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私の嚥下障害体験
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誤嚥ケアについて発信する立場から、私の嚥下障害の体験談を話そうと思う。
嚥下障害になった理由
数年前、もう言語聴覚士として10年以上働いていた頃、私は嚥下障害になった。
ある年の冬。私はバセドウ病の悪化から甲状腺の全摘術を受けた。その術後、全身麻酔から目を覚ましとき「あ、まずい。」と思った。唾液が飲めないと気がついたのだ。喉がゴックンと言わないのだ。湧き出る唾液を飲めず、ティッシュで拭っていると、あっという間に1箱を使い果たした。
人間はこんなにも唾液が出るのかと、知っていたことを体感して改めて恐怖に感じた。
追い討ちをかけるように「服薬確認です。」と看護師さんが水を持ってきた。「飲めません」と訴えても理解をしてもらえない。「ご飯の時間ですよ。」と、術後食の重湯が置かれた。まさにサラサラで確実にむせる食事だった。試しに1口啜ってみた。案の定、激しく誤嚥した。
咳をするための神経を損傷していたため、咳ができず、声も満足に出せない。むせることもできず、ただただ苦しいだけだった。
「これは、本当に危険…。」
かすれる声で看護師さんに「とろみ剤をください」と訴えた。しかし「うちにはないんです。」との返事だった。「水溶き片栗粉でもいいです。」と伝えるが「外部の調理なんで無理ですね。」と言われた。
オペ後から何も口にできず、脱水一歩手前。看護師さんからは「食べてくださいね」と促されるが、嚥下反射が出ないから食べられない。けれどその意味が伝わらない。
とろみ剤は当たり前じゃない
1月で外は大雪。運悪く家族がインフルエンザに罹患したことで見舞いも不可になり、県外の病院のため友人の手も借りることができなかった。「とろみ剤を持ってきてほしい」この声を届けることができなかった。
外出の許可をとり、病院着の上にコートを羽織り、雪の降る中病院の隣にあるコンビニへ向かった。ヨーグルトやゼリーなど、今の嚥下状態で食べられるものを購入しベッドへ戻った。
恐る恐るゼリーを口に入れた。
「ああ、美味しい。生きてる…。」
それから入院中も自主訓練を行なって、自分の喉の状態に合わせて食べ物を選んでいった。退院後も自主訓練に励んだ結果、予定より2週間ほど遅れながらも、普通食が食べられるようになり、声もなんとか戻ったため、無事に仕事復帰を果たした。
現在は後遺症もない。
私にとっての当たり前、社会にとっての当たり前
「飲み物にとろみを付ける」
こんな、私にとってはあまりに身近な”とろみ剤”が、まだ全国の病院にとって当たり前ではないことを目の当たりにした経験だった。
あの日、同じ病院で同じオペを受けた患者が8名いた。そのうち嚥下障害になったのは私1人だった。たまたま私だったから誤嚥性肺炎を回避できたけれど、そうでなければどうだったんだろう?と思う。
言語聴覚士である私が嚥下障害を体験したからこそ、すべきことがあると感じている。
誤嚥ケアを社会の当たり前に。
この体験から、専門職にとっての当たり前を広めるため誤嚥ケアの10個の基本をまとめた「誤嚥ケア検定」を作成した。
この記事の第1章「とろみ剤を一歩進めよう」の記事は無料で公開している。その理由は至ってシンプルだ。
誤嚥ケアを社会の当たり前にするため。
ぜひ大切な方とのだんらんの時間を過ごすためにも、読んでもらえたらと思う。