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菌活・腸活の危険性③:菌活・腸活は有害の可能性がある

前回2回にわたって、菌活や善玉菌と呼ばれる菌が有害になった症例をお伝えしました。
どうしてこのような感染症が起こったのでしょうか。

文献を交えながら考えていきましょう。

症例の共通点

特にその①の症例を見て気がつかれた方もいるかと思います。
それは、身体の状態が悪い人がプロバイオティクスで悪化しています。


また、その②のように過剰な服用や症状が悪化することで、感染症を発症することがあります。


その理由は至極簡単です。
腸内細菌は非自己であり、外敵や異物となるからです。


その①でも書きましたが、善玉菌も悪玉菌も日和見菌も人間が作った概念で、細菌たちにとっては全く関係が無いといえます。

プロバイオティクスの定義とは、

人体の微生物のバランスが乱れると病気になるという概念から、その微生物バランスを整えるために、人体に有益な影響を与える『善玉菌』と摂取することで、病気の治療や病気の発生を未然に抑えることができる

という仮説になっています。


多くの健康専門家や医師たちが菌活・腸活を提唱しています。
しかし、体調不良や疾患、感染症のリスクを高める可能性があるため危険な方法です。


腸内細菌がもたらす効果の一部だけを切り取って見ているだけなので、当然そうなります。
都合の良い面を善玉と決めつけて、一方で悪玉と決めつけているものを除菌する。矛盾していることにお気づきでしょうか。


実は、『腸内細菌を整える』と簡単に言うほど、難しいことはありません。
腸を整えるということは、一部だけでは終わりません。身体の状態全部をみないと分からないことだらけです。
理由は腸内細菌が身体に影響を与えるかどうかは、宿主の健康状態によるものこそがすべてだからです。


腸は栄養吸収の入り口であり、要らないものを排泄する出口の器官です。
そのことを頭に入れておけば、菌を取り入れる、菌を育てるということが、外敵を腸から体内に入れやすくする、要らないゴミを増やすということに気がつくはずです。


腸をデトックス器官だと勘違いしている人も見かけますが、それも違います。
デトックスに重要な器官は肝臓と腎臓です。排泄できるとスッキリする行為がデトックスに見えているだけです。


病気や健康状態がなかなか良くならないのも何かが違うだろうし、全体を見ていないからです。

感染症は世界的にごく身近な病気である

感染症は主に、血液中に細菌や細菌の毒素が循環することによって起こります。
細菌の毒素のことをエンドトキシン(内毒素)やLPS(リポポリサッカライド)といいます。

敗血症の患者は2017年には、世界で年間4,890万人いるとされ、そのうちの実に1,100万人が亡くなっていると推定されています。[1]
その中でも33万から100万例が感染症によるものと推定されています。
菌を外部から取り入れるというのは、単に感染症による敗血症のリスクを高めます。


敗血症で亡くなった患者の30%〜50%において、血中のエンドトキシン濃度が高かったことが示されています。[2]


敗血症性ショックでエンドトキシン活性が高い患者は、集中治療室での死亡率が2倍上昇し、エンドトキシンショックの場合は死亡率が70%以上となりました。
エンドトキシン活性が低い場合は死亡率が50%未満となったことが報告されています。[3]


なお、現在の医学では血液中は無菌ということになっています。


細菌やエンドトキシンは血中に入らなければ問題ないとされていますが、小腸壁に隙間ができるリーキーガット症候群が起こっている場合、その隙間から細菌やエンドトキシンなどの異物が体内に侵入することで、全身を毒素が駆け巡ります。


それを裏付けるように、肝臓、血液、アテローム斑などの多様な組織や臓器などに細菌が棲息し、これらが病気に関与している可能性が示唆されています。[4][5][6][7]


心疾患患者では、健康な人に比べて、血液中に細菌のDNAが10倍循環していることが確認されています。[8]


