「不得意」に「面白い」が勝った
私は算数とか、数学とか、あとは理科とか、兎に角理系科目が大の不得意だ。どれくらい不得意かというと、高校2年生の時にあまりにも数学のテストの点が低くて生物担当の担任に「お前は算数からやりなおせ」って言われたり、どうしても避けては通れなかった物理基礎の授業で教科担任や隣の席の友人から最終的には励まされながら計算問題を解いていたくらいには苦手だ。
しかし嫌い、というわけではなくて、小学生の時からNHKでかの細野晴臣氏がナレーションをしている「大科学実験」という番組が大好きだったし、科学館に行くのも、元素図鑑を見るのも、炎色反応の実験も大好き。小川洋子氏の『博士の愛した数式』や冲方丁氏の『天地明察』、王城夕紀氏の『青の数学』等、数学が一つのテーマになっている小説も読んでいる。嫌いだったらそもそも読まないのだ。
なのになぜかできない。理解が追い付かない。「なんでこうなるの?」が永遠に脳内を占拠してしまいダメなのだ。
典型的な例を挙げるならば「マイナスとマイナスを掛けたらプラスになる」という、おそらく中学生が最初に覚えるであろう数の性質。私はしっかり躓いた。意味わからないし。
こういう疑問を頭の良い人や学校の先生は「そういうものだから覚えろ」という。国語の問題で登場人物の気持ちは考えろというのに、だ。なんでこうなるの?の答えが覚えろ、なのも納得いかない。質問の答えになってませんけど。質問の意図とずれているから減点だよこんなの。
というわけで小学校から大学という計16年と社会人の2年、併せて18年も理系科目、とりわけ数学が不得意な人生を歩んできた。19年目になるとそれもなかなか板についてきた。
社会人ももうすぐ3年目だなとぼんやり思いながらYouTubeを観ていた今年の初め頃。ある一つの動画がおすすめされた。
あ、東大の人。もう一人の眼鏡の方知らんけど。という軽い認識と「微分積分って理解できるの??」という好奇心が合わさって動画を再生した。
……わかっちゃたんだよなあああああ!!!これが!!!え、こんなにわかりやすく説明してくれるの何?河村さんって人は初めて見たからわかんないけど伊沢さんってなんかクイズも早押しでわけわからんところで押してめっちゃ正解する人でしょ!?小難しい事ばっか考えてそうなのに!
という失礼極まりない感想とともに、24歳、初めてQuizKnockの存在を知る。この時は丁度、職場で異動してねと言われたり、明らかにこの人から嫌われてるでしょ、みたいな環境で働いていて長時間テレビを観れず10分程度で観れるYouTubeを只管眺めていた。もしかしたら出会うべくして出会ったのかもしれない。
今では毎日暇さえあればQuizKnockの動画を観るQKヘビーリスナーだ。QKメンバーも東大発とは言えど早稲田や東工大などといった大学出身のメンバーが集まっている集団。その中に東大院の数学課程で博士号を取得しているメンバーがいる。鶴崎修功氏だ。
肩書からして私とあまりにも縁がなさすぎる人物の名前を出したのには理由がある。それは彼が書いた本がきっかけである。
鶴崎氏には『カジュアルな算数・数学の話』『文系でも思わずハマる数学沼』という2冊の著書がある。
QKにドはまりした私が、鶴崎氏がでている
こういう動画や
こういう動画を観てやることと言えばただ一つ。本を買う。
根がオタクなのでハマったコンテンツには何かしら還元したいと思ってしまう。それがたとえ不得意分野でも、だ。元々本屋に行く予定があったのでそりゃあ買うよね、という。
つい先日読み終えた。で先述した「マイナスとマイナスを掛けるとプラスになるのは何故か」という疑問も『カジュアルな算数・数学の話』でついでに解決できた。この世にこんなわかりやすい説明をしてくれる人がいるとは。放課後私に数学を付きっきりで教えてくださった高校の教科担任ですら「それは覚えて、お願い」と頼んできたのに。
『カジュアルな算数・数学の話』では、算数や数学で使われるあれやこれやの公式が成り立つ理由だとかを説明しているのだが、その説明の仕方が気に入った。「○○したい気持ちを考える」とか、「これはこういう武器になる」といった文言が出てくるのだ。ド文系の私にこれがヒットするのは必然かもしれない。何故なら確実に答えが決まっているものより、少し遠回りするものの方が得意なのだから。気持ちを考える問題なんて今まで何十回と解いてきた。
『文系でも思わずハマる数学沼』では、世の中の色々なところに数学が使われている、という話が書かれているのだが、それが例えばメガ盛りとギガ盛りとか、ソシャゲのレアキャラが当たる確率だとか、日常生活に即した例で非常に理解しやすい。あと凄く単純な言い回しにはなってしまうのだが本当に面白い。
QKのコンセプトは「楽しいから始まる学び」だ。思えば学生時代の私は算数や数学の時間はそのわからなさや難しさから楽しいとは真逆の感情と共に過ごしていた。まさに「サインコサインいつ使うん?」状態。しかし、QKの動画を観るようになって、記事を読むようになって「面白い」と思うようになった。ついでに「勉強をする」という意欲がここ最近復活してきているまである。この記事の題材になった本がQKの様々なコンテンツとともにその気持ちのきっかけになったのは言うまでもない。自分の中の「不得意」に「面白い」が勝った瞬間である。
最新の鶴崎氏回も面白かったな。