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『Joker: Folie à Deux』・Contents Diving(2)

『Joker: Folie à Deux』を鑑賞。

この世界は、ただの舞台

公式HPより

今回の作品には前作のストーリーの一部が何箇所も引用されています。
前作を観ていない方は、前作を観てからの鑑賞が良いでしょう。
※ネタバレにならないレベルで振り返りますので、見どころの予習にしてください。


まず、注目したいのは、映画全編を通じて、ずっと揺蕩う感情の波。

不安定で見通しづらい現代社会に生きる私たち、その私たちの影の感情部分をスクリーンに投影するかのような時間が流れていきます。

普段、我慢出来ないほどではないけど何か息苦しい。たまに良いこともあるけど、それは一瞬心に灯火を宿すに過ぎず、小さな火が消えるとまた霞のような闇が目の前に立ち込める。
そんな私たちが映画館の椅子で観るのは、ジョーカー/アーサーを演じるホアキン・フェニックスの心理表現の幅広さです。
長引く社会不安の濁りの中、人々の硬く固まってしまったかのような孤独、期待と諦めに揺れる大衆心理の壊れやすさ、これらをストーリーの中で牽引していきます。

これをかなり強めのコントラストをもって照らすのは、レディー・ガガ演じるリーです。本作でガガ様が歌います。
悲しいのか、幸せなのか、自信に満ちているのか、畏れているのか。時に密かに囁くように歌い、またある瞬間はいっぱいの声量を響かせる。歌は人を魅了し、安心させ、鼓舞する。哀しさを揉み解し、寂しさを追認する。歌い始めには、何か感情的なきっかけが必要で、歌の後の静けさには、置き場所のない荷物のような重さが残る。


前作同様に楽しめるのは、アート鑑賞の対象としての美しさや格好良さです。
ジョーカーのメイク、メイクの下の表情はもちろんのこと、雨降る中の傘の色、社会階級を誇示するかのような服装の差異、汚れの中の現代芸術作品のような奇妙な魅力。絵画や写真作品のように、切り取れる場面が多数登場します。ぜひ、異彩を放つジョーカーやリーの姿を目に焼き付けましょう。

最後に残しておきたいのは、哲学的な観点。キーワードで言うと「自由」、「正常」、「二面性」、「大衆」あたりです。
改善懲悪の物語ではないので、自分なりの社会感をもって鑑賞すると、一場面一場面が、より解像度高く見えてくるような気がします。

▼公式レビュー予告動画 YouTube



鑑賞し終わって、映画館の廊下を抜けて外に出て、街を歩きはじめるとき、自分の中の何かを脱いだような気持ちになる作品です。

※評判にあるとおり、好き嫌いがだいぶ分かれる作品だと思います。私は単調なアクションより、こういうのを好むので悪くなかったです。

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