血液中のエンドトキシン濃度が高いほど、認知機能の低下、アルツハイマー病、パーキンソン病と関連していることが示唆されています。[9][10][11]


また、血液中のエンドトキシンが非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)のバイオマーカーとなることがメタ解析されています。[12]


糖尿病有病者や糖尿病発症者において、エンドトキシンの活性が糖尿病ではない人よりも高いことが確認されています。[13]
これはエンドトキシンがインシュリン抵抗性を引き起こすからです。


また、アルコールで腸内細菌が過剰に増殖することがあります。これによって体内に侵入した細菌が肝臓の炎症と線維化、壊死を促進することが示唆されています。[14]


今では潰瘍性大腸炎やクローン病といった腸疾患をもつ人が年々増加しています。[15]
大腸がんのきっかけとなるのが、腸内細菌によるDNAのメチル化にあることが示唆されています。[16]


エンドトキシンが炎症を誘発し、がんが増大していくことが示唆されています。
この実験ではマウスの腸内を無菌にしたことで、肝臓がんが抑制されました。[17]


マウスの実験では腸内細菌を無菌状態にすることで、長生きすることが報告されています。[18][19]
それはなぜか、エンドトキシンによる炎症が起こらないからです。


抗生物質で腸内細菌が減少すると、血糖値が改善し、インシュリン感受性も改善することが知られています。[20]
これは、腸内細菌が作り出す酪酸などの短鎖脂肪酸が減少し、大腸がランドルサイクルによって脂肪代謝優先からブドウ糖代謝優先にシフトするからです。

ただし、抗生物質は耐性菌を増やしますのでおすすめしません。
以上より、腸内細菌を増やすよりも、減らす方が健康に近づく可能性があります。

乳酸菌・プロバイオティクス・プレバイオティクス・糞便移植について

2018年のフランス国立保健医学研究所およびその他の機関の調査では、プロバイオティクス、プレバイオティクス、シンバイオティクスに関する384のランダム化比較試験の結果をレビューしました。
その結果、98%の試験において有害事象や安全性を報告していないことが分かりました。[21]

2011年のアメリカ医療研究品質機構のレビュー[22]では、

プロバイオティクス介入研究における有害事象の評価と体系的な報告は不十分であり、介入の文書化も不十分である。
RCTにおける利用可能な証拠はリスクの増加を示していない。
しかし、稀な有害事象は評価が困難であり、相当数の論文があるにもかかわらず、現在の文献はプロバイオティクス介入の安全性に関する疑問に自信を持って答えるには十分なものでない。

と結論づけています。
つまり、プロバイオティクスが健康で安全に貢献するのか?
というのは、まだ分からないということです。


乳酸菌、ビフィズス菌が、腸内で亜硝酸塩から一酸化窒素(NO)を大量に生成することが確認されています。[23]
岡山大学の研究で、乳酸菌・ビフィズス菌由来のNOが大量に発生することで、慢性炎症やがんとの因果関係がマウスの実験では証明されています。[24]


炎症性腸疾患(IBD)の患者では、健常者と比べて善玉菌と呼ばれている乳酸桿菌やビフィズス菌が有意に多いことが分かっています。特に炎症が強くなる活動期に顕著に多くなりました。[25]


腸内細菌が食物繊維から作り出す酪酸は、通常は腸の健康に役立つとされています。
しかし大腸がんの患者では、健常者に比べて酪酸濃度が非常に高いことが分かりました。[26]


食道腺がんのおよそ半数の患者において、がん細胞や周辺組織で善玉菌とされている乳酸桿菌が増殖していたのが確認されています。[27]


急性膵炎でプロバイオティクス製剤を処方された患者は、プラセボ群と比べて死亡率が有意に高かったことが報告されています。[28]


アメリカ食品医薬品局(FDA)で免疫不全の患者において糞便移植で死亡したことが報告されおり、糞便移植の危険性について警告しています。[29]


