ピタゴラス音律の半音
実は半音は1種類ではない。何種類あるかは記事を読んでのお楽しみ。
まず、音程だけを考えても、つまり、なんとか律を抜きにしても、半音は二種類ある。
ひとつは全音階的半音というもので、全音階の中に出てくる半音である。つまり、ミ-ファ間と、ラ-シ間の半音である。
もう一方は半音階的半音で、全音階では表現できない半音、例えば長3度と短3度の差、ド-ミ間とラ-ド間の差などである。
全音階的半音は全音階の隣り合った音の半音なので短2度である。ということは、必ず幹音名が変わる。Gに対してAsは全音階的半音である。
一方、長3度と短3度は同じ3度どうしだから、差は1度である。つまり、半音階的半音は増1度で、幹音名が変わらない。Gに対してGisが半音階的半音である。
全音階的半音と半音階的半音を足した結果はもちろん全音になるが、これは増1度と短2度の和なので長2度になる。増1度どうしの和は重増1度、短2度どうしの和は減3度で、どちらも全音ではあるが普通は使わない。足し算するときは全音階的半音と半音階的半音を組み合わせるのが普通である。
短2度と増1度は異名同音じゃないか、と思うかもしれないが、ピタゴラス音律では越えられない壁にGisとAsという変化音が出てきて、実際に計算してみると、確かに同じ音程にならないのであった。だから、特別な場合を除いてこのふたつは区別して扱う必要がある。
これを踏まえてピタゴラス音律の半音をみてみる。鍵盤12個に収めるために、Gis/Asのせめぎ合いはAsを捨てることにしよう。すると、Es/Gis間に越えられない壁ができる。五度圏は
| Es B F C G D A E H Fis Cis Gis |
になる。左右の縦棒は「越えてはいけない壁」のつもりで書いてみた。この五度はすべて純正完全5度(3/2倍)である。
半音を探してみると、Cから右回りに5個回ったところにHがある。これは短2度下で、逆回りすれば短2度上になるから、全音的半音は左回りに5個である。周波数比は左回りだとひとつ2/3倍だから、2/3を5回かけて、3オクターブ上げて、256/243である。
そしてさらに2個先にCisがある。これは増1度だから、半音的半音は右回りに7個である。周波数比は3/2を7回かけて、4オクターブ下げて2187/2048である。
そしてこのふたつをかけると、あら不思議、9/8の大全音になる。
今は壁を越えないことを前提にしていた。もし、壁を越えてしまったらどうなるのか。巨人に食わ(ry
例えば、Cから左回りに5個回ると壁を越えた上で全音階的半音、つまり短2度上がることになる。実際に行き先を見てみると「Cis」と書いてあり、これは増1度、半音階的半音である。
逆に、Hから右回りに7個進むと、壁を越えた上で半音階的半音、つまり増2度上がるが、行き先にはCと書いてあり、これは短2度、全音階的半音である。
実は、これらの半音は反対回りすれば壁を越えずにたどり着ける。五度圏は円になっているので、右回り7回と左回り5回は同じ位置に着くからだ。だから全音階的と半音階的が入れ替わるのだが、この壁にはそういう変換機能があるらしい。
Cから左回りすると、壁を越えるまでは1回ごとに5度ずつ下がっていく。壁を越えるところはどうなっているかというと、EsからGisになっている。これは下行方向に数えるとミレドシラソだから6度、つまり減6度下である。
壁にトンネルがあって、壁の手前にはAsと書いてあり、向こうにはGisと書いてあると思えばいいだろう。これは減2度下である。つまり、左回り5回でC→Desになるはずのものが、このトンネルをくぐったことで減2度下になり、Cisになったわけだ。これで辻褄が合う。
右回りで壁を越えた場合は減2度上がることになり、Hから7個右に回ってHis、トンネルをくぐったことで減2度上がってCになるわけだ。
この減2度、完全1度と同じで音程差なし(周波数比1倍)に見えるが、やはり名前が違うのだから周波数比も違う。つまり1倍ではなく、実はすでに一度計算している。名前も付いていてピタゴラスコンマという。コンマは元々はギリシャ語で「切れ端」のような意味らしい。
2度というのは2度と1度の差でもある。つまり、減2度は短2度と増1度の差ということもでき、全音階的半音と半音階的半音の差でもある。気になる人は実際にこの周波数比も含めて計算してみるといいだろう。
ピタゴラス音律の半音はこれで全部である。