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もしバトル・オブ・ブリテンに零戦が投入されていたら?
ドイツの侵攻作戦のひとつであるイギリス上空の制空権の争い、通称「バトル・オブ・ブリテン」ですが、必ずといっていいほど、「もし、バトル・オブ・ブリテンに零戦が投入されていたら?」という話が出てきます。今回はその説を検証します。
零戦信奉者の方がいつも出てくるので途中から有料記事にします(笑)
◆零戦最強伝説?
まず、バトル・オブ・ブリテンについてのおさらいですが、
バトル・オブ・ブリテン
1940年7月10日から10月31日までイギリス上空とドーバー海峡でドイツ空軍とイギリス空軍の間で戦われた航空戦である。 圧倒的な軍用機の保有数において空戦はドイツ空軍が優位に立った。イギリスは軍民一体となって空軍を支援した。近代的なレーダー網を活用した要撃体制を構築し、イギリス連邦諸国から人的支援、中立国アメリカ合衆国からは経済支援を得ることが出来た。
ドイツ空軍は7月中旬から内陸部の飛行場を狙った空襲を繰り返してイギリス空軍に打撃を与えた。しかし、目標選定の失敗や必要な軍用機の整備不足により、ドイツ空軍も大きな被害を受けた。10月になってイギリス空軍はドイツのイギリス上陸作戦を断念させることに成功した。その意味でバトル・オブ・ブリテンの結果は第二次世界大戦の重大な転機となった。
このバトル・オブ・ブリテンのドイツの敗因に護衛任務のメッサーシュミットBf109Eの航続距離の短さが指摘されています。Bf109は、イギリス上空で数十分しかいる事ができず、爆撃機の護衛ができなかったことから、仮に零戦だったら航続距離が長いので、思う存分護衛ができ、しかも、スピットファイアに対しても太平洋戦線での実際の空戦で圧倒した戦歴があることから、この戦いは違った結果になったのではないかという話です。
Bf109の航続距離はわずか660km。かたや 零戦は増槽ナシでも2,200km、増槽(落下タンク)装備ならなんと3,350kmの長距離を誇ります。
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つまり、当時の代表的な戦闘機の序列では、
零戦>スピットファイアMkⅡ>Bf109Eになり、かくして「零戦最強伝説」が出来上がるわけですね。
私も何度聞かされたことか(笑)。「永遠のゼロ」の小説でも出てくるので、未だに語られている説なのでしょうか。零戦最強信者さん多すぎ・・・。
私も零戦大好きなのですが(特に22型)最強である必要はなく、そのスタイルや運用に関わった人間模様含めて好きなんですよね。
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さて、ダンケルクの戦いで連合国をヨーロッパ本土から追い出し、間もなく4ヶ月間に渡る激闘がイギリス上空で繰り広げられることになります。バトル・オブ・ブリテンの期間中に、イギリス空軍戦闘機隊はドイツ空軍機1,887機(戦闘機・爆撃機合計)を撃墜したとされます。
しかし、イギリス空軍の損害もまた甚大で、この期間中に戦闘機を1,023機を失い527名のパイロットが戦死しました。
損失数でいうとBf109が”1”に対しスピットファイアは”2”だそうですので、必ずしもBf109が劣勢だったという訳ではないようです。
◆”与えられた任務”を達成するのが名戦闘機の条件
この手の話では実績や性能の数値などが最強伝説の根拠になっていますが、飛行機とは操縦するパイロットがあってこそです。また軍用機となると、その運用目的、任務によって成功・不成功が語られないとフェアではありませんね。
例えば、双発戦闘機として開発されたBf110はバトル・オブ・ブリテンでは使い物にならず、使用目的からみても完全に駄作と言われ、消え行く運命にありましたが、夜間防空の任務では双発のパワーから重武装、レーダー搭載もでき、優秀な夜間戦闘機として生まれ変わりました。
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Bf109も、長距離の護衛戦闘機という新しい任務は想定していなかったので結果的に失敗しましたが、本土防空の迎撃任務で大活躍し、戦争の全期間を通じて任務を達成してしまった名戦闘機といえます。
そもそもBf109は、高速重視の薄い翼内にして燃料を積む設計ではありませんでした。爆撃機に随行する航続距離はその時は求められていなかったのです(その後、胴体の倍近い燃料を入れられる落下タンク(増槽)を装備したE-7型が生産されましたが、バトル・オブ・ブリテンには間に合いませんでした)。
かたや、零戦は、初戦の任務を達成し、勝利に貢献した大戦初期の名戦闘機ではありますが、大戦の中期以降の任務は成功したとはいえないと思います。
日本本土防空戦になると航続距離よりも迎撃に向かう上昇力、攻撃力が求められますが、日本機はその任務で合格点が出たかというと大いに疑問です。
◆そもそも零戦は欧州では正式採用されるような飛行機なのか
また、あまり語られていない点として、そもそも
「零戦は欧州では正式採用される飛行機なのか?」という疑問があります。
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