食用油と健康の逆説V:植物油の疑惑の実験1
引き続きみていきましょう。
今回から2回に分けて、海外で行われた飽和脂肪酸を植物油に置き換えた食事を
長期的に行なうとどうなるか?という実験を紹介します。
これらの実験からは、どのようなことが分かったのでしょうか
ワズワース退役軍人病院研究
植物油に関する実験で最も長いとされる研究が、アメリカ心臓協会(AHA)のワズワース退役軍人病院研究[1]です。
この実験は、アメリカ国内の退役軍人男性846人を対象に、血清コレステロール濃度を低下させる食事が、冠動脈性心疾患、動脈硬化の発現を予防できるかどうかを判定した二重盲検試験です。
この実験は8年間も続けられました。
参加者は対照群(Control:以下C群)422人と実験群(Experimental:以下E群)424人に分けられました。C群とE群の参加者はどちらも同じような健康状態でしたが、C群には喫煙者がE群よりも多くなっていました。
C群の食事は、一日の摂取カロリーの40.1%が脂肪で、ヨウ素価が53.5だったのに対し、
E群の食事は、一日の摂取カロリーの38.9%が脂肪で、ヨウ素価が102.4でした。
僕個人的な基準では、一日に摂取カロリーが25%を超えると脂肪が多い食事(高脂肪食)だと判断しています。
ヨウ素価とは油が酸化しやすく、酸化によって固まりやすい(炭素の二重結合が多い)ほど数値が高くなります。一般的なスナック菓子に使われるパーム油がヨウ素価50前後、米油や紅花油がヨウ素価105前後です。
この場合だと、パーム油の方が酸化しにくく、米油や紅花油が酸化しやすいということです。
結果は、C群がE群よりも心血管死が50%多くなりました。
しかし、この実験にはとあるカラクリがありました。
C群の食事の脂肪はバターを与えられていたにも関わらず、ヨウ素価が53.5もあります。本来ならバターのヨウ素価は30〜38[2]です。
実は、C群には調理後の植物油が使われていました。
そのため、純粋なバターでは無かったことが判明しています。また、E群では酸化防止剤であるビタミンE(α-トコフェロール)を大量摂取している被験者もいました。
この実験は、純粋に飽和脂肪酸の代表であるバターと多価不飽和脂肪酸との比較ではなかったのです。
C群に喫煙者が多くなっているのも、意図的に調理後の植物油が使われていたことも、E群にビタミンEを大量摂取していた被験者がいたのも、作為的に捉えられます。
この実験で分かった重要なことが二つあります。
一つめは、植物油の摂取を続けても動脈硬化が減少しなかったことです。
C群とE群の両方の死亡者を解剖したところ、動脈に付着したアテローム(脂肪などのかたまり)はどちらも有意差がありませんでした。
一般的に、コレステロールが低下すると、動脈に付着するアテロームが減ると言われていますが、ワズワース退役軍人病院研究では少なくとも確認されませんでした。
更にE群ではC群よりも動脈硬化が進行し、中性脂肪、血中のリノール酸濃度が高くなりました。
被験者の中には、脂肪組織のリノール酸濃度が実験当初では10.9%だったのが、8年後には33.7%にまで達していました。
C群は開始当初から2年目まではコレステロール値が上がっていましたが、その後は下がり続けています。E群は開始当初からコレステロールが低下しています。
また、コレステロール合成にはエネルギー代謝やメバロン酸経路が密接に関わっています(甲状腺機能や炎症の度合いが関わる)。高脂肪食では甲状腺機能が低下するので、それに伴いコレステロールは低下します。結果はそれを如実に反映しているものと考えられます。
また植物油はコレステロールを含みませんので、摂取したコレステロールが減ったのもその影響と考えられます。
文献では、
と歯切れの悪い結論を出しています。
二つめは、最後の数年間でE群にがんと総死亡率が増加しました。
飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に変えれば、心臓病が減るのが、アンセル・キーズが提唱した『飽和脂肪酸悪玉説』でした。
しかし、死亡率は減るどころか増えています。
つまり、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に変更したところで、むしろ病気が増えてしまうということが推測されます。
植物油が本来の毒性を発揮するのに、少なくとも5年以上かかるということも言えるでしょう。
脂肪組織に蓄積したリノール酸は、ストレスなど何らかのきっかけで血液中へと放出されると酸化反応を起こし、過酸化脂質となって強い毒性を発揮します。
また、細胞内のリノール酸は細胞内に蓄積した鉄と反応し、過酸化脂質となって強い毒性を発揮します。
詳しくはシリーズの後半で紹介しますが、過酸化脂質は酸化ストレスとなって、多くの病気と関係しています。
これは植物油の摂取が常習化して当たり前になると、病気の原因が植物油だと気が付かないことだとも言えます。
シリーズIIIでも、飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換えることで、数年後にがんと心臓病のリスクを増加させることが示唆されたことからも、ワズワースの実験はそれを物語っていると考えられます。
一方で2010年のメタ解析では、飽和脂肪酸の摂取は冠動脈性心疾患、脳卒中、心血管疾患のリスク増加とは関連していなかったことが示されています。[3]
僕は、植物油(多価不飽和脂肪酸)を最強の毒物だと考えています。
その理由は世の中に当たり前に馴染みすぎて、知らないうちに身体に蓄積し、酸化すると強力な毒性を発揮するのに、みんなが毒物だと気が付かないからです。
植物油はそういった意味ではサイレントキラーと言えるでしょう。
シリーズIIIでは、アメリカにおいて女性特有のがんが増えているというデータを紹介しました。
植物油は間接的に、女性ホルモンと呼ばれているエストロゲンを身体の中で増加させてしまう作用があります。
エストロゲンが過剰になると、ある酵素によってがんを引き起こしやすくなりますので、その点でも植物油の長期的な摂取が危険となる恐れがあります。
つづく
【関連記事】
【参考文献】
[1] Controlled Clinical Trial of a Diet High in Unsaturated Fat in Preventing Complications of Atherosclerosis. Circulation. 1969;150(1 Suppl 2):II-1-II-2.
[2] 乳脂肪ーバターオイル
1970 年 19 巻 8 号 p. 757-764
[3] Meta-analysis of prospective cohort studies evaluating the association of saturated fat with cardiovascular disease.
Am J Clin Nutr. 2010 Mar;91(3):535-46.
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