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知っておきたいランドルサイクル:体内エネルギー管理の鍵

私たちの身体には、普遍的なルールが存在します。


そのうちの一つが、フィリップ・ランドルという人物が1963年に発表した『グルコースー脂肪酸サイクル』です。
発表したランドルの名を取って、『ランドルサイクル』とも呼ばれています。


その元になった論文[1](グルコース-脂肪酸サイクル:インスリン感受性と糖尿病の代謝障害におけるその役割)は、2024年8月24日現在、Google Scholarでは6969もの文献に引用されています。

2024年8月24日現在の引用数


今回は、このランドルサイクルについて解説していきます。
専門的で難しい内容を含みますが、とても重要な身体のルールですので、皆さんには知っていただきたいと思います。

ランドルサイクルの要点


ランドルが発見したランドルサイクルの要点は、


血中に遊離した脂肪が多い時、ブドウ糖の代謝が阻害される


または、血中にブドウ糖が多い時、脂肪の代謝が阻害される

ランドルサイクルの要点

ということです。


あたかもブドウ糖と脂肪がシーソーや天秤のように、どちらか片方だけしかエネルギー源として代謝できないようになります。


ランドルサイクルが発表された1960年代は、糖尿病は糖質の代謝に異常が起こっていると考えられていました。
(なぜか未だにこの考えは根強く残っています)


しかしランドルは、心臓の実験でインスリンやグルカゴンというホルモンが無くても、一方の栄養素が、もう一方の栄養素の代謝を阻害することを発見しました。


ランドルサイクルを更に詳しく

更に詳しく解説していくと、身体の中でブドウ糖が代謝される時、ピルビン酸がミトコンドリアのTCA回路に入って酸化されるのが必須条件となります。


しかし、ランドルサイクルによってブドウ糖よりも脂肪の代謝が優先されると、ピルビン酸の酸化がブロックされてしまいます。

理由は脂肪をエネルギーにするとブドウ糖をエネルギーにするよりも、アセチルCoAという酵素が増加します。
アセチルCoAはピルビン酸脱水素酵素キナーゼ(PDK)を活性化し、ピルビン酸を酸化する必須の酵素であるピルビン酸脱水素酵素(PDH)のはたらきをブロックしてしまうからです。


PDHによく似てPDHを活性化させるジクロロ酢酸をラットに投与した実験では、ブドウ糖の代謝が回復したことが確認されています。[2]


またPDKの活性や発現をブロックすることが、糖尿病、心不全、がんなどの代謝性疾患の治療に有効であることが示唆されています。[3]

そして、ピルビン酸の酸化がブロックされると、更に三つの弊害があります。

ピルビン酸の酸化がブロックされるとどうなる?

ピルビン酸の酸化がブロックされる弊害の一つめが乳酸の蓄積です。


ピルビン酸がうまくミトコンドリアに渡せなくなると、ピルビン酸は乳酸へと変換されます。
細胞内に乳酸が蓄積すると、濃度勾配に従って細胞外に乳酸が水素イオンと共に排出されていきます。


この状態になると、細胞内がアルカリ性へと傾きます。これを細胞内還元状態といいます。

細胞内還元状態になると、細胞が様々なSOS信号を出し、病気の場が出来上がっていきます。
詳しくは有料記事ですが、この記事の中でも細胞内還元状態について解説しています。

がん患者では乳酸が蓄積しているのが知られています。(ワールブルグ効果)


二つめがオキサロ酢酸の欠乏です。
オキサロ酢酸はピルビン酸がミトコンドリアに入る時にアセチルCoAと反応してTCA回路というエネルギー生成回路の基質となる物質です。

オキサロ酢酸はピルビン酸から作られますが、糖尿病や飢餓状態、PDHのブロックによってピルビン酸が不足してしまうと、オキサロ酢酸も欠乏し、ケト血症(ケトーシス)を招きます。


糖尿病患者では糖尿病ケトアシドーシスが起こることがありますが、このようにオキサロ酢酸が欠乏する影響です。


三つめがホスホフルクトキナーゼ(PFK)のブロックです。
PFKは解糖系細胞における反応速度を調節する酵素です。グルコース-6-リン酸(G-6-P)をピルビン酸に代謝する酵素でもあり、解糖系におけるエネルギー代謝を担っています。


ランドルサイクルによって脂肪のエネルギー代謝が優先されると、ミトコンドリアでクエン酸が蓄積していきます。
ミトコンドリアでクエン酸が蓄積すると、PFKがブロックされて、解糖系からミトコンドリアへG-6-Pを渡せなくなっていきます。
その結果、G-6-Pが蓄積することで、ブドウ糖を代謝しにくくなります。[4]

血中に遊離した脂肪が多くなるのはどんな時?

