はじめての調号
これで調号なしの楽譜はスラスラ読めるようになったはずである(たぶん…なったことにしよう)。
続いて、調号のある楽譜に挑戦しよう。
♯・♭・♮といった記号はまとめて「変化記号」と呼ばれる。そのうち、音符のすぐ前につくやつを「臨時記号」といい、これは前回説明したとおりである。それに対し、ヘ音記号やト音記号(音部記号)のすぐ右に羽虫のように群れになってるやつを「調号」という。
羽虫のようなやつ、と書いたが、実際には数と並べ方が決まっている。虫玉のように縦横無尽に飛び回ったりはしない。
シャープとフラットが混ざって書かれることはない(蝶は昼、蛾は夜だけに群れる、みたいな?<絶対違う)
ドレミファソラシドは七つの音から成るので、普通は1個から7個の間になる
シャープはF C G D A E Hの順、フラットはH E A D G C Fの順に付き、(まともな楽譜なら)楽譜上も必ずこの順で書かれる
調号が付いている音はオクターブにかかわらず、常に半音上下させる(これを変更したければ臨時記号を使う)
移動ドの場合、調号が付くとドに対応する実音が移動する
調号は一般的には「なし」「シャープが1〜7個」「フラットが1〜7個」のどれかなので全部で15種類ある。それぞれに長調と短調があるので、調は全部で30ある。そのうち、調号なし、つまりハ長調は読めるようになったので、残り29調だ。
長調と短調の読み分けだが、ふたつ流儀がある。ひとつは長調・短調とも長調の主音をドと読む方法で、自然短音階はLa Ti Do Re Mi Fa So Laとなる。この方法は長調と短調で音符の位置とドレミの読み方が一致し、変化音の読み方が少なくなる特徴がある。
もうひとつは短調は短調の主音をドとする読み方で、自然短音階はDo Re Me Fa So Le Te Doになる。この方法は主音・属音といった各音の役割が分かりやすく、和音解析でも混乱が少ない特徴がある。
佐藤先生のおすすめは後者の方法であるが、この方法はまず長調か短調か分からないと読み方が決まらないため、この駄文では前者の方法で説明を進める。そうすると短調のことを考えなくてよくなるので、読めなければならない調は15個で、そのうちひとつが読めるようになったので残り14個である。さて、14個のうちどの調から始めるのが簡単だろうか…
それはしばらく考えてもらうこととして、実際の楽曲で主音が同じ長調と短調を行き来するというのは頻繁に見られる。そういう楽曲に出会った時、具体的には長調の曲で特定の部分だけフラットが3個増えて短調になった場合は、DoをLaに読み替えるのではなく、そのままの読み方で突き進んだ方が楽な場合が多いので、後者の読み方も慣れておくとよい。
また、逆に短調をLa Ti Do〜で読んでいて、シャープが3個増えて長調になった時も、La Ti Di Re Mi Fi Si Laと読めると何かと便利である(佐藤先生には怒られそう…)。
調号が付くと主音が移動するので、移動ドの場合はドが移動する。なんか難しそうだが、実は調号なし(ハ長調・イ短調)が読めればすぐに読めるようになる調がふたつある。
先ほどの答えになるわけだが、それは調号7個の調である。調号が目いっぱい付いた調が実は一番簡単である。シャープ7個は嬰ハ長調(Cis dur、短調は嬰イ短調・ais moll)、フラット7個は変ハ長調(Ces dur、短調はas moll)である。
ドレミは構成音が7個しかないのだから、調号が7個付いているということは全部の音が半音上がるか、全部の音が半音下がるかなので、ドレミが丸ごと半音上下して、Cis durかCes durになる。
どうやって読むかというと、臨時記号が出て来ない限り、調号のことは忘れてハ長調だと思ってそのまま読めばよい。Cis durならばドに対する実音はCis、Ces durならCesに移動するが、音符の位置は移動してないので、そのまま読んでいい。
HisがCと異名同音だからといってCにナチュラルを付けた形で記譜しないのは、Do Ti Do Ti〜 という音型の場合にCis C Cis Cと書かなければいけなくなってナチュラルとシャープが無駄に炸裂してしまうからというのもある。しかし、根本的な理由はそのまま読めなくなってしまうからだ。だから、素直にそのまま読んでしまうのが正しい。
ただし、実際に鳴らす音はCis Dis Eis Fis Gis Ais Hisだったり、Ces Des Es Fes Ges As Bだったりするので、何かの楽器で一度さらっと実音で音階を鳴らしてから、調号のことを忘れて移動ドで読めばよい。歌うのも難なくできるだろう。
ちなみに、この譜面を「ドレミファソラシ」と読んでる人は固定ドとはちょっと認められない。ちゃんとDi Ri Ma Fi Si Li Toなどと読むべきである。むしろ、なんの違和感もなくドレミで読めているのなら、それはもう移動ド読みへの一歩(いや、半音だから半歩か?)を踏み出してると言っていい。なんなら、半音ずつ上げて他の調でも移動ド読みを試してみるべきである。Des durなんて実音は平均律ならCis durと異名同音なのだから。