれる老人斑を形成し、様々な老化や炎症に関わります。[15][16][17]
老人斑は皮膚や臓器にできるシミです。顔のシミは主にPUFAが酸化してできたものです。
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リポファッシンの形成には体内の鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、マンガンといった金属イオンが触媒として関わっています。[18]
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特に近年の研究では、PUFAと体内で過剰になった鉄との反応であるフェロトーシス(Ferroptosis)が多くの病気を引き起こすということに大きな注目が集まっています。[19][20][21]
そのため、近年のがんなどの病気予防の研究では、いかにして過酸化脂質やフェロトーシスを防ぐかに焦点が当てられています。
PUFAの酸化が起こると、過酸化脂質の直接的な害だけではなく、過酸化脂質があらゆるものを破壊してしまうということです。
PUFAを摂れば摂るほど、このリスクが高まりますので注意しましょう。
身体の中で過酸化脂質になるということは、いくら新鮮な油を摂ったとしても無意味なことを示します。
また、鉄分の安易な補給も禁物です。
不自然な植物油の抽出工程
圧搾(種子から手作業で油を搾り取ること)ではなく、工業的に作られている植物油は、多くの工程を経て製品になります。
材料となる種子を大量に集めて粉砕し、加熱し、油圧スクリュープレスにかけます。
その後、石油から作られたヘキサン溶媒で処理、蒸煮(じょうしゃ)、脱ガム、苛性ソーダによるアルカリ化、漂白をします。
この時点で油としての見た目は良くなるものの、ひどい悪臭を放った油が完成します。
そのため、脱臭をし、更に加熱をし、と機械的、化学的処理を何度も繰り返してようやく完成します。
そのため、ビタミンEなどの抗酸化物質を投与するものの、ボトルに詰められた時にはすでに、酸化している可能性が高くなります。
しかもそのビタミンEですら、化学的に作られている不自然なものです。
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皆さんが想像しているよりも多くの化学的な薬品の使用や工程を経て作られており、とても自然のものとは言い難いのが実情です。
オメガ3脂肪酸について
近年ではオメガ3に健康効果があり、免疫機能を調整し、炎症を抑える効果があるともてはやされています。
しかし、病気や治療によって酸化ストレスにさらされている患者には、オメガ3は逆効果になります。
それはオメガ3に免疫を抑制してしまう作用があるからです。[22]
免疫の抑制とは、免疫細胞たちの本来の役割であるゴミ掃除の機能を止めてしまうということです。
つまり、身体中がゴミ屋敷になったとしても掃除されないということを示します。
また、この文献[22]ではビタミンEの同時摂取は脂質過酸化の予防には信頼できないと結論づけています。
一度過酸化脂質に変化すると、抗酸化物質はただの付け焼き刃となるでしょう。
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ラットに新鮮なオメガ3の油を与えた実験では酸化ストレスマーカーが増加しました。[23]
健康な人を対象に、オメガ3の魚油を摂取した無作為二重盲検プラセボ対照試験において、1日6グラムの魚油を摂取すると、酸化防止剤のビタミンE(900IU)を摂取してもMDAと過酸化脂質が増加しました。[24]
Diet and Reinfarction Trial(DART)やDiet and Angina Randomized Trial(DART 2)といわれる5,000人以上に脂肪分の多い魚を食べること、また魚油のカプセルを摂取した無作為化試験があります。
この試験では、脂肪分の多い魚を食べても死亡率は減少せず、魚油カプセルの摂取群は心臓死や突然死のリスクが増加しました。[25]
オメガ3は、必須脂肪酸欠乏ラットの体重増加をある程度改善しましたが、皮膚炎や不妊症、その他多くの症状を治す力はありませんでした。[26]
またオメガ3の過剰摂取で血糖値の上昇が報告されています[27]。
そのため、2型糖尿病患者にオメガ3を処方するときは注意するように指摘しています。
これはランドルサイクルに影響するものと思われます。
オメガ3のDHAが酸化してできるカルボキシエチルピロール(CEP)は、動脈硬化、高脂血症、血栓症、黄斑変性症、腫瘍の進行など、多くの炎症に関連していることが示唆されています。[28]
主なオメガ3 や魚油のヨウ素価は140〜150で分類上は乾性油にあたります。つまり、空気中で容易に酸化して硬化します。亜麻仁油が塗料のニスとして使われているのは、酸化して皮膜を作るからです。
VIIIのまとめ
油が酸化して出来たアルデヒド臭は、オメガ3、オメガ6とも悪臭を放ちます。
魚が時間と共に強くなる生臭さは、オメガ3 が酸化した臭いです。
加齢臭の臭いの元も過酸化脂質で、2-ノネナールというオメガ6から出来るアルデヒドです[29]。
それが身体のあちこちで起こることを想像してみてください。
積極的に摂りたいと思うかどうかです。免疫細胞たちもやる気がなくなるのが、なんとなく想像つくような気がします。
僕は植物油をほとんど摂らない生活を始めて、8年近く経ちます。
もうすぐ50歳に近いですが、加齢臭はほとんどしないそうです。
なお、PUFAは身体でエネルギーに出来る許容量を超えてしまうと、それからは摂れば摂るほど体脂肪になりやすいです。[30]
植物油の体内での半減期は約2年、完全に置き換わるまで理論上は約4年かかります[31]。(半減期が680日、完全に無くなるまで約7年かかるとも言われている)僕個人的には、一刻も早く止めることをオススメしています。
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ただし、止めるには食べ方の工夫やライフスタイルの見直し、エネルギー源を糖質に移行するシフトが必要です。
このことについて解説すると、残念ですがとてもこの記事だけでは足りません。
植物油はオメガ3、オメガ6共にとても酸化に弱く、強い毒性を放つ。
そのため、長期的に摂り続けると危険が及ぶ可能性が高まります。
それが多くの疾患につながっていることを理解していただければと思います。
つづく
【関連記事】
【参考文献】
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[2] Low fat, low cholesterol diet in secondary prevention of coronary heart disease.
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[3] Mechanisms for the Autoxidation of Polyunsaturated Lipids.
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[4] Lipid peroxidation: production, metabolism, and signaling mechanisms of malondialdehyde and 4-hydroxy-2-nonenal.
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