88,658人の日本人男女を対象とした前向き研究の解析では、果物と野菜をたくさん食べても、大腸がん(705例)のリスク低下とは関連しませんでした。[30]


日本の機能性便秘の患者では、食物繊維が多いほど増えやすいアリスティペス菌が健常者よりも有意に多かったことが報告されています。[31]
アリスティペス菌は、インシュリン抵抗性を改善させると注目されている菌です。


2023年にプロバイオティクスの安全性を評価した文献[32]では、

  1. プロバイオティクスが重要な機能を持った細菌に変わる可能性がある

  2. プロバイオティクスが周囲の細菌叢の構造や機能に悪影響を及ぼす可能性がある

  3. 正常な腸のバリアが破られた場合、プロバイオティクスが全身に循環し感染症を引き起こす可能性がある

と指摘しています。
宿主の健康状態が細菌の良し悪しを左右すると考えると、この3つの指摘は納得がいくのではないでしょうか。


宿主の健康状態の目安として、指標となるのが甲状腺機能です。
甲状腺ホルモンT3は、マスターホルモンとも呼ばれ、代謝、体温、成長、組織の分化、記憶、血流、遺伝子の転写、同化などに使われます。


2,700人以上のコホート研究では、甲状腺機能低下症または甲状腺機能亢進症の治療を受けている患者は、うつ病、片頭痛、痛風、2型糖尿病、心疾患、食物アレルギー、便秘、IBDなどの疾患があり、その疾患によく見る腸内細菌叢の特徴をしていました。[33]


甲状腺機能低下症で、小腸内細菌異常増殖症(Small Intestinal Bacterial Overgrowth:SIBO)が発症しやすいことが示唆されています。[34]


胃腸の動きは甲状腺機能に依存しています。便秘は食物繊維不足ではなく、ほとんどの場合は
甲状腺機能低下によるものです。
甲状腺機能を低下させる要因は無数にあります。


続いては最後になりますが、菌活や腸活が危険になる人の特徴を見ていきましょう。

【参考文献】


[1]Global, regional, and national sepsis incidence and mortality, 1990-2017: analysis for the Global Burden of Disease Study
Lancet (London, England). 2020;395(10219):200-11.

[2] Effect of Targeted Polymyxin B Hemoperfusion on 28-Day Mortality in Patients With Septic Shock and Elevated Endotoxin Level
JAMA. 2018 Oct 9; 320(14): 1455–1463.

[3] Elevated Serum PCT in Septic Shock With Endotoxemia Is Associated With a Higher Mortality Rate
Medicine (Baltimore). 2015 Jul; 94(27): e1085.

[4] Bacterial translocation and changes in the intestinal microbiome associated with alcoholic liver disease.
World J Hepatol. 2012 Apr 27; 4(4): 110–118.

[5] Involvement of tissue bacteria in the onset of diabetes in humans: evidence for a concept.
Diabetologia . 2011 Dec;54(12):3055-61.  

[6] Blood Microbiota Dysbiosis Is Associated with the Onset of Cardiovascular Events in a Large General Population: The D.E.S.I.R. Study.
PLoS One. 2013; 8(1): e54461.

[7] The dormant blood microbiome in chronic, inflammatory diseases.
FEMS Microbiol Rev. 2015 Jul; 39(4): 567–591.

[8] Elevated Levels of Circulating DNA in Cardiovascular Disease Patients: Metagenomic Profiling of Microbiome in the Circulation.
PLoS One. 2014; 9(8): e105221.

[9]Relationship Between Plasma Lipopolysaccharides, Gut Microbiota, and Dementia: A Cross-Sectional Study
J Alzheimers Dis . 2022;86(4):1947-1957.

[10]The endotoxin hypothesis of Alzheimer's disease
Mol Neurodegener . 2024 Apr 1;19(1):30.

