移動ド読み前夜

今回は移調楽器と移動ド読みの意外な関係について書こうと思う。

器楽と声楽の譜読みで書いたように、管楽器には「ド」の指遣いで吹いても、いわゆるピアノの「ド」の音が出ないものがそこそこある。こういう楽器を「移調楽器」という。B♭管などと呼ぶのだが、この楽器で「ド」の指遣いで吹くと、ピアノでいう「シ♭」の音が出る。

移調楽器の中でもパート譜がト音記号の楽器は、その楽器で「ド」の指遣いで吹くべき音が、楽譜上でも「ド」の記譜になっている。この場合、B♭管の楽譜なら楽譜の左上あたりに「1st Trumpet in B♭」などと書いてある。

余談だが、inが英語なので音名も英語でB♭になるのだが、だいたいの日本人は「フラット」というのが面倒くさくて「いんべー」と読んでいるのではなかろうか。E♭管なら「いんえす」である。

吹奏楽で合奏する場合は当然パート譜を読んで吹くので、楽譜のまま吹けばよい。ところが、時々、ピアノ伴奏譜を持ってきて「ここ、ラッパで吹いてくんない?」と言われることがある。この場合、B♭管の楽器でそのまま吹いてしまうと当然音が合わない。どうするかというと、楽譜に書いてある音よりもひとつ高い音の指遣いで吹く。

最初にこれをやらされたのは小学生の時だ。多分、元はイ長調(シャープ3個)の合唱譜だったと思う。楽器によってずらす量が違うから、先生が一人ずつ前に呼んで、私の場合はB♭管だったので、先生は楽譜にさらっとシャープを2個書き足して、「ここの段を全部ひとつ上げて吹きなさい」と言われた。

サラッと言われたが、元がシャープ3個なので、2個増やしたらシャープ5個である。小学生にコレはキツイ。楽譜は別に起こさなかったと記憶しているが、楽器はなくても指遣いの練習はできるので、家で寝るまですげー練習した覚えがある。

ワケがわからないうちは楽譜を書き直した方がいい。つまり、全部実音で書かれたスコアから、パート譜を起こす作業と同じである。

しかし、そのうち面倒になって、元々の音符のすぐ上に赤い小さな点を書くことで済ませるようになった。ラの音符ならシの位置に点を打つわけだ。シャープを2個増やした上でこの赤点を音符だと思って吹けば目的が達成されるわけである。

ちなみに、E♭管の場合は1段下になる。ラの音符ならファの位置に打てばいい。

さらに面倒になってくると点すら打たなくなる。人間の順応性というのは恐ろしいもので、何度もやっているとなんの問題もなくできるようになる。

もう勘のいい人はお気づきだと思うが、これは例えば変ロ長調の楽譜を階名唱で読むのと対応している。そりゃそうである。B♭管なのだから、変ロ長調の音階を吹いたら指遣いがドレミファソラシドになるのも当然である。E♭管の場合は変ホ長調の楽譜を階名唱しているのと同じである。

私が移動ドにすんなり馴染め、スラスラ読めるようになったのはこの経験が大きいと思っている。逆に、C管の人たちはこういう経験はほぼないと思うので、違和感が大きいのではないか。

この芸当はB♭管やE♭管は音符と読み替え後の位置が近いのでやりやすい。F管では少し離れた位置になるが、F管の人がどういう感覚で読み替えてるかまではわからない。逆にいうと、よく使うヘ長調やト長調の楽譜は少し苦労がいることになるが、これもそのうち私の感覚を書こうと思っている。



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