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お雛様のディープな工房探訪記・その3「背景をつくる人」
お雛様のディープな工房探検記その3。
今回は、「表具師(ひょうぐし)」の北村松月堂さんです。
京都府指定の〈京の名工〉、厚生労働省指定の〈現代の名工〉に認定されている、節句飾り専門の屏風をつくる名工です。
※お雛様だけではなく、五月人形に使われる屏風も製作しています。
工房探訪
節句飾りをあつかう人形屋にとって、毎年6月は京都出張の時期。雛人形、五月人形、御所人形など、京都でつくられている逸品を仕入れに、多くの(そんなに多くはないが)会社の代表者が京都を訪れる。私も、人形屋を継いでから十数年、毎年この時期に京都に行く。
北村松月堂さんの工房は、京都御所のほど近く。碁盤の目のように区切られた区域の中に自宅兼工房がある。
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表具師は、屏風と掛軸をつくる職人。
お雛様の背景に飾られる屏風。これが今、大ピンチに陥っている。屏風というのは本来「表具師」の仕事であり、上の写真のように内部には骨を組み、表に和紙を貼り重ね、周囲には枠を留めて製作される。
北村さんの工房では節句用屏風に特化しているが、表具師は屏風と掛軸という、かつての室内調度品を手掛ける人たちのことをさす。かなり前から、ベニヤ板の表面に紙を貼り、金具で留めた簡易的な屏風が増えた。最近ではMDFという新素材の板に紙をくるむという、さらに簡易的なつくりのものが登場した。どれも決して悪いものではない。だが、耐久性、美術性では表具師の仕事には遠く及ばない。
話がそれた。ゴメンナサイ。
ともあれ、もっとも良質な屏風には、内部に100年ほど前の古紙を張る。内側と外側の空気を呼吸させることで紙の耐久性を良くし、張り替えも可能にする作りだ。さらに、折り目となる箇所には「紙蝶番(かみちょうつがい)」という技法で、互い違いに紙を組む。こうすることで、ねじれに強く耐久性が増す。さらに仕立て次第ではリバーシブル仕様にすることも可能になるという、古来からの製造方法だ。
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表具師は、糊の達人
作業風景を見せていただくことが叶う。
米でつくられた古来からの糊を数種類つかい、薄い糊、濃い糊を使い分ける。ハケをつかってテンポよく、「トントントン」と糊を引く。紙の上には産毛一本も乗ってはいけない。窓からの光のもと、丁寧にホコリを取り除き、作業はすべて一発で終わらせる。
屏風の紙は「貼る」のではなく「張る」のだという。
水分を含ませることでわずかに緩みを帯びた和紙を重ねる。そうすることで乾いた時に張力が発生し、美しいハリを見せてくれる。ともすればシワになりかねない作業だが、北村さんの屏風にはそれがなく、丁寧で、真摯な美しさを見せてくれる。
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屏風のふちにつける枠。少し前までは写真のように包丁で切っていたそうだ。さすがに手間がかかるので機械に変えたというが、それでもまだまだ腕は健在、包丁も健在だ。今はこの枠を使わない屏風も増えている。だが、枠があることで耐久性が上がるのはいうまでもない。
科学的に理にかなった製造法は、古典技術の中にこそある。
撮影は初めてだった
これまで多くの仕事を手掛けてきた北村松月堂さん。てっきりお仕事紹介の取材はお手のものと思いきや、動画撮影したのは私が初めてだったそう。五代目となる北村武春(ぶしゅん)さんは書道も勉強されており、いつも姿勢正しく、やわらかく私を迎えて下さいます。
共通趣味の釣りの話でいつも盛り上がり、妻の困り顔で話は終わりです。
▢北村松月堂・製造風景(大西人形YouTube)
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大西人形では、「表に見えているものが全てではない」という信念のもと、名の知られない職人たちの取材も行っています。
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