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先輩のお兄さんはカッパに会ったらしい

あれは小学生2年生の夏休み前最後の登校日だったと思う。
 通信表を手渡され、午前中で学校が終わり防災頭巾や鍵盤ハーモニカなどの荷物を手提げに入れて、家に向かっていた。とはいっても、私の実家は、学校から離れた山奥にあったため、6年間ずっとバス通学をしていた。
大きな荷物のせいか、夏の暑さのせいか、バス停までの道のりがいつもよりずっと遠く感じた。
バス停に着くと、2つ上の学年の先輩がすでに到着していた。この先輩とは仲が良く、学校の話や好きな映画(ハリー・ポッターなど)の話をよくしていた。
夏休みにやってみたいことや宿題の話などをしているとバスが来た。午後から授業の近隣の大学生も多く乗ってきており、荷物を倒さないようにしながら2人でどうにかバスの中ほどに移動した。
バスが広瀬川に架かる橋を渡っている中、その先輩がボソッと呟いた。

「俺の兄貴さ、こないだここでカッパに会ったんだよ。」
耳を疑うことだった。詳しく尋ねると、先輩のお兄さんが河原を歩いていたところ、ケータイ電話を川に落としてしまったのだという。そのまま、笹舟のように流れていくのかと思いきや、突然、川の中から自分と同じくらいの背丈の全身金色の半魚人のような生き物が現れたのだという。甲羅は背負っていなかったそうなのだが、てっぺんに髪の毛がなく、口が尖っていたことから、カッパに違いないと思ったらしい。そのカッパは川に潜ってケータイ電話を拾い上げ、先輩のお兄さんに手渡し、そのまま川の中へ潜っていったという。
残念ながらケータイ電話は壊れてしまったものの、先輩のお兄さんはとても嬉しかったのだそう。

今思えば、私をからかう為に(喜ばすために?)先輩が考えた作り話だったのかもしれないが、当時の私にとって、その話はとてもワクワクする出来事だった。
家の周りで虫取りをするとき、プールに泳ぎに行くとき「カッパに会えるかもしれない」なんて心躍らせたものだった。

今の小学生であれば、すぐに「カッパ いるいない?」などとインターネット検索で真偽を確かめたりもするかもしれない。それもそれで悪くはないが、  「カッパっているのかなあ?」
なんていうワクワクは半減してしまう気がする。調べれば大抵のことが出てくる便利な世の中になったが、このような「よく分からないもの」に思いを馳せるのも面白いものだ。
特に夏休みといえば、怪談や不思議な話などの舞台になることが多い。夏祭りやお盆など夜に出歩く機会も増えるからだろうか。そんな、「よく分からないもの」も、夏休みに独特の魅力を持たせている要因の一つではないだろうか。

今年の夏休みは、久しぶりにあの橋へ行ってみようかと思う。

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