[11] The Endotoxin Hypothesis of Parkinson's Disease
Mov Disord . 2023 Jul;38(7):1143-1155.

[12] Blood Endotoxin Levels as Biomarker of Nonalcoholic Fatty Liver Disease: A Systematic Review and Meta-analysis
Clin Gastroenterol Hepatol . 2023 Oct;21(11):2746-2758.

[13]Endotoxemia Is Associated With an Increased Risk of Incident Diabetes.
Diabetes Care. 2011 Feb; 34(2): 392–397.

[14]Pathogenesis of Alcoholic Fatty Liver a Narrative Review.
Life (Basel) . 2023 Jul 30;13(8):1662.

[15]厚生労働省 令和2年 患者調査
傷病分類編(傷病別年次推移表)

[16]Non-pathogenic microbiota accelerate age-related CpG Island methylation in colonic mucosa.
Epigenetics . 2023 Dec;18(1):2160568.  

[17] NLRP12 suppresses hepatocellular carcinoma via downregulation of cJun N-terminal kinase activation in the hepatocyte.
eLife. 2019; 8: e40396.

[18]Aging in germ-free mice: life tables and lesions observed at natural death.
J Gerontol . 1966 Jul;21(3):380-7.

[19]Effects of germfree status and food restriction on longevity and growth of mice.
Jikken Dobutsu . 1991 Oct;40(4):517-22.

[20]Antibiotic-induced microbiome depletion alters metabolic homeostasis by affecting gut signaling and colonic metabolism.
Nat Commun. 2018; 9: 2872.

[21]Harms Reporting in Randomized Controlled Trials of Interventions Aimed at Modifying Microbiota: A Systematic Review.
Ann Intern Med . 2018 Aug 21;169(4):240-247.

[22]Safety of probiotics used to reduce risk and prevent or treat disease.
Evid Rep Technol Assess (Full Rep). 2011 Apr; (200): 1–645.

[23]Nitrate Reduction to Nitrite, Nitric Oxide and Ammonia by Gut Bacteria under Physiological Conditions
PLoS One. 2015; 10(3): e0119712.

[24]Chronic inflammation-derived nitric oxide causes conversion of human colonic adenoma cells into adenocarcinoma cells
Exp Cell Res . 2013 Nov 1;319(18):2835-44.

[25] Gut bacteria identified in colorectal cancer patients promote tumourigenesis via butyrate secretion.
Nat Commun . 2021 Sep 28;12(1):5674.  

[26] Increased proportions of Bifidobacterium and the Lactobacillus group and loss of butyrate-producing bacteria in inflammatory bowel disease.
J Clin Microbiol . 2014 Feb;52(2):398-406.

[27] A non-endoscopic device to sample the oesophageal microbiota: a case-control study.
Lancet Gastroenterol Hepatol . 2017 Jan;2(1):32-42.

[28] Probiotic prophylaxis in predicted severe acute pancreatitis: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial.
Lancet . 2008 Feb 23;371(9613):651-659.

[29] FDA In Brief: FDA warns about potential risk of serious infections caused by multi-drug resistant organisms related to the investigational use of Fecal Microbiota for Transplantation.
June 13, 2019  Media Inquiries    Megan McSeveney   240-402-4514

[30] No association between fruit or vegetable consumption and the risk of colorectal cancer in Japan.
Br J Cancer . 2005 May 9;92(9):1782-4.

[31] Mucosa-associated gut microbiome in Japanese patients with functional constipation.
J Clin Biochem Nutr . 2021 Mar;68(2):187-192.

[32]Emerging issues in probiotic safety: 2023 perspectives.
Gut Microbes. 2023; 15(1): 2185034.

[33] Gut microbiota associations with common diseases and prescription medications in a population-based cohort.
Nat Commun (2018) 9(1):1–8.

[34] Link between hypothyroidism and small intestinal bacterial overgrowth.
Indian J Endocrinol Metab (2014) 18(3):307–9.


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