『私はみだらな女』(1984年/月曜ワイド劇場) <2時間サスペンス感想>

華道家元スキャンダル事件 女性記者が見た秘密(サブタイトル)
監督 貞永方久
原案 勝目梓
脚本 吉田剛
出演 酒井和歌子、近藤正臣、鰐淵晴子、磯部勉


 結婚生活と仕事の両立に悩む新聞記者の昌子はバーで出会った男と一夜を共にし、お互いの素性を明かさぬまま関係を重ねていく。
 そんななか、華道、花仙院流の一等師範が自殺する事件が発生。取材を担当する昌子は男と花仙院流との間に秘密が隠されていることを知る。

 エロい。タイトルがタイトルだけに予想はしていたが、予想以上であった。
 とはいえ、本作のエロさは女性の裸がたくさん出てくるとか、そういうものではない。ベッドシーンを演じる酒井和歌子は脱がないし(吹き替えヌードはあり)、女性の裸が出てくるのも3シーンほど。それでも本作がエロいのは、ベッドシーンの濃厚さと劇中で描かれるスキャンダルにインパクトがあるから。
 特に前者は酒井、近藤正臣両名の熱演と視聴者の想像力をかき立てる演出が見事に一体化。このかき立てられた想像力こそが本作のエロイメージを形作っているのだろう。

 そんな本作だが、単にエロいだけの作品ではない。テーマはなんと「自立」、「自由」、「愛」だ。
 昭和の男社会でもがく酒井と女性上位の特殊な家で奴隷のような扱いを受ける近藤。そんなふたりが出会い、抑圧からの脱却を図る。酒井は仕事の成功、近藤は家からの解放。
 しかし、同じ方向を向いていたはずのふたりの価値観に齟齬が生じたとき、酒井はあまりに切なく悲しい決断を下す。打算の上に成り立つ「愛」はなく、「自立」と「自由」もまた然り。ラストの酒井、近藤の表情はそんな作品の結論を物語っているようだ。

 ベッドシーンもそうだが、監督である貞永方久の演出はかなり凝ったものとなっており、酒井が近藤の秘密を目撃してしまうシーンのカットバックやセットを廃した回想シーンは印象的。
 制約の多いテレビドラマの枠内で、これだけのことをやっているのは驚かされるが、「昔は良かった」とは言いたくない。本作がそれだけ表現に対して真摯で挑戦的だということだろう。



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