太りやすい食事法とは?その②:メキシコ系アメリカ人のコホート研究より
前回はメキシコのタラフマラ族の実験研究をみていきました。
今回はメキシコ系アメリカ人の三大栄養素の摂取比率における大規模コホート研究[1]についてみていきます。
メキシコ系アメリカ人のコホート研究
この研究では、II型糖尿病の発症リスクが高いと言われているメキシコ系アメリカ人、
18〜65歳の男女1,150人(73%が女性)を対象としたコホート研究です。
このコホート研究では、メキシコ系アメリカ人における、食事パターンを分析しました。
その結果、高脂肪食になるほど、肥満(BMIと体脂肪)、インシュリン抵抗性、膵臓のβ細胞機能障害が多いことが分かりました。
その三大栄養素の摂取比率平均は、
高脂肪食群では、脂肪35%、炭水化物44%、タンパク質21%でした。
またこの研究では中脂肪食群という定義もつけられ、その摂取比率は脂肪28%、炭水化物54%、タンパク質18%と定義されました。
一方の低脂肪食群の定義は、脂肪20%、炭水化物65%、タンパク質15%でした。
この結果は年齢や性別で調整しても、高脂肪食群では低脂肪食群や中脂肪食群に比べて有意な差がありました。
更に特徴を見ていくと、一日の平均総摂取カロリーは、高脂肪食群2010kcal、中脂肪食群2010kcal、低脂肪食群2050kcalと大差はありませんでした。
低脂肪食群では総炭水化物、食物繊維、果糖、遊離糖(ブドウ糖や砂糖)の摂取量が最も大きく、総脂肪、飽和脂肪、コレステロール、タンパク質の摂取は最も少なかったことが分かりました。
更に低脂肪食では、他の2群に比べて身体活動レベルもわずかに低いことも分かりました。
WHOが食事による慢性疾患の予防として設定した目標の脂肪摂取量は、総摂取カロリーに対して37%です。
それにもかかわらず、メキシコ系アメリカ人の場合は、この研究における高脂肪食の35%で有意な差が見られました。
この傾向は、他の人種でも同様に見られました。
ヒスパニック、アフリカ系アメリカン人、非ヒスパニック系白人のコホートでも、総脂肪が多いほど、肥満、インシュリン感受性の低下と関連していました。[3]
この研究からわかることを考察
この研究からわかることは、こちらも①でお伝えしたように、高脂肪食によってランドルサイクルによって脂肪のエネルギー代謝にスイッチしているのではないかというものです。
ランドルサイクルで脂肪のエネルギー代謝にスイッチすると、糖質の代謝が制限されます。
高脂肪食群ではそれが如実に反映されており、その結果、肥満、インシュリン抵抗性、膵臓のβ細胞の機能低下が起こったと考えられます。
同様の結果は、マウスの実験でも確認されています。[4][5]
膵臓のβ細胞の機能低下が起こる要因が、遊離脂肪酸による酸化ストレスであることが示唆されています。[6][7]
理由は、脂肪のエネルギー代謝になるとブドウ糖よりも酸素消費量が多くなり、酸素消費量が多くなるほど、ミトコンドリアで活性酸素が発生するからです。[8]
具体的なメカニズムについては今回は解説しませんが、ミトコンドリアから発生する活性酸素が多価不飽和脂肪酸(PUFA)を酸化させることによって、生命場を破壊するアルデヒドが発生します。
反対に低脂肪群では脂肪よりも炭水化物の方が多いですが、これによって脂肪のエネルギー代謝よりも、糖のエネルギー代謝が優先され、肥満、インシュリン抵抗性、膵臓のβ細胞の機能低下が少なかったと考えられます。
通常皆さんが抱いている感覚では、甘いものや糖質は太りやすいというイメージがあると思います。
また、甘いものや糖質をたくさん食べると不健康や糖尿病になりやすいと思い込んでいる方が大半だと思います。
また運動をすればダイエットできると考えている人も大半です。
しかし糖質が多い食事よりも、脂肪が多い食事に悪い結果が出ました。
しかも、身体活動量は低いにもかかわらずです。
この研究でもランドルサイクルの理解によって、①の記事と同じように、要因が見えてくるかと思います。
現代食は、脂肪が多い食事ばかりです。
皆さんそれがすでに、当たり前すぎて気がつかないだけです。
肥満や病気を予防するならば、糖質よりも脂肪を控えた方がよいと考えられます。
【参考文献】
[1]High-fat diet is associated with obesity-mediated insulin resistance and β-cell dysfunction in Mexican Americans.
J Nutr . 2013 Apr;143(4):479-85.
[2]WHO Diet, nutrition, and prevention of chronic disease. Geneva: WHO; 2003
[3] Dietary patterns, insulin sensitivity and adiposity in the multi-ethnic Insulin Resistance Atherosclerosis Study population.
Br J Nutr. 2004;92:973–84.
[4] Pathway to diabetes through attenuation of pancreatic beta cell glycosylation and glucose transport.
Nat Med. 2011;17:1067–75.
[5] Distinct Metabolomic Profiling of Serum Samples from High-Fat-Diet-Induced Insulin-Resistant Mice.
ACS Pharmacol Transl Sci. 2023 May 12; 6(5): 771–782.
[6] Oxidative stress and calcium dysregulation by palmitate in type 2 diabetes.
Exp. Mol. Med. 2017;49:e291.
[7] Mechanisms of Pancreatic β-Cell Death in Type 1 and Type 2 Dia-betesMany Differences, Few Similarities.
Diabetes. 2005;54:S97–S107.
[8] Oxidative stress, insulin resistance, dyslipidemia and type 2 diabetes mellitus.
World J. Diabetes 2015, 6, 456–480.
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