移動ドが気持ち悪い人へ: 時差に例えてみる
世の中、移動ドが気持ち悪いという人がいる。同じドなのに音程が変わるというのが馴染めないらしい。しかし、中には同じ数え方でも違う状態を表すものがある。その一例が時刻である。
今、あなたが朝7時に朝ご飯、昼12時に昼ご飯、夜6時、24時制だと18時に夕ご飯を食べているとしよう。朝ご飯がドで主音、昼ご飯がファで下属音、夕ご飯がシで導音みたいな感じだ。お昼時には太陽がほぼ真南にくる。
日本には夏時間はないが、もし、夏時間があったとしたら、夏時間に入った時に時計を1時間進めることになる。普通、夏時間は社会全体で実施するので、以後はこの時計に合わせて生活することになる。
夏時間に合わせた時計で7時に主音の朝ご飯、12時に下属音の昼ご飯、18時に導音の夕ご飯である。しかし、太陽が真南にくるのは午後1時(13時)頃である。この状態で12時をファと言っていいのだろうか? 朝ご飯時も昨日よりもなんか外が暗い。なんだか調子が狂う。
これは半音下に転調した、つまりハ長調からロ長調に転調した状態に対応していて、時間を進めた時計で生活しているのは移動ドに相当する。固定ドに相当するのは社会全体が夏時間になっても時計を進めず、その時計で朝ご飯を6時に食べる状態だ。あなたはどっちを選ぶだろうか?
固定方式だと朝6時だから暗いのは当たり前、太陽は12時頃に真南に来る。時計を進めると朝ご飯時は7時なのに薄暗く、太陽は12時になっても真南に来ない。でも、多分生活しているうちに慣れるだろう。
さて、夏時間は一旦元に戻して、あなたにイギリスに住んでいる友達がいたとする。明日、お友達に電話をしたい。電話は時間が違っていたら話せないから、メールで事前に時間を申し合わせておくことにしよう。イギリスと日本は9時間の時差がある。夕ご飯時に電話をすると、イギリスに住んでいる友達は午前9時、さしずめ上主音のレというところである。
あなたはメールに何時と書くだろうか? イギリス時間の9時、あるいは日本時間の18時、と書くだろう。これは同じ時刻を2通りの方法で、しかも同じ「時」という単位を使って書いている。
さらに言えば、国際標準時というか協定世界時(UTC)はイギリスとの時差がゼロで、日本との時差が9時間である。固定ドに対応させるならイギリス時間を使う方が対応するだろう。そして日本にいる限りはイギリス時間で生活する人はいない。これは吹奏楽で「ド」の音を吹いてもピアノの「ド」(実音C)が出ない楽器(移調楽器)に対応すると言えるだろう。
ここにさらにアメリカ人の友達が加わってネット会議しようという話になるともっとややこしくなる。この場合はUTCで話をして、各々が自分の国の時間にした方が楽である。吹奏楽部で「ドの音」と言わず、実音で「Cの音」と言うのと同じである。
最後に、イギリスに実際に旅行した場合はどうなるか。
時計をイギリス時刻に合わせ、そして時差ボケになるだろう。時差ボケはしばらく生活していれば慣れるものである。移動ドもしばらく使っていれば慣れると思うのだが、どうだろうか。