最初の要点に戻って、


『血中に遊離した脂肪が多い時、ブドウ糖の代謝が阻害される』


ということでした。
血中に遊離した脂肪のことを遊離脂肪酸といいます。
遊離脂肪酸が多くなる条件は、飢餓や空腹時、脂肪をたくさん食べた時や、運動中にも見られます。

飢餓や空腹時では低血糖を防止するため、身体に蓄えられた脂肪を切り崩します。
そのため血中に遊離脂肪酸が多くなります。


脂肪をたくさん食べた時も遊離脂肪酸が多くなります。


運動中にはエネルギーであるATPが消費されてAMPが増加していくと、AMPキナーゼが活性化します。
そうすると、脂肪のエネルギー代謝に切り替えられやすくなります。
そのため、予備のエネルギー源として身体に蓄えられた脂肪を切り崩すことで遊離脂肪酸が多くなります。


現代型の食生活は脂肪が多い料理ばかりです。

僕が上限としている一日の脂肪摂取量を食べ物の量でたとえると、

  • アボカド2個分

  • ドーナツ5個分

  • K社フライドチキン4個分

  • C社ポテトチップス1.6袋分

  • C社チキンカツカレー1食分

  • M社ダブルチーズバーガー2個分

  • 直径20センチのピザ1.2枚分

  • とんかつ1.2枚分

  • 中くらいの鶏の唐揚げ6個分

です。
意外に少ないと思われるかも知れませんが、これほどまでに脂肪は身近にあって、摂りすぎてしまうことが多いということです。


僕の基準は三大栄養素の摂取比率でいえば、脂質の割合が30%を超えると危険と判断します。


やせ型の人は低血糖ストレスに注意しましょう。僕はやせ型なので、お腹が空いたりストレスを感じた時は、こまめに糖を補給しています。

まとめ

ランドルサイクルは、僕の健康理論では中核的な存在です。
僕は理解出来てから、多くの身体の現象が分かるようになってきました。


ランドルサイクルを理解すると、糖尿病をはじめとするたくさんの病気の要因が明らかになってきます。


たとえば2型糖尿病では、血糖値の上昇とともに、遊離脂肪酸濃度も上昇していることがポジトロン断層撮影法(PET)によって確認されています。[5]


また、多くのダイエット情報が本当に正しいのかどうかも分かってきます。
たとえば、糖質を制限して脂肪を燃焼させるダイエットは危険だということが分かってくるでしょう。


数年前に、某経済専門家が糖質を抜いて筋トレをするという過酷なダイエットに挑戦した結果、末期の膵臓がんになってしまったのも、この身体のルールを無視した結果と思われます。


ランドルサイクルを理解すると、糖尿病の主だった要因は、60年前に解明されていたことになります。
そんな重要な身体のルールにもかかわらず、健康情報としてほとんど目にすることがありません。


多くの場合は、現代型食生活特有の脂肪過多の食事にあります。
それを見直すことが健康の秘訣です。

【参考文献】

[1]The glucose-fatty acid cycle: its role in insulin sensitivity and the metabolic disturbances of diabetes mellitus.
Lancet . 1963 Apr 13;1(7285):785-9.

[2]Increasing pyruvate dehydrogenase flux as a treatment for diabetic cardiomyopathy: a combined 13C hyperpolarized magnetic resonance and echocardiography study.
Diabetes. 2015;64:2735–2743.

[3] Pyruvate dehydrogenase kinases (PDKs): an overview toward clinical applications.
Biosci Rep. 2021 Apr 30; 41(4): BSR20204402.

[4] Citrate as an intermediary in the inhibition of phosphofructokinase in rat heart muscle by fatty acids, ketone bodies, pyruvate, diabetes, and starvation. Nature 200: 169–170, 1963.

[5]Potentiation of abnormalities in myocardial metabolism with the development of diabetes in women with obesity and insulin resistance.
J Nucl Cardiol. 2011;18:421–